【クリックで図表選択】

   

 公式・非公式のデータを合計してWHOが推計した世界各国の成人(15歳以上)の1人当たり純アルコール換算消費量を189カ国について地図で示し、OECD諸国とBRICsについて棒グラフで掲げた。表示選択で2008年データも掲げた。

 アルコールの内訳の1つであるビールの消費量については図録0434参照。ワインの消費量については図録0435参照。

 OECD諸国とBRICsの対象国では、アルコール消費量の多い順にチェコ、ラトビア、ドイツ、オーストリア、リトアニア、アイルランド、ポーランド、ルクセンブルク、フランス、エストニア、スロベニア、スペイン、英国、ハンガリー、スロバキア、ポルトガル、ロシア、スイス、ベルギー、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国、デンマーク、スウェーデン、オランダ、フィンランド、南アフリカ、韓国、アイスランド、イタリア、ブラジル、ギリシャ、ノルウェー、チリ、日本、中国、メキシコ、インド、コロンビア、コスタリカ、イスラエル、トルコとなっている。

 2019年と約10年前の2008年を比較するとほとんどの国でアルコール消費量が少なくなっていることが分かる。特に、ロシア、エストニア、リトアニアなど旧ソ連圏諸国での低下が目立っている。社会の安定化によるものと考えられる。韓国の消費量もかなり落ちており、飲酒習慣の変化がうかがわれる。

 OECD諸国の中では多消費国のラトビア、ドイツ、オーストリアの消費量がほとんど変わっていないのがかえって目立つような状況である。ラトビア人の飲酒好きについては佐藤優(2023)「それからの帝国」(小説宝石連載時題名「酒を飲まなきゃ始まらない」)にも詳しい。

 それ以外の地域的な特徴は以下のコメントで記した通りである。

(2008年データによるコメント)

 世界の中ではウガンダは例外として、モルドバ、ベラルーシ、ウクライナ、エストニア、リトアニア、ロシアなど旧ソ連諸国がもっとも多い。これらの国は飲酒好きだから多いというより、アルコール中毒が社会問題となっている点が特徴となっている。

 ロシアのアルコール依存はなお深刻であり、2016年12月には、東シベリアのイルクーツクで、エタノールの代わりにメタノールを使った入浴剤の偽物を酒代わりに飲んで70人以上が死亡する事件までが起こっている。

 事件を報じた朝日新聞(2016.12.28)は酒代わりに飲んだのは入浴剤でなくローションとしていたが、同紙によると「日本でも終戦直後、工業用アルコールなどを使った「バクダン」と呼ばれる酒が出回っていた。ロシアでは旧ソ連時代から、酒の入手が難しい時は工業用アルコールのほかオーデコロンや洗浄液も飲まれていた。靴墨をパンに塗り、アルコール分を染みこませて食べる人さえいた。特に1985年、ペレストロイカ(改革)の一環で節酒令が布告され、酒が大幅に値上がりした。タクシー運転手は「困って代用品を飲んだら大丈夫だった。安心して広まった」と振り返る。最近では酒の入手に困ることはない。それでも、低所得者層や若者に人気がある」。

 東京新聞(2016.12.29)によると「入浴剤には飲用禁止の表示はあったが、75〜90%のアルコールを含んでおり、事実上の代用酒として流通していたとみられる。(中略)ロシアではソ連時代からアルコールの過剰摂取が深刻な社会問題。プーチン政権発足後もアルコール度数の高いウオッカなどへの課税強化や、夜間の酒類販売規制といった措置をとってきた。しかし、ロシアのシンクタンクは、2000万人以上が密造酒や化粧品など法規制の枠外のアルコールを飲んでいると推計する」。

 つまり日本でもビールへの課税を回避できるため安価で流通するビール風アルコール飲料が人気となったように、課税逃れの代用酒として入浴剤など種々の商品が売られていたということなのだろう。朝日新聞の報じ方は間違っていたことになる。ロシアの平均寿命が社会に蔓延するアルコール中毒で低くなった点については、図録8985や図録2774参照。

