国際的な学力調査として関心が集まるOECDのPISA調査では、学力テストに合わせて、就学上の状況の調査として、学級秩序や生徒・教師関係について、直接、生徒に聞く調査を実施している(調査の概要や学力調査の結果は図録3940参照)。 資料の出所は、調査結果の概要を分かりやすく紹介している"PISA at a Glance"である(4. What Makes a School Successful?-Trends)。 師弟関係(Teacher-student relations)についての設問から"PISA at a Glance"が取り上げているのは図に掲げた2設問である。 学級秩序では世界トップであった日本であるが、師弟関係のランクは低水準である。先生が生徒の言いたいことを聞いてくれるかについての第1設問では41カ国中、下から10位、困ったときに先生から助けてもらえるかについての第2設問では下から2位である。金八先生は日本ではそう多くないのだ。多くないからドラマの題材となる訳である。 この2設問ともに、学級秩序と同様、途上国では高く、先進国では低いという一般傾向にある。第1設問の上位5位は、アルバニア、ペルー、タイ、ポルトガル、ハンガリーであり、フィンランド、イタリア、フランスなどは日本より低い。第2設問の上位5位は、アルバニア、ポルトガル、カナダ、香港、英国であり、ドイツは日本ほどでないが低いランクである。金八先生は途上国に多く、先進国には少ないのだ。 となると、片方で高く、片方で低い日本の学内秩序・師弟関係は少し特殊ではないかということとなる。そこで、学級秩序(図録3942)の第1設問とこの図録の第1設問をそれぞれY軸、X軸にとった相関・散布図を下に描いてみた(単年度のデータしかない国のうち中国系住民の多いアジア4か国を加えている)。 この相関・散布図は、基本的には、学級秩序と師弟関係(緊密度)は比例しており、途上国ほど学級秩序は保たれ、生徒と教師の関係は緊密であることが分かる。逆に先進国では、両方ともダメである。先生が一生懸命なら生徒も真剣に先生の言うことをきくし、逆なら逆という関係になっているのである。
こうした平行関係から左上方向にはずれているのが、日本、韓国、香港、マカオ、台湾、インドネシアといったアジアの国々である。ドイツも実はこのアジアグループに近い。そしてこれらの国々のうち、日本、韓国、香港は、学力はかなり高いグループなのだ(図録3940)。 日本だけが特殊でないことが分かる。おそらく、儒教精神が残っている国では、生徒と先生の間には一定程度の距離がある方が授業の緊張関係を保てるという側面があるとも考えられる。単純に、師弟関係の緊密度・希薄度を論評して、良い悪いとは言えないのかも知れない。なお、この図から儒教度を測るとすると上海とシンガポールは儒教国的な色彩は薄くなっているといえよう。 棒グラフで取り上げた41カ国を第1設問の高い順に掲げると、アルバニア、ペルー、タイ、ポルトガル、ハンガリー、メキシコ、ルーマニア、ブラジル、カナダ、アイスランド、米国、アルゼンチン、ロシア、ニュージーランド、チリ、スウェーデン、オーストラリア、デンマーク、ブルガリア、スイス、ラトビア、英国、ドイツ、イスラエル、スペイン、ベルギー、香港、リヒテンシュタイン、オランダ、インドネシア、ルクセンブルク、日本、アイルランド、フィンランド、イタリア、ギリシャ、フランス、ポーランド、韓国、チェコ、ノルウェーである。 (2011年4月14日収録、2012年6月18日相関図に東アジアの4か国を追加)
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