1.最近の動向

〇2022年の動向

 2022年の日本人の平均寿命は女性が87.09歳、男性が81.05歳となり、前年比で女性は0.49歳、男性は0.42歳それぞれ縮んだことが28日、厚生労働省公表の簡易生命表で分かった。前年を下回るのは男女とも2年連続。新型コロナウイルス流行などの影響とみられる。

 国別順位は女性が前年と同じ世界1位で、男性は3位から4位に下がった。女性は2位が韓国(86.6歳)、3位がスペイン(85.83歳)。男性は1位がスイス(81.6歳)、2位がスウェーデン(81.34歳)、3位がオーストラリア(81.30歳)だった(東京新聞2023.7.28)。

 下で見ているように、2年連続で平均寿命が低下したのは2010〜11年以来である。

 対前年度低下の死因別寄与年数を見ると(下図)、コロナの直接的影響のほか、コロナによる医療資源の圧迫やワクチンの副作用などを通じ多くの死因で死亡率が上昇したことがうかがわれる。


〇2021年の動向

 2021年の日本人の平均寿命は女性が87.57歳、男性が81.47歳となり、前年比で女性は0.14歳、男性は0.09歳縮んだことが29日、厚生労働省公表の簡易生命表で分かった。前年を下回るのは東日本大震災があった11年以来で、男女とも10年ぶり。新型コロナウイルス流行の影響とみられる。

 国別順位は女性が世界1位で、男性は3位だった。女性は2位が韓国(86.5歳)、3位がシンガポール(85.9歳)。男性は1位がスイス(81.6歳)、2位がノルウェー(81.59歳)となった(東京新聞2022.7.29)。

 米国の寿命低下が先進国の中でも目立っている。コロナの影響もあって2020年に大きく落ち込んだが、21年にはさらに低下した。米CDCによると21年の「新型コロナによる死者は41万6893人であり、心臓病、がんについで3番目に多かった。医療用麻薬フェンタニルなど薬物の過剰摂取が原因となった死者が幅広い年齢層で増加。21年は10万6699人だった」(東京新聞2022.12.29)。

 現代ビジネスのネット記事(2023.2.25、小倉健一イトモス研究所所長)は、こうした動きの背景として「絶望死(薬物過剰摂取、自殺、アルコール乱用を伴う死)」の増加が米国内で議論されている点を紹介している。

「米シカゴ大学のケイシー・マリガン教授は、コロナ下の孤立などが絶望死を招いていると「Deaths of despair and the incidence of excess mortality in 2020」論文内で指摘している。マリガン教授は、コロナパンデミック(とそれによってもたらされた経済不況)によって、絶望死が10〜60%の増加をしていると指摘している。コロナによって社会的孤立が進み、医療用麻薬「オピオイド」など薬物の過剰摂取などによる死亡が増えたと考えたのだ。

 それに対して、米ブラウン大学のメーガン・レイニー准教授らは、「2010年代に自殺、薬物の過剰摂取、アルコールによる米国の死者が増加した。この3種類の死はすべて過去10年間、すべてのアメリカ人の間で増加している。これは、10年来の絶望感、不公平感の高まり、そして殺傷手段を容易に入手できるようになったことと並行して起きているのだ」(米サイト『STAT』2020年5月31日)と指摘している。つまり、コロナが絶望死の原因なのではなく、アメリカ社会全体が絶望死の原因ということを主張している。」

 2020〜21年はコロナの影響で平均寿命が短くなった国が多い。以下にこうした動きを示した図を図録1950d(新型コロナの影響)から再掲した。


〇2020年の動向

 2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、ともに過去最高を更新した。前年に比べ、女性は0.29歳、男性は0.23歳延び、いずれも9年連続のプラスとなった。

 フランス、イタリア、スウェーデン、米国といった国、特に米国ではコロナ禍のため平均寿命が落ち込んでいるのに対して、日本はむしろ順調な伸びを示しており、新型コロナの影響は少なくとも平均寿命に対しては目立たない。

