厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、20歳未満を含めた本体の栄養摂取状況調査や身長・血圧などの身体状況調査と平行して、20歳以上を対象に「生活習慣調査票」で健康・栄養についての実態や意識を調べている。「生活習慣調査票」の調査項目には毎年継続されているものもその年だけのものもある。ここでは2014年調査だけの設問である「食品を選択する際に重視する点」の結果を取り上げた。
図には、属性別に、男女年齢別、及び困窮度(食料に困ることが多かったか)別の順位を掲げた。
全体結果の1位は「おいしさ」であり、属性別でもほとんどの場合1位になっている。おいしいものを食べたいというのは人間にとって普遍的な欲求であることが確認される。むしろ、「おいしさ」が1位でない場合にその属性の特徴があらわれている。すなわち、
- 男女ともに20代では「好み」が1位となっており、美味より好き嫌いが優先されている。これは、子どもと同じように、味覚の感覚器である味蕾の数が多く、味に敏感な若年層ならではの特徴があらわれているといえよう(図録4175参照)。
- 女性の50代以上は「価格」や「鮮度」が1位となる。その中でも60代では「おいしさ」が「安全性」より下位となる。家計や家族に配慮する料理責任者としての女性の役割から来る優先度だと考えられる。
- 食料に困るかどうかでは、もっとも下位の困窮層では「価格」が「おいしさ」を上回っており、経済的な側面が最も重視されている。
男女別、年齢別には以下の特徴が見て取れる。
- 男性と比較して女性では全体として年齢別の順位変動が激しい。女性の場合、独身、結婚、子育て、主婦、パート、介護とライフステージごとの立場によって食品に対する重視点が影響を受けるからだと考えられる(注)。
(注)同様なことが女性特有の睡眠障害の理由の年齢別の変化にあらわれている点ついては図録2332a参照。どんな野菜が好きかという調査の結果にも同様なことがあらわれている点については図録0334参照。
- 20代の女性の重視点の1位が「好み」であるのは、上記のように若い頃は生理的に味に敏感だからであるが、それだけではなく、気まぐれな若い女性の嗜好をあらわしているともいえる。同じ「好み」が女性の場合40代には5位にまで急落する。「君子豹変す」ではなく「女子豹変す」である。
- 男女ともに若い頃は「量・大きさ」が4位と比較的重要な食品選択事項となっている。女性は20代だけだが男性は30代までそれが続く。もちろん、若い頃は、成長やエネルギー補給のために空腹を満たすことが重大関心事だからであろう(図録0322参照)。
- 男女ともに年齢を重ねると「鮮度」や「安全性」の順位が上昇する。高齢者は健康志向が高まるためであろう。特に女性はこの傾向が著しいが、女性の場合は自分だけでなく家族のことも考える程度が大きいからである。
- 女性の30〜40代では「栄養価」が男性の8位と比較して6位にまで上昇するが、これは子どもの栄養を考えてのことだろう。
- 女性の70歳以上で、60代までに低下していた「おいしさ」、「好み」、「栄養価」の順位が再上昇するのは、夫に先立たれるなどして、やっと自分のための食品選択ができるようになる人が増えるからだと考えられる。
食料に困ることが多かったかによっての違いについては、困ったことが多いほど「価格」を重視している点と困っていないほど「季節感・旬」を重視している点を除けば、その他の項目の順位は同じである。男女別、年齢別の差と比較すると変動は小さい。
困窮度別のこうした選択重視点の差が実際に肉や魚の選択にどう影響を与えているかは図録
0228参照。
以上のように「食品を選択する際に重視する点」には、食とのかかわりの中で、人生の様々な側面がうかがえて興味が尽きない。
「食品選びは品質か値段か」をアジア諸国で聞くと意外な結果になっている点については図録
8040参照。