食べものに対する意識について、「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」、あるいは「できるだけ安い食品を買う」のどちらに近いかをきいたアジア各国共通意識調査の結果を図録にした(この意識調査の概要は末尾)。

 豊かな日本では、「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」という意識が、他のより貧しい国より多いかというとそうではない。回答率は日本が46%に対して、韓国は65%、中国は80%に達しているのである。逆に、「できるだけ安い食品を買う」は日本が34%であるのに対して、韓国は23%、中国は13%とずっと少ないのである。

 この意外な結果の理由を探る前に、アジア各国の国内で所得水準でどういう違いがあるかを見ておこう(下図参照)。


 この図を見れば明らかなとおり、ほぼ、どの国でも低所得層より高所得層で「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」の回答率が高く、常識に合致している。

 ところが、国別に比較すると、必ずしも高所得国の方が低所得国より「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」の回答率が高くなるとは限らないのである。冒頭の図の国は高所得国から低所得国という順に並べてある。これを見ると、例外も多いが、日本からベトナムまでは、概して、高所得国ほど「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」の比率は下がって行く傾向が認められる。

 これは、市中で食品を買い求める際に、安心して安い食品を買うことが出来る環境があるかに関係していると考えられる。日本では、安い食品を買ったからといって直ちに食中毒など衛生上の問題は生じないよう保健所による監視・取締りの仕組みがおおむね出来ている(図録1964参照)。ところが、中国やベトナムでは、安い食品を買った場合の衛生上のリスクが馬鹿にならないレベルなのだと見受けられる。従って、低所得層であっても、「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」という行動パターンが定着しているのであろう。ここで「品質」とは、高級品とか贅沢品とかの「品質」というより、安全かどうかの「品質」なのだ(図録8204参照)。

 なお、ベトナムよりさらに低所得国となると逆に「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」は低くなる傾向が認められる。また中所得国のインドネシアやフィリピンでは、「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」の比率はそう高くなく、「できるだけ安い食品を買う」の比率が高くなっている。こうした国では、@国の所得水準以上に、衛生管理が発達しているか、あるいは、A経済の発展途上で安全を犠牲にして豊かさを追求する以前の段階にあって、むしろ伝統的な食品の流通と消費のパターンが保持されていて安い食品を比較的安心して買う環境にあるか、またはB貧しくて衛生を云々する状況にないか、なのであろう。

 いずれににせよ、日本は、豊かで発展した国であるからこそ、「できるだけ安い食品を買う」にも一定の合理性があるのだと考えられる。見境なく安い食べものを買ってきて、子どもが食中毒で死ぬというケースは極めてまれなのである。中国で「少しくらい高くても、品質の良い食品を買う」が80%というのは、やはり、驚きである。貧しくともおいしい食べものへのこだわりが大きい民族であるためという側面もあろうが、やはり衛生面での大きなリスクを想定しないとこうした高い比率はなかなか理解できない。

 この調査はかなり前のものであり、その後、日本への中国からの食料品の輸入も増加したので(図録0298)、状況は変わっているかも知れない(図録0311参照)。

 日本人における食品選択の重視点について、図録0323で、男女・年齢別の結果を分析したので参照されたい。

アジア・バロメーター調査の概要

 ここで、元データとしたアジア・バロメーター調査の概要は、この調査のHPによれば、次のように紹介されている。

「アジア・バロメーターは2003年度より猪口孝主導で継続して行っているアジア全域を対象にした世論調査である。「アジアの普通の人々の日常生活」 に焦点を当て、欧米の世論調査と比較できる方法を使いながら、アジア社会の歴史的、社会的、経済的、政治的、文化的、言語的な特異性を十分に配慮した研究設計によって、アジア社会の貴重な世論調査デ−タを作成することが目的である。」

(2011年12月26日収録)


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