ここでは、2015年PISA調査で取り上げられた「いじめ」についての調査結果を見てみよう。 「いじめ」調査はOECD33カ国、パートナー国21カ国、合計54カ国の結果を得られるが、まず、日本と主要先進国とを抜き出して比較してみよう。 「何らかのいじめ」を受けている日本の生徒の割合は21.9%と主要7カ国の中では英国に次いで多くなっており、いじめが多い国といわざるを得ない。 いじめの種類については、いずれの国も「からかい」が最も多いという共通点もあるが、何が多いかは、国により、やや異なっている。 例えば、主要7カ国における日本の順位は、「からかい」と「こづきまわし」は1位で多いが、「仲間はずれ」、「持ち物隠し・破損」、「悪いうわさ」は6位、「脅かし」は5位と低い方に属する。 「からかい」に次いで多いいじめを見ると、英国、米国は「仲間はずれ」であり、フランス、スウェーデン、ドイツ、韓国では「悪いうわさ」となっている。2位が「こづきまわし」であるのは日本だけである。 日本で「こづきまわし」のいじめが多い理由は、私見では、身体接触に抵抗が少ない国民性によるものと思われる。 日本で多い「からかい」や「こづきまわし」では、日本の場合、勉強の出来ない子というより勉強のできる子へのいじめが多くなっており、欧米や中国のような弱い者いじめの側面は弱いことがより詳しい分析で分かる(図録3942m参照)。 いじめの頻度別のデータを次表に掲げた。「月数回以上」のデータから日本はいじめの多い国としたが、「年数回以上」であると主要国の中で韓国に次いでいじめが少なくなっており、OECD33カ国の中でも25位と低い。OECDの報告書が「年数回以上」データに近い総合指標に基づいてトータル・ランキングを作成しているので、これに引きずられて、文科省研究所の報告書や報道(日経新聞電子版2017年5月2日)は、日本をいじめの少ない国と結論づけてしまった。 「月数回以上」やさらに「週1回以上」の割合は、日本の場合、それぞれ、21.9%、10.7%であるが、OECD33カ国の中の順位は、7位、5位と高く、繰り返しいじめを受けている生徒は多いと言わざるを得ない。
主要先進国だけでなく、調査対象国54カ国全部を比較した上のグラフを見てみる次のような点が読み取れる。
学校においては、学業成績にせよ、生徒の生活・意識にせよ儒教圏の国であるかどうかが大きく影響する(成績については図録3940、生活・意識については図録3942a、図録3942eなどを参照)。 しかし、いじめについては儒教圏かどうかは余り関係ないようだ。「何らかのいじめ」が首位である香港や11位のシンガポールに対して、同じ儒教圏である韓国、台湾は下から4位、2位といじめが少ないのである。 日本は「何らかのいじめを受けた」が54カ国中19位と上から3分の1ぐらいの位置にある。いじめが少ないとはえいないが、特に多いともいえない水準である。 ただし、いじめの中で、「からかわれた」は6位、「こづきまわされた」は3位とかなり高くなっており、この面ではいじめが多いといわざるを得ないであろう。 主な国の中では、香港のほか、ロシアやタイ、ニュージーランドなどでいじめが多くなっている。 逆に、いじめが少ない点で目立っているのは、上述の韓国、台湾以外では、ポルトガルやオランダである。なぜオランダの値が最低なのか、知りたいところである。 なお、勉強の出来ない子、家庭環境の恵まれない子へのいじめだけに限定すると日本のいじめは余り多くない点については図録3942mを参照。 日本における職場のいじめ・パワハラについては図録3264、図録3265参照。 図で取り上げた54カ国は、以下である。香港、ラトビア、ドミニカ共和国、チュニジア、ロシア、マカオ、タイ、アラブ首長国連邦、ニュージーランド、チェコ、シンガポール、カタール、ブルガリア、オーストラリア、英国、スロバキア、北京上海江蘇広東、コロンビア、日本、ポーランド、コスタリカ、ハンガリー、カナダ、エストニア、メキシコ、デンマーク、オーストリア、米国、トルコ、ベルギー、ペルー、キプロス、チリ、フランス、スウェーデン、ノルウェー、ブラジル、クロアチア、ウルグアイ、フィンランド、スイス、ギリシャ、リトアニア、スロベニア、モンテネグロ、ドイツ、ルクセンブルク、アイルランド、スペイン、アイスランド、韓国、ポルトガル、台湾、オランダ。 (2018年6月20日収録、6月22日頻度別データ、2019年8月5日年1回以上、月1回以上を年数回以上、月数回以上に修正)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|