主要先進国について、1人当たりGDPと平均寿命の世界ランキングの推移を示した。経済と寿命のナンバーワンが日米で真逆となっている点が印象的である。

 1人当たりGDPは、1980年以降のIMFデータにもとづくランキングを図録4542に為替レート・ベースとPPPベースの両方で示したが、ここでは経済発展と寿命の関連を追うため日本の高度成長期を含む1960年からのデータを世界銀行WDIにもとづいて示した。

 平均寿命の推移は実際の値の推移を男女別に図録1610に示しているが、ここでは1人当たりGDPと同じ諸国について、国連の人口推計データにもとづく男女計のランキングを掲げた。

 2024年9月に行われた自民党総裁選(注)の立候補表明で、総合的な国力の強化が必要だとした上で「経済成長をどこまでも追い求め、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げたい」と述べ、中高年男性が多い自民党員の支持を集め1回目投票で首位に立った保守派を代表する高市早苗候補が、おそらく、国民の一部にしか受けないこんな過去の幻影を信条としているようでは次の衆議院選挙で勝てないと見なされたため決戦投票で石破茂候補に逆転で敗北した。

(注)候補者のプロフィールや選挙結果については図録j043参照。

 米国の社会学者であるエズラ・ヴォーゲルが著した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が1979年に出版され、日本でベストセラーとなった時期、確かに日本経済は高度成長の成果として人口1人当たりのGDPも世界トップへ向かって邁進していた。そしてバブル期に入って、ドイツや米国を抜き去りついに事実上ナンバーワンの地位に就いた。

 ところが、21世紀に入ってからの一気の低落は印象的である。最近の1人当たりのGDPランキングは1960年代の高度成長期初期の水準にまで落ち込んでいる。

 こうした動きを反転させ、「もう一度世界のてっぺんに押し上げる」と言うからには、何をすればそうなると言う具体的根拠をあげなければ、保守層の共感を得るため「大いなる幻影」を追っているだけと見透かされよう。

 ところで、経済成長とともに保健医療、栄養、インフラが充実し、その結果、人々の厚生水準は上昇する。厚生水準の代表的な指標は平均寿命である。日本の平均寿命のランキングは、経済の高度成長期の成果として、1980年代には世界ナンバーワンに躍り出た。

 韓国も近年経済成長とともに1人当たりGDPのランキングが上昇し、日本をもうすぐ追い越しそうな勢いであるが、平均寿命の方はすでに経済成長の成果として、急速にランキングを上昇させており、今や世界トップレベルとなっている。

 驚異的だと思われるのは、ナンバーワンに躍り出たことより、むしろ、経済のランキングがどんどん落ちて行っても厚生の水準を示す平均寿命のランキングがほぼ世界ナンバーワンを維持し続けている点である。

 保守派候補の立候補宣言は、したがって二重の意味で誤りだと言えよう。すなわち経済のてっぺんを再び実現するというのは幻影だという点がひとつ、そして二つ目は、日本は経済だってそれが目的の厚生水準ではてっぺんを維持しているという認識が欠落している点である。

 一方、図で、もうひとつ印象的なのは、米国の動きである。米国は経済のナンバーワンの地位を少なくとも小国を除く主要国の間では維持している。米国は世界の中でてっぺんの経済の国なのである。ところが平均寿命のランキングでは、もともと高いランクにはなかったが、今や、主要な先進国の中で最低の地位(すなわち最も寿命の短い国)を継続しているのである。経済でトップの国が厚生水準で最下位の国なのである。すなわち日本と米国はこうした点で真逆なのである。とんでもなく皮肉な状況であると言わざるを得ないだろう。

 こうした日米の平均寿命推移の差をもたらしている健康リスクの状況については図録2075に掲げたが、日本は塩分摂取など一部を除いて、食生活関連リスク(肥満リスクを含め)や環境面を含むその他のリスクを注意深く回避しているため、世界1の平均寿命を維持し続けている一方、米国は、食生活、アルコール、薬物などでリスクを高め、あるいはリスク回避より経済を優先しているため、平均寿命最下位の地位に甘んじざるを得ない状況になっているのである。

 言い換えれば、日本人のモットーは「細く長く生きる」であり、米国人のモットーは「太く短く生きる」であると捉えられよう(図録1710参照)。

 経済も寿命も両方ナンバーワンを維持するのは無理なのであり、経済ナンバーワンを目指すならせいぜい米国に近づくしかないが、そもそも日本の保守層に寿命を犠牲にして経済ナンバーワンを目指す覚悟などありはしない。

 日米以外の先進国の代表としてドイツの推移を青線で色付けして示したが、ドイツは日本とドイツの中間的な地位、それも米国に近い地位を占めてきていることが分かる。

 かつての日本や近年の韓国のように経済発展が寿命の伸びにむすびついていた時代は、少なくとも先進国の間では、日本と米国の逆行現象のように過ぎ去ってしまったのであろうか。この点を確かめるため、この図録のランキング・データを使って、1人当たりGDPランキングと平均寿命ランキングの相関係数の推移を下図に掲げた。かつて両者は並行的だったのが、今では両者の逆行的な側面によって打ち消され、相関係数がマイナスとなる年次もあらわれている(注)。すなわち相関が見られなくなる。経済の発展水準が一定レベルを超すと寿命までもが法則的なものから選択的なものに変化するのだろうか。


(注)新型コロナの世界的流行で2020〜22年は、おそらくワクチンの調達なども経済力が左右するのだろうか、経済と寿命の相関が一時復活したが、23年には、再度、長期傾向に戻った。

(2024年10月11日収録、10月14日経済と健康の相関係数)


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