 ロシアなど旧ソ連諸国に次いで、東欧・西欧諸国の消費量が大きい。ビールの本場チェコ、チェコに影響されたドイツ、ワインのフランスなどビールやワインの本場ではやはりアルコールの消費も多くなっている。ロシアでは最近では健康的なライフスタイルが広がり飲酒量は独仏を下回ったという(図録2774参照)。

 欧米の中で、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど英語圏諸国はそれほど消費量が多くはない(英国はやや多い)。

 逆に、アルコール消費量の少ない地域は、イスラム圏の諸国、あるいは低所得地域である。アルコール消費を補うかのようにイスラム国の中にはお茶の消費量が多い国がかなりある(図録0476参照)。

 アジアは、概して、アルコール消費は少ない。これはコラムに紹介したようにモンゴロイド系の民族はアルコールに弱いからという側面も無視できない。アジアの中では、韓国が14.82リットルと最も消費量が多くなっているのが目立っている。


【コラム】日本人はお酒に弱い

 遺伝的に日本人をはじめモンゴロイド系の民族はお酒に弱い。

 ALDH(アルデヒド脱水素酵素)にはアセトアルデヒドが低濃度の時に働く「ALDH2」と、高濃度にならないと働かない「ALDH1」がある。日本人の約半数は、生まれつき「ALDH2」の活性が弱いか欠けており、アルコール分解産物である有害なアセトアルデヒドを速やかに分解できないため、少量のアルコールでも悪酔いしやすい、お酒に「弱い」体質となっている。お酒の「強い」「弱い」は遺伝による生まれつきの体質からくる側面が大きいのである。


 さらに、この点に関する民族ごとの違いについて、キリンのホームページでは次のように述べている。

「はるか昔、人類が三大人種(黒人、白人、黄色人種)に分岐した後、何故かモンゴロイド(蒙古系人種=黄色人種)の中に突然変異的に「ALDH2」の活性をなくしてしまった人が出現し、時代を経るにつれ、モンゴロイド系にはお酒に弱い人種が次第に増えていきました。今日「ALDH2」低活性型(不活性型を含む)の存在はモンゴロイドの特徴となっています。ちなみに黒人、白人には「ALDH2」低活性型はみられません。

ところで、モンゴロイドは昔、陸続きであったベーリング海を渡って、はるかアメリカ大陸にまで大旅行をし、移り住んだといわれます。このことは、アメリカ大陸先住民にモンゴロイド特有の「ALDH2」低活性型(不活性型を含む)が存在することからも裏付けられます。「お酒に強いか弱いか」という何気ないことが、最先端の科学である「遺伝子分析」の手法を通じて、人種のルーツ解明や比較人類学の進歩に役立っているのは興味深いことです。」

 日本人はこのようにお酒に弱いにもかかわらず、世界一酒好きである点については図録1972参照。
【コラム2】飲酒の起源と酒に弱い民族の起源

 NHKスペシャル「食の起源」第4集「酒」(2020年2月2日放映)では、ゴリラやチンパンジーと枝分かれする前からの人類の飲酒の起源を枝から落ちて発酵した果実からでも栄養を摂取できるようにするため他の動物には備わっていないアルコール分解遺伝子を有するようになったからとしている。

 また、モンゴロイド系の民族が酒に弱いのは、稲作民族にとって有利だったからという説も紹介している。それによれば、アセトアルデヒドの存在はかえって稲作に伴う食中毒を防止することにつながったため、それを分解する酵素の遺伝子が失われたというのである。

 また、同番組では、お酒に弱い人の国別割合や地域分布図を掲げていたので以下に示した。特にこの地域分布図は稲作が広がった地域とも重なっており、稲作関連食中毒防止説に説得力を与えている。

 お酒に弱い遺伝子は、大陸からの渡来人によって持ち込まれ、その結果、渡来人の通り道だった九州北部から近畿にかけて「下戸」が多く、それ以外の九州や東北で「酒豪」が多いという地域分布が生じたという説については、図録7720参照。


(2006年2月14日収録、2014年4月28日更新、コラム追加、2016年12月28日ロシアの偽ローションを飲んだ事にによる集団死亡事件、2020年2月3日コラム2にNHKスペシャルの内容紹介、2023年11月16日純アルコール20グラムに相当する酒量の目安、11月17日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 健康
テーマ 飲酒
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)