糖尿病(diabetes mellitus)は、血糖値が病的に高い状態をさす病名であり、「インスリン依存型」と「インスリン非依存型」の2つのタイプがある。インスリン依存型は、先天的にインスリンが不足するために高血糖になるタイプで「1型糖尿病」とよばれ、多くは児童期に発症する。インスリン非依存型はインスリンは分泌されているものの、その働きが悪いために糖をエネルギーに変えることができず高血糖となる成人に多いタイプで、「2型糖尿病」とよばれている。日本人の糖尿病患者のほとんどが「2型糖尿病」である。

 糖尿病は高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると血中の高濃度のグルコースがそのアルデヒド基の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質と結合する糖化反応を起こし、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、眼、腎臓、神経など重大な障害を及ぼす可能性があり、また、その他、足の壊疽(えそ)により足を切断しなければならないこともある。糖尿病治療の主な目的はそれら合併症を防ぐことにある。

 糖尿病の四大原因は、加齢、遺伝、肥満、運動不足と言われる。先進国を中心にその他の国でもその影響は増加しつつあり、「高血糖」は、「高血圧」、「喫煙」、「肥満」、「運動不足」と並ぶ主要な死亡要因と考えられている。もともとヒトがヒトに進化したのは長い狩猟採集時代を通してであり、たかだか1万年前からの穀物を多く摂取する農耕時代以降の食生活には、なお、身体的に適応しておらず、特に運動量が減少した現代においては人間は糖尿病にならざるを得ないという考え方があり、この考え方からは、食生活上、糖質を抑え(いわゆる低糖質ダイエット)、それと同時に運動を欠かさないことが疾病対策上重要だとされる。

 「患者調査」は3年に1度、全国で実施されている。2017年調査の調査期間は、2017年10月のうちの3日間の特定の1日。抽出した病院6,427、一般診療所5,887、歯科診療所1,280で、入院・外来患者約228万人の情報を集め集計している。

 患者調査の結果にもとづき、主な疾患の入院患者と通院患者を推計した総患者数については図録2105参照。これによると糖尿病の総患者数は、高血圧、歯周病に次いで多くなっており、国民病とでもいうべき状況となっている。もっともこれは世界的傾向であり、国際比較では日本人の糖尿病は多いとはいえない(図録2177参照)。

 ここでは、患者調査による糖尿病の総患者数について、1996年からの推移と最新年の男女年齢別総患者数と対前期増減を掲げた。都道府県別の糖尿病の総患者数は図録2128に掲げた。

 糖尿病の総患者数は1999年の211.5万人から2017年の328.9万人へと18年間に5〜6割の増加となっている。特に最近の増加が目立っている。

 年齢別では若い世代には少なく、50歳代以上、特に60歳代以上で多くなっている。男女とも70歳代の患者が最も多くなっている。40歳代では、男の患者数が女の患者数の2倍前後となっている点が目立っている。

 男女別では各年齢層で男性が女性を上回っている(母数の人口で女性が男性を大きく上回る80歳以上を除く)。増加率についても18年間に男性は65.6%増と女性の44.2%増をかなり上回っている。

 2014〜17年の増減数では、男では70歳代と80歳以上の増加が最も多く、女では80歳以上の増加が最も多く、男女ともそれ以外の年齢の増加は余りない。


 総患者数を人口で割って男女年齢別の患者率を算出してみると上図の通りとなる。男性の方が女性より糖尿病になる率は高い。また年齢が高いほど糖尿病患者となる率は多い(80歳以上では70歳代より率は低まるが)。男70歳代では人口の8.9%が糖尿病患者である。

 点線で3年前のデータを示しているが男女とも各年齢層の患者率は余り変っていない。この点はがんの性・年齢別の患者率の変化と同様である(図録2157f参照)。

 糖尿病患者の増加は、受診率の上昇と高齢化という2つの要因によるものであるが、最近は高齢化要因のみが目立ってきている。

 糖尿病であっても治療を行わない潜在患者が少なくなってくれば、病院に来る患者数は増える。厚生労働省の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる者」(糖尿病有病者)に対して治療の有無をきいている。この調査の結果では、「治療あり」の比率は1997年の45.0%から2017年の69.6%へと大きく上昇している。こうしたデータから潜在患者まで含めた総患者数の推移を推計したグラフを下に掲げた。

