乱立する党首選立候補者

 早ければこの秋、遅くとも来秋までには、政権選択のかかる衆院選が控える中、今月、国会の第1党と第2党の党首選が、同時並行で行われることになった。自民党が、再選を断念した岸田首相の後任を選ぶ総裁選の日程を9月12日告示、27日投開票と決めた。野党第1党の立憲民主党は、泉健太氏の任期満了に伴う代表選を9月7日告示、23日投開票で実施する。

 自民党の新総裁は次の首相となり、立憲民主党の代表は来たる衆院選で、その首相に挑む「首相候補」になる。また、勝った候補者の掲げた政策が、それぞれの党の軸となり、衆院選の選挙公約につながる可能性も高い。このため、国民の関心はいやでも高まらざるを得ない。

 派閥解消の流れの中、同じ旧派閥から2人の候補者も出るなどで、この自民党総裁選ではこれまでになく多くの候補者が名乗りを上げている。

 今回の時事トピックスでは、両党首選について、もちろん言えることに限界はあるものの、年齢、地域など統計データで追える限りの分析を試みることとしたい。

党首選の結果

 ダブル党首選の結果は以下の通り。


 立候補表明で、総合的な国力の強化が必要だとした上で「経済成長をどこまでも追い求め、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げたい」と述べ(NHK、2024.9.9)、中高年男性の保守層が多い自民党員の支持を集め1回目投票で首位に立った高市候補は、おそらく、国民の一部にしか受けないこんな過去の幻影を信条としているようでは次の衆議院選挙で勝てないと見なされたため決戦投票で石破候補に逆転で敗北した。

各候補のプロフィール

 ページ末尾に、各候補者のプロフィールを表のかたちで整理した(こちらの表には冒頭図と異なり9月5日までに立候補を宣言したり、立候補に意欲を示している候補予定者を含む)。

 自民党総裁選の立候補予定者については肩書、年齢、選挙区、当選回数、世襲基盤、学歴、配偶者について、立憲民主党代表選については、このうち世襲基盤、配偶者を除いた項目を掲げた。

 図にした年齢や選挙区地域については、下で別個にふれるとして、それ以外の項目を実際には立候補しなかった3人を含めて概観しておこう。

 当選回数については、自民は4〜12回、立憲は吉田候補を除き7〜10回となっており、立憲が基本的にキャリアの長い議員が多いのに対して、自民は4〜5回と比較的キャリアの比較的短い議員も複数含まれている。

 当選回数を重ねた重鎮議員しか立候補を予定していないという点からは立憲の方が古色蒼然と言わざるをえないだろう。自民の方は派閥解消の効果が多かれ少なかれ出ているのかもしれない。

 自民について親族の地盤を引き継いでいる世襲議員は11人の候補予定者のうち6人と過半数である。4人は父親の地盤を引き継ぎ、父親以外では、野田聖子候補は祖父、加藤勝信候補は妻の父親の地盤を引き継いでいる。

 年齢との関係では、世襲議員の方が年齢の割に当選回数が多いことが分かる。例えば、茂木敏充候補と石破茂候補は1歳違いだが当選回数では父の後を継いだ石破候補の方が2回も多くなっている。小泉進次郎候補が43歳という若さで5回の当選回数を重ねているのは、当然、父親の小泉純一郎元首相の後を継いでいるからである。年齢より当選回数で党内の地位と役職上の出世が決まる側面が大きいので、当然、世襲議員の方が早く偉くなる可能性が高くなるのである。

 学歴については、自民の場合、11人中、過半数の6人が東大卒である。学歴的には小泉進次郎候補がやや見劣りがするのはどうしようもない。学歴を自民と立憲で比べると、立憲は野党らしく私学が多く、自民の方が立憲より高学歴とは言えよう。

 ここで学歴は大学のみを掲げた。米国大学の大学院卒も多いが、最初の就職先である財務省や経産省から留学させてもらった学歴である場合もあり、比較するのは適切ない側面があるからである。なお、茂木候補、上川候補、林候補、小林候補、齋藤候補はいずれもハーバード大ケネディスクール(大学院)卒であり、小林候補、齋藤候補は財務省、経産省からの留学である。小泉候補はコロンビア大大学院卒である。小泉候補については、これが「学歴ロンダリング」だと揶揄されているが入学でコネを使ったとしても厳しいとして知られる卒業を果たしているのだからロンダリングは言い過ぎだろう

 自民の場合は配偶者についても分かる範囲で記載した(女性セブン記事による)。

 政略結婚的な加藤勝信候補、タレント政治的な小泉進次郎候補、及び独身候補者1人を除くと大学同級生が多く、高学歴、高キャリアの才媛・やり手イメージの配偶者が多い。昔ながらの内助の功のイメージからは遠く、候補者本人と共にわが国のトップ・エリート層をなしていると考えられよう。

 高度成長期の田中角栄元首相のようなたたき上げの政治家が政権トップに就任するという事態は、社会が安定した現代では望むべくもないのではなかろうか。

年齢についての選択の幅は広がったが…?!

