BMI(体格指数)の世界分布やOECD諸国の値については図録2201に示したが、OECD諸国の中で日本がもっともスリムな体型である点、また東アジア諸国でスリムな男女が多い点が明らかとなっている。

 ここでは、東アジア諸国ばかりでなく米食比率の高いアジアの国民は全般的にスリムな体型であることを示す相関図を掲げた。

 かつてはアジア諸国は発展途上の貧しい国が多く、そのため、飽食による肥満という富裕国の悪に染まっていないからスリムだと考えられていたが、いまでは日本を先頭にアジア諸国は経済発展が進み、貧しいから痩せているとは言えない(注)。そこで、アジア諸国の国民がスリムなのは、貧しさからではなく、むしろ米食民族だからと考えられるのである。

(注)実際、ここで掲げた相関図のR2値は0.5719であるが、米食比率の代わりに貧富の指標として1人当たりGDP(pppベース、2014年)を使ったR2値は0.3434であり、相関度は低くなっている。

 米食民族がスリムなのは根拠のないことでは実はない。

 米食と肥満の関係については、農水省のホームページなどで、米は粒状で噛んで食べるため、甘いお菓子やパン、ジュースなどに比べて、血糖値の急上昇を抑えることができる。また、腹持ちが良く、脂質が少ない、食物繊維も含まれるなど「体脂肪になりにくい」というメリットがあるので、米食はかえって太りにくいという説が紹介されている。

 同志社女子大学の今井智子教授らによる136ヵ国を対象とした国際調査では、米を多く摂取する国では肥満リスクが低下することが明らかになっているとされる(日本肥満症予防協会HP、2019年05月29日)。

 しかし、私の考えでは、米食と肥満度の相関から米食そのものに肥満を防ぐ効果があるとするのは誤解だと思う。

 米食と肥満はマイナスの相関関係にあるというのはここで示した相関図でも明らかであるが、どうしてかという点については米国民族だったという歴史的な経緯に要因を求める方が適切だと考えられる。

 米のアミノ酸組成の優秀性から、肉食に余り依存せず、タンパク質のほとんどを米から摂取してきた米食民族はカロリーについては過剰摂取にならざるを得ない。この点は図録0218「食品別のアミノ酸組成(日本型食生活の由来)」で詳しくふれたが、要約的な引用を食物学の篠田統「舌ざわり後あじ」から以下に再掲する。

「一般に小麦やその他の雑穀類は蛋白質の含量は高い(20%以上)が、その蛋白質はアミノ酸組成が悪く、それだけ食べていては特殊のアミノ酸(たとえばリジン)の不足をきたす。したがって、かならず優秀な蛋白質の副食物(鳥獣魚肉等)をとってその不足を補わなければならない」。これに対し米の「蛋白質は非常に優秀で、肉類のそれに近いから、その蛋白質だけで十分生理的需要を満たしうる。ただ、残念ながら、その含有量が雑穀類に比べて少ない(15〜6%)。それゆえ、米だけ食べても生きていけるが、そのかわりいちじるしく余分のデンプンを摂取することになる。高価な鳥獣魚肉が要らないから経済的ではあるが、胃の負担はぐんと重くなる。もちろん、油脂類を受けつける余裕もないし、第一、その必要もない。過剰のデンプンでカロリーは十分足りているのだから」(石毛・大塚・篠田「食物誌」中公新書、1975年、p.200〜2001)。

 そこで、摂取した過剰なカロリーを発散するため不必要な長時間労働や経済的には無駄な活動に日常的にいそしまないと気が済まないという生活習慣がついている。日本人だけでなく韓国人や中国人の日常行動を見るにつけ、不必要な行動を避け、合理的に振る舞うことが特徴の欧米人とは対照的に、しなくてもよいようなムダで余計な行動や振る舞いをする傾向にあると感じている人は多いのではなかろうか。

 すなわち、米食民族は、過剰なカロリー摂取を消化する方法が身についており、経済発展で栄養が十分に行きわたり、ある部分、飽食やカロリーの過剰摂取に至っても、無駄な長時間労働など、その分を身体運動等で発散させる習慣がついている。このため、たくまずして肥満には陥らずに済むのである。

 言い換えると、意図したわけではないが、生活習慣として無駄を避けないことによる低い労働生産性が結果として長い平均寿命にむすびついており、無駄なように見えて無駄でない側面もあるわけである。図録j044で見たように日本や韓国、香港では、1人当たりGDPと平均寿命のランキングが逆転している理由も実はここに求められるのである。

 肥満が寿命を縮めている各国の状況については図録2076参照。

 BMIに対して米食比率が相関しているのは、米食そのものに起因するからというより、米食比率が歴史的に米食民族だったかどうかの代理変数として働いているからと考えた方が合理的な見方だと思われる(図の日本の米食比率は21.6%だが1961年には46.3%でありフィリピンやインドネシアの近くにあった)。いわゆるアイスクリームの売り上げと溺死者数の相関のように2つの変数に因果関係はなく、単に暑い日には両方多くなるというだけの疑似相関だと考えられるのである。

 相関図で掲げた米食比率18%以上の米食民族の国は、バングラデシュ、カンボジア、ベトナム、マダガスカル、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、タイ、ネパール、インド、韓国、中国、マレーシア、日本、コートジボワール、ペルー、ドミニカ共和国、キューバである。

(2024年11月19日収録)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 健康
テーマ 肥満・やせ
おしゃれ
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)