しかし、平均寿命に関する国内の地域格差は、国全体の所得水準が向上しても、残存する場合があり、米国がその典型である。 米国の平均寿命は、経済が発展した先進国の中で、もっとも短い点がよく知られているが、これは、国内の地域的な健康格差の大きさによってもたらされている。その理由は、国内の所得格差そのものがなお大きいためであり、また、所得格差があっても健康格差を生じさせないような制度的な仕組み、すなわち国民皆保険を米国が先進国の中では例外的に普及させてこなかったせいでもある。 この点を、分かりやすく理解するために、州ごとの状況を日本の県別の状況と対照させながら散布図であらわした。 X軸には、1人あたりの地域GDPであらわした所得水準をとり、Y軸には、平均寿命の男女計の値をとっている。平均寿命と所得水準の地域格差を一挙に見て取ることができよう。また、米国については、2016年の大統領選の州別結果もマークの色であらわした。 特徴点は以下の5点にまとめられよう。
しかし、2016年大統領選では、本来の意図にそった医療保険改革であれば、もっとも恩恵を受ける筈の寿命の短いレッド・ステートで、かえって改革に反対する投票行動をとったため、結果として、寿命の地域格差是正へ向けた歩みは頓挫した。これはあまりにも皮肉な状況である。 これは、もはや、利害の問題ではなく、文化のちがいの問題なのではないかと思わせる。図録2787dには共和党支持層と民主党支持層とで倫理的許容度に大きな差がある点を示した。 米国における平均寿命の地域格差は、必ずしも、所得水準や無保険者の割合だけで生じているわけではない。例えば、他殺率なども、レッド・ステートでは文明国としては異例なほど高くなっている(図録8809)。そこには、太く短く生きようとする文化と細く長く生きようとする文化の対立があるのかも知れない。銃器保有率やこれと相関する自殺率の高さも同様の地域差が見られる点については図録8811参照。 そうだとすると、オバマケアの審判という側面の強かった2016年の大統領選では、老い先短い我々が、長生きするあいつらの健康保持のために、高い保険料を払わされたのではたまらないという気持ちがレッド・ステートの人びとに生じて、政権交代を促進したのかも知れない。 米国における人種別の平均寿命の推移については図録1600参照。平均寿命の地域的バラツキを各国で比較した図録1652も参照されたい。 (2016年12月15日収録)
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