 米疾病対策センター(CDC)は2021年12月22日に米国の2020年の平均寿命の確報値を発表した。「CDCが7月に発表したデータより寿命がさらに0.3年短くなった。20年の平均寿命は77.0歳だった。19年の米国の平均寿命は78.8歳で、第2次世界大戦の影響を受けた1943年(前年比2.9歳減)以来のマイナス幅となった。男性は74.2歳(同2.1歳減)、女性は79.9歳(同1.5歳減)だった」(日経2021.12.23)。

〇2019年の動向

 2019年の日本人の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳となり、ともに過去最高を更新した。前年に比べ、女性は0.13歳、男性は0.16歳延び、いずれも8年連続のプラスとなった。女性は5年連続で世界2位、男性は3年連続で3位だった(日経新聞2020.7.31)。

 主な国・地域の平均寿命は、女性の1位が香港(88.13歳)で、3位はスペイン(86.22歳)。男性も1位は香港(82.34歳)、2位はスイス(81.7歳)だった。

 厚労省は平均寿命が延びた背景について「健康意識の高まりや医療技術の進歩がある。今後も緩やかに延びていくのではないか」としている。同省は介護を受けたり、寝たきりになったりせずに生活できる「健康寿命」を算出しており、最新の16年は男性72.14歳、女性74.79歳だった。どれだけ平均寿命に近づけるかも課題となる。

【過去の「最近の動向」】 
〇2018年の動向

 簡易生命表に基づく日本の平均寿命によれば、2018年の日本人の平均寿命は女性が87.32歳、男性が81.25歳となり、それぞれ7年連続のプラスとなり、過去最高を更新した。女性は4年連続で世界2位、男性は前年に続き3位だった。女性の1位は香港(87.56歳)、男性の1〜2位は、香港(82.17歳)、スイス(81.4歳)だった。

 厚労省の担当者によると「女性は脳血管疾患と肺炎による死亡率、男性はがんによる死亡率がそれぞれ改善したため、寿命が延びた」とされる(以上毎日新聞2019.7.30)。

 米国の平均寿命はなお上向かないようだ。

○2017年の動向

 簡易生命表に基づく2017年の日本の平均寿命によれば、男女いずれも過去最高を更新した。主な国・地域との比較では、女性は香港に次ぐ2位、男性は香港、スイスに続く3位。前年は男女とも2位だった。上図にはこれらの国を記載していないので図中ではトップを続けている。

 米国の平均寿命は2015年から連続で低下し男女計で78.6歳となり、「3年連続で上向かないのは第一次世界大戦(1914〜18年)中以来という。死因として医療用麻薬オピオイドの過剰摂取や自殺が近年上昇を続けており要因の一つとみられている」(毎日新聞2018.12.1)。米国男性の平均寿命は76.1歳と先進国の中でとりわけ低くなっている。また、米国女性の平均寿命は81.1歳であり、日本の男性と同じとなっている。

○2016年の動向

 簡易生命表に基づく2016年の日本の平均寿命によれば、男女いずれも過去最高を更新した。

 毎日新聞は以下のように報じている(2017.7.28)。

「厚生労働省は27日、2016年の日本人の平均寿命が男性80.98歳、女性87.14歳となり、いずれも過去最高を更新したと発表した。前年と比べ男性で0.23歳、女性で0.15歳延びた。男女とも香港に次いで世界2位で、男性は前年の4位から順位を上げた。(中略)厚労省は寿命が延びた要因について「がんや心疾患、脳血管疾患の死亡率が医療技術の向上で低下したことが大きい」と分析する。(中略)海外の最新統計と比べると、女性は2年連続で香港(87.34歳)に及ばなかった。女性は14年まで3年連続で1位が続いていた。男性は前年上位だったアイスランドとスイス(ともに80.7歳)を抜き、10年ぶりに2位。1位の香港は81.32歳だった」。