 これを見ると糖尿病の患者は増えているとは単純にはいえないことが分かる。健康への関心の高まりによって糖尿病への懸念も国民の間で強まり、結果として、受診率が向上し、病院に行く患者数が増えているといえる(糖尿病の診断基準が引き下げられたことも影響している点についてはコラム参照)。

 次に高齢化の要因であるが、糖尿病が大きな話題となるのは高齢者が増えているからであることはいうまでもない。糖尿病の死亡率は上昇しているが、年齢構造が同一だとしたらどう推移しているかを見た年齢調整死亡率は以下に見るとおり、むしろ、低下傾向にあるのである。この点はがんの死亡率と同じである(がんの死亡率については図録2080参照)。

 潜在患者まで含めた患者数が、高齢化が進んでいるにもかかわらず余り増えていないということは、実は、糖尿病患者は減っているという結論となるが、糖尿病による年齢調整死亡率の低下はこの結論を裏打ちしているといえよう。


【コラム】ほんとうに糖尿病や高血圧症は増えているのか

 本文でも触れたとおり、年齢調整死亡率の推移からは糖尿病で死ぬ人は減っているといえる。糖尿病の患者が増えているように見えるのは高齢化の要因のほかに診断基準の変更があるともいわれる。以下に間違った診断基準が病人を増やし、勘違いが弊害を生む健康ブームにむすびついていることに警鐘を鳴らしている柴田博氏(桜美林大学名誉教授・特任教授、医学博士)の言を聞こう。引用は「ここがおかしい 日本人の栄養の常識 -データでわかる本当に正しい栄養の科学-」技術評論社(2007年)による。

「実は診断基準が変わったことで糖尿病が増えているように見えるだけで、実際にはまったく変わっていない。健康科学の常識のある人なら、国民のエネルギー摂取量が1割以上も減っている国民に、糖尿病が急増するなどということがあり得ない、とすぐ気づくはずだ」(p.98)。国民のエネルギー摂取量の減少については2016年7月6日発表のダイヤモンド・オンラインのコラム記事を参照されたい。

「奇妙なことに、日本糖尿病学会は1999年、空腹時血糖に関する糖尿病の基準を、それまでの140mg/dl以上から、126mg/dl以上へと引き上げてしまった。これは米国の学会や世界保健機関(WHO)の方向に従ったものである。しかし、無症状の140mg/dl以上の人に関してさえ、治療した方がよいとする確固たるデータは存在しない。まして基準値を引き下げる必要など、まったく認められない。筆者の邪推であることを願うが、世界保健機関(WHO)が高血圧や糖尿病の基準を下げるには、何か別の魂胆があるのではないかとも考えざるを得ない」(p.101〜102)。

「血圧も国民の生活が豊かになれば低下していくことは、わが国の例をみても一目瞭然である。アメリカのフラミンガム研究においても、同じ年代の親より、子供の血圧が低いことが実証されている(この点については図録2175からも明らか−引用者)。

 さらに、同じ血圧のレベルであっても、過去より現在の方が、脳卒中や心臓病になりにくくなっている。脳卒中や心臓病などの循環器疾患の死亡率が、昔より減少しているのは、食生活の改善、過酷な肉体労働の減少、レジャーやスポーツ時間が増えたことなど、ライフスタイルの変化が大きな要因である。

 このように、現在は循環器疾患の発生率や死亡率自体が減少しているのであるから、むしろ循環器疾患に該当する血圧の基準値自体を引き上げるほうが妥当なはずである。「あなたの血圧は高いから、このままでは脳卒中になりますよ」ではなく、高血圧に該当する基準をもっと上げるべきなのだ。それにもかかわらず血圧の基準は下げられている。誠に奇妙なことである」(p.102〜103)。

(2015年12月24日収録、2016年1月4日患者率グラフ追加、7月2日コラム追加、8月14日患者率グラフに前回値、2017年9月27日潜在患者を含めた総患者数推計、2019年3月5日更新)


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