国際的な学力調査として関心が集まるOECDのPISA調査では、学力テストに合わせて、就学上の状況の調査として、学級秩序や生徒・教師関係について、直接、生徒に聞く調査を実施している(調査の概要や学力調査の結果は図録3940参照)。 資料の出所は、調査結果の概要を分かりやすく紹介している"PISA at a Glance"である(4. What Makes a School Successful?-Trends)。 学級秩序(Disciplinary climate during lessons)についての設問から"PISA at a Glance"が取り上げているのは図に掲げた2設問である。グラフはこの資料と同様の描き方を採用しているが、棒グラフの大きいほどプラス方向となるよう否定的な設問をさらに否定する度合いを表示している。 これを見ると、第1設問の「生徒が教師の言うことを聞いていない」かどうか、また第2設問の「生徒が静かになるまで教師は長く待たなければならない」かどうか、の2点について日本の子ども達の9割以上が、そんなことはないというプラスの評価をしており、この比率は、両方とも何と世界一である。 最初、英語の原文を見たとき、てっきり逆だと思った。すなわち日本の学級崩壊は世界の中でも最悪なのかと勘違いした。よくよく読むと実は学級崩壊などは世界の中でも最も少ないのだ。識者や関係者、また報道、学園ドラマが形成する既成概念は何と強いものかと改めて感じた。何だ、日本の教師は世界の中ではもっとも楽チンな環境で仕事をしているのじゃないか、と正直思った。次ぎに、日本の子ども達はおとなしすぎるのではないだろうか、学校が子ども達を制御しすぎているのではないだろうか、とも感じた。これは、日本の場合、1教師当たりの生徒数が先進国としては多すぎることと大いに関係しているであろう(図録3870)。 図に掲げた41カ国の順位を見てみよう。 途上国や少し前まで途上国だった国で秩序が保たれていることが目立っている。生徒が先生の言うことを聞いているかに関する第1設問では、日本に次いで、タイ、韓国、アルバニア、ルーマニア、香港が高く、その後に、やっと先進国のドイツが顔を出す。先進国は概して低いが、米国、あるいは英国はまだ良い方であり、フランス、イタリアはずっとランクが低い。また、学力ランキングでトップ集団のフィンランドは、下から3番目である。フィンランドでは先生の言うことを聞いていない生徒が多いのに、学力の成績は良いと言うわけである。最低ランクはギリシャである。ギリシャでは先生の言うことを生徒が聞いていない割合が45%と非常に高い。 2000年調査から2009年調査への変化を見るとイタリア、アルゼンチンに次いで下から3番目だった韓国は、大きく順位を上昇させ上から第3位になっているのが目立つ。一般傾向としては上位国では上方シフト、下位国では下方シフトが目立つ。つまりこの設問は変動が激しい。 生徒が静かになるのの時間がかかるかに関する第2設問のランキングはほぼ第1設問と同様の傾向にある。日本を除く先進国では生徒はうるさいのが通例である。フィンランドも下から3位である点が同じである。こちらの最下位はアルゼンチンである。 2000年からの変化は、全体に上方シフトが見られる。すなわち第1設問と異なり順位の変動は大きくない。2000年当時最下位と下から2番目だったインドネシアとイタリアで水準が大きく上昇し、改善が進んでいるのが目立っている。 師弟関係(生徒・教師関係)やそれと学級秩序との関係については図録3942a参照。 取り上げた41カ国を第1設問の高い順に掲げると、日本、タイ、韓国、アルバニア、ルーマニア、香港、ドイツ、インドネシア、ペルー、ロシア、メキシコ、ポルトガル、イスラエル、ラトビア、米国、ブラジル、スウェーデン、アイスランド、チリ、スペイン、英国、スイス、ベルギー、デンマーク、リヒテンシュタイン、カナダ、ハンガリー、ブルガリア、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、ポーランド、アルゼンチン、ノルウェー、イタリア、フランス、アイルランド、チェコ、フィンランド、ルクセンブルク、ギリシャである。 (2011年4月11日収録)
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