 以下のように、男女差の縮小がやや注目されたのは新しい。先進国ではとっくにはじまっていた男女差の縮小が日本でも遅れてはじまった訳であり、理由についてもっと考えたいところである。

「男女差は6.16歳で前年より0.08歳縮まった。男女差は03年まで広がる傾向にあったが、それ以降は縮まる傾向が続く。厚労省は「健康志向が高まり、飲酒を控えたり、禁煙したりする男性が増えたことが一因にある」とみている」(同上)。

○2015年の動向

 簡易生命表に基づく2015年の日本の平均寿命によれば、男女いずれも過去最高を更新した。

 毎日新聞(2016.7.27)は以下のように報じている。

「2015年の日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳で、いずれも過去最高を更新したことが27日、厚生労働省が公表した簡易生命表で分かった。女性は14年まで3年連続で長寿世界一だったが、15年は香港(87.32歳)に次ぎ世界2位となった。男性は前年の3位から4位に下がった」。

 その後、国勢調査にもとづき5年おきに作成される2015年の完全生命表が公表されたが、それによれば、日本人の平均寿命は女性86.99歳、男性80.75歳となった。簡易生命表とほぼ同じであるが、男女とも、若干、下方修正された。

○2014年の動向

 このほど簡易生命表に基づく2014年の日本の平均寿命が発表された。男女いずれも過去最高を更新した。

 毎日新聞(2015.7.30)は以下のように報じている。

「2014年の日本人の平均寿命は女性86.83歳、男性80.50歳で、いずれも過去最高を更新したことが30日、厚生労働省が公表した簡易生命表で分かった。女性は3年連続で長寿世界一となり、男性は前年の4位から3位に上がった。(中略)主な国.地域の平均寿命をみると、女性は日本に続き、香港が86.75歳、スペインが85.60歳の順。男性はトップが香港の81.17歳で、アイスランドの80.8歳、日本、シンガポール、スイスが80.5歳で続いた」。

○2013年の動向

 このほど簡易生命表に基づく2013年の日本の平均寿命が発表された。男女とも前年より上昇し、男ははじめて80歳を越え、女は連続して世界一だった。

 毎日新聞(2014.7.31)は以下のように報じている。

「厚生労働省は31日、2013年の日本人の平均寿命を公表した。男性は80.21歳(12年79.94歳)、女性は86.61歳(同86.41歳)で、男性は明治期に集計を始めて以来、初めて80歳台に達した。一方、女性も過去最高を更新し、2年連続「世界一」となった。厚労省は「まだ延びる余地はある」と説明している。」

○2012年の動向

 このほど簡易生命表に基づく2012年の日本の平均寿命が発表された。男女とも前年より上昇し、男は過去最高となり、女は世界一の座を奪回した。

 毎日新聞(2013.7.25)は以下のように報じている。

「厚生労働省は25日、2012年の日本人の平均寿命を公表した。男性は79.94歳(11年79.44歳)、女性は86.41歳(同85.90歳)で男女とも前年を上回った。女性は10年以来2年ぶりに「世界一」へ返り咲き、男性は過去最高を更新した。厚労省は「まだ延びる可能性がある」とみている。

 平均寿命は、その年に生まれた0歳児が平均で何年生きるかを予測したもの。女性は85年から26年間連続世界一だったが、11年は東日本大震災の影響で香港に1位を譲り、2位となった。12年は自殺者の減少もあって女性は0.51歳伸び、0.4歳短くなった香港を抜いた。女性の過去最高は09年の86.44歳で、12年は過去2番目に高い。一方、12年の男性世界一はアイスランドの80.8歳だが、日本の男性も80歳超え目前となった」 。

