世界全体では、平均寿命が延びたことや、生活スタイルの変化により、かつては豊かな国のものと思われていた慢性疾患が途上国でもみられるようになった点が指摘される。高血圧はいまや世界で4人に1人、糖尿病は10人に1人が罹患しているのである。 高血圧はサハラ以南アフリカやロシアで特に多く、ヨーロッパのドイツやスウェーデンや中国でも世界平均を上回っている。日本は比較的すくない方である(注1)(注2)。 糖尿病は、米国、ロシア、ドイツが世界平均を上回っている。高血圧では最低ランクだった米国が糖尿病では最高ランクとなっているのが印象的である。またロシアが両方で上位なのも目立っている。日本は韓国とならんで糖尿病でも割合は低い方である。 男女差については、サハラ以南アフリカのように差が小さい場合(あるいは糖尿病では逆転)とドイツやフランスのように女が男を大きく下回るかたちで男女差が大きい場合とがある。日本もどちらかというと男女差がある方である。 日本人は塩分の採りすぎで高血圧が多い、あるいは日本人は遺伝的に糖尿病になりやすい人種といわれることが多いが(注3)、データを見る限り、そうであるにしても現状では改善努力がみのってそれほど悪くないレベルに達していると考えざるをえない。日本人血圧の推移については図録2175参照。 なお、糖尿病についてはオセアニア諸国で罹患率が高いことが知れれている。近くの国でもフィリピンとは明確にレベルが異なっている。
糖尿病の出現頻度が場合によって非常に高くなる理由として、倹約遺伝子仮説(thrifty genotype hypothesis)で説明されることが多い。これはかつて飢餓に見舞われることが多い環境に対して血糖値が低下しにくい遺伝素因をもつに至ったグループが近年になって栄養摂取量が増え、運動量が低下すると一気に糖尿病が発現するという考え方である。オセアニアの島々の住民は、彼らの祖先がカヌーを用い遠洋航海をして移住するさなかでこうした特質を獲得し、そのためオセアニア諸島の近代化が進んだ国や都市部では、糖尿病の罹患率が顕著に高くなっているのだと解釈されるのである(大塚ら2012、ハワイ人などの身体の大きさについての同様な説明は図録2190参照)。
*参考文献 ・大塚柳太郎ほか(2012)「人類生態学 第2版 」東京大学出版会 ・鳥居邦夫(2013)「太る脳、痩せる脳 」日経プレミアシリーズ (2012年6月10日収録、6月11日(注)を追加、2013年9月30日鳥居(2013)引用追加、2014年6月10日注2追加)
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