 党首選の候補予定者の年齢については、冒頭にグラフを掲げた。

 自民の候補は上川陽子候補の71歳から小泉進次郎候補の43歳まで28歳の幅がある。立憲の候補が野田佳彦候補の67歳から泉健太候補の50歳まで17歳の幅であるのと比較すると人数が多い分、選択の幅が広いともいえる。

 また、女性候補についても、自民は2人であるのに対して立憲は1人であり、こちらでも自民の方が選択の幅はやや広い。

 高齢批判がもしあるとすれば、上川陽子候補の71歳であるが、米国のトランプ候補の78歳と比べればだいぶ若いし、先ごろ選挙が終わり当選した東京都知事の小池百合子知事の72歳(選挙時は71歳)も高齢批判の対象とはならなかったので、余り問題はなかろう。

 不明瞭な政治とカネの問題が発覚してから派閥は解消されることとなり、自民党の体質を変えるという大きなテーマを課せられた今回の自民の党首選では、当然、旧態打破がしやすい若い力が求められることとなる。少なくとも次の国政選挙の顔としての役割が今回の党首選で重要であることを考えるとますますそう言えよう。

 そういう意味からは小泉進次郎候補が43歳と非常の若く、しかも「お・も・て・な・し」で国民に広く知られた元女性アナウンサーを配偶者としていてタレント政治的にも花があるので、次も当選したい自民党の現衆議院議員としては小泉候補を推そうという力学が大きく働くに違いない。

 しかし、政権トップとしての適格性という点ではクエスチョンマークが付される。能力の点はさておき、学歴もそう高くなく、若い故に政治交渉力にもなお成熟度が足りないと思われるので、エリート層の特色をもつ他の候補を閣僚として多く迎えることになると考えられる内閣で総理大臣として指導力を発揮できるとは余り考えられない。右往左往しそうな感じは否めず、党首選ののちすぐ解散総選挙と言うならまだしも、しばらく時をおくと、たちまち馬脚をあらわす可能性も高い。

 この点は、自民党員や現役自民党議員も見込んでいるだろうから、やはり、なかなか当選するのは難しいのではなかろうか。だとすれば、選挙の顔としての刷新イメージと未知数ではあるものの比較的安定的な政治力を期待して、小泉候補の次に若い小林鷹之候補(49歳)が、今は無名だが急浮上し、かなり有力な選択肢となるのではあるまいか。

 河野太郎候補が次に若いが、すでに61歳とその次に若い林芳正候補の63歳と大差なく、また、やはりせめて50代でないと若さという天賦のイメージを得られないので選択肢から外れるのではなかろうか。なお、米国大統領選のトランプ候補を高齢として批判するカマラ・ハリス候補はなお50代なので若さイメージをぎりぎり残している。

 女性候補でも旧態依然の体制打破への期待はかけられるが、今回の候補2人の顔ぶれからは現状刷新イメージは得にくく、女性初の首相と言う掛け声が大きくなるということはないのではなかろうか。

首都圏に多い党首選立候補者

 年齢だけを取り上げ、ずいぶんと勝手な分析を行ってきたが、最後に、候補者の選挙区地域について概観してみよう。

 候補予定者の選挙区については冒頭に掲げたが、図には、それを都道府県別に割りふったグラフを掲げ、これでの出身県別の歴代首相人数データとともに図解した。

 選挙区はすべて衆議院のものである。すなわち候補予定者はすべて衆議院議員である。これは、首相のみが行うことのできる国会の解散が衆議院にのみ認められることから、首相は衆議院議員でなければならないという政治慣行(不文律)があるためである。林芳正候補のみは参議院での当選が多かったが、首相を目指し前回選挙で衆議院に鞍替えした。

 今回、自民党党首選の候補予定者9人のうち、首都圏(関東圏)に選挙区をもつ候補が4人と約半数を占め、多くなっている。立憲民主党の代表選候補予定者の場合は4人のうち3人は首都圏であり、より集中度が高くなっている。

 明治維新が薩長など西南雄藩によって実現したこともあって、戦前の歴代首相は西日本に片寄っていたが、戦後の歴代首相では関東圏の躍進が著しい。今回の候補予定者の出身についても基本的にはこの流れに沿ったものといえよう。

 それでも自民の場合は西日本にも候補者が多く、多数の候補者を抱える全国政党としての強みをうかがわせている。

 なお、自民の高市早苗候補、石破茂候補のいずれか総裁に選ばれ、次の総理になるとしたら、それぞれ、奈良、鳥取という総理大臣非輩出県からのはじめての総理になる。NHK大河ドラマや新紙幣の話題を通じて渋沢栄一を輩出したことが知られるようになった埼玉県から総理大臣が出ていないのは寂しいが、今回、立憲の代表として枝野幸男候補が選ばれ、さらに次期衆院選で政権交代が起こるという状況が来なければ実現しないので、かなり可能性の低い将来予測だと言えよう。

各候補の政策参考資料

 参考までに東京新聞が行った党首選候補者に対する政策アンケートの結果を掲げた。



(2024年9月16日収録、9月20日読者のご指摘により修正等、9月20日〜23日政策アンケート結果、9月24日立憲民主党代表選の結果、9月29日自民総裁選の結果とコメント)


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