○2011年の動向

 このほど簡易生命表に基づく2011年の日本の平均寿命が発表された。男女とも2年連続で低下し、女世界一の座も明け渡した。

 毎日新聞(2012.7.26)は以下のように報じている。

「厚生労働省は26日、2011年の日本人の平均寿命について、男性は79.44歳(10年79.55歳)、女性は85.90歳(10年86.30歳)だったと公表した。初めて男女とも2年連続で下がり、女性は85年から26年間守ってきた「世界一」の座を香港(11年86.7歳)に明け渡して2位となった。男性も前年の4位から8位に下がった。厚労省は「東日本大震災が大きく影響した」と分析している。香港は男性(11年80.5歳)も世界一だった。

 日本女性は前年より0.40歳「短命」になった格好。震災の影響がなければ86.24歳で、11年の実績値より0.34歳延びていた。それでも10年を下回り、香港には及ばない。20歳代の自殺の増加も影響しているという。

 一方、前年比0.11歳短くなった男性だが、厚労省は震災の影響がなければ0.26歳高い79.70歳で、例年並みの世界5位になっていたとみている。」

 なお、香港については、国立長寿医療研究センターの安藤富士子客員研究員は「中国全土から社会的、経済的に余裕のある人が集中していており、平均寿命にはバイアス(偏向)があるとみるべきだ」と指摘した(東京新聞2012.7.27)。

 図に掲げた国との比較では、なお女性は世界一だが、男性はアイスランド、スウェーデンに抜かれている。東日本大震災は短期要因なので来年以降は再度従来の地位を取り戻す可能性が高い。

2.長期推移

 図録1600では寿命の伸びの長期推移の対米比較を掲げたが、ここでは戦後の平均寿命の推移を主要先進国と比較した。ここで先進国とは、日本の他、カナダ、米国、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国、アイスランドの合計10カ国である。

 1950年代には主要先進国中、最低だった日本の平均寿命が、1970年代〜80年代には総て抜き去り、世界一に躍り出ている。誠に戦後日本の誇るべき実績であると実感できるデータである。医学の進歩の影響はいずれの国でも享受していると思われるので、この輝かしい実績の主たる要因としては、国民皆保険制度の普及、日本的食生活の2つをあげることが可能であろう。財政問題に端を発している医療制度改革の取り組みがこうした実績を崩さないまま成果をあげられるかどうかが問われている。

3.短期変動要因

 毎年の平均寿命は毎年の年齢別死亡率から算出されるため、毎年の災害の発生等に影響される。長期上昇傾向にもかかわらず平均寿命が落ち込んだ近年の事例を掲げると以下の通りである。

1995年 阪神・淡路大震災、インフルエンザの流行
1998年 自殺率の急上昇(男の平均寿命低下)
1999年 肺炎の影響
2005年 インフルエンザ、自殺増の影響
2010年 熱中症死亡増加(女の平均寿命低下)
2011年 東日本大震災による死亡者数増加、20歳代女性自殺増加
2021〜22年 コロナ禍の影響

(2005年7月25日収録、7月29日追加修正、2006年7月26日、2007年3月1日・7月27日更新、2008年7月31日更新、2009年7月19日更新、2010年7月26日更新、2011年7月28日更新、2012年7月27日更新、7月28日'60〜'10年データ資料変更、2013年7月25日更新、2014年5月23日OECD Health Data更新、ドイツ追加、2014年7月31日更新、8月8日日本以外2012年以前データ更新、2015年7月30日更新、2016年7月27日更新、2017年3月1日2015年について完全生命表に更新、3月6日iframeの過去の「最近の動向」を同一ファイルに統合、2017年7月27日更新、7月28日引用報道を産経から毎日へ変更、2018年7月20日更新、12月1日米国2016〜17年、2019年7月30日更新、2020年7月31日更新、2021年7月31日更新、12月22日米国更新、2022年7月29日更新、12月29日米国の最新データ、2023年2月25日米国の絶望死議論、7月29日更新、2024年3月17日コロナ影響図再掲)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 健康
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)