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 NHK放送文化研究所が1996年に行った全国県民意識調査の結果から都道府県毎の県人気質の違いがあらわれていると思われる2つの特性、すなわち、「よそ者意識」と「無常観」を取り上げ、両者をX軸、Y軸とする散布図を描いて、県民性の分布を探ってみた。

 「よそ者意識」が希薄な地域としては、東京、神奈川、大阪、兵庫といった大都市圏と北海道が目立っている。埼玉、千葉、福岡などもこれに準じている。流入者を「よそ者」扱いしないのが大都市圏や明治になってから開拓が進んだ北海道の特徴であることはいうまでもない。なお、やはり大都市圏に属する福岡、埼玉、千葉などもこれらに次いで「よそ者意識」は低くなっている。

 これらの都道府県とは対照的に、大都市圏に属するにもかかわらず「よそ者意識」が強いのは愛知、京都、奈良である。

 特に愛知県民は我が国第3の経済中枢都市名古屋圏を抱えている割に「よそ者意識」が強いと多くの県民自体が自覚している点が目立っている。かつて名古屋人のパターンとして「新聞は中日、車はトヨタ、野球はドラゴンズ、銀行は東海銀行でお歳暮はかならず松坂屋で」といわれたが、域外の資本にソッポを向き、地元のものに絶対の声援を送る特色は変わっておらず、一言で評すると「偉大なる田舎」の特性があらわれているとされる(祖父江孝男「県民性」中公新書)。

 京都も「いけず」の県民性がよそ者に対して発揮されているようだが、この点については図録7776、図録7304参照。

 愛知を上回って「よそ者意識」が全国で最も強い県は、島根、富山、香川である。

 「無常観」は災害の多い日本列島の生活の上に仏教や方丈記などの歴史的な思想・宗教が積み重なって日本人に根づくようになった考え方だと思われるが、「無常観」が強い県としては石川、徳島、福井などがあげられる。

 蓮如の御文(おふみ)「白骨」には次のようなくだりがあり、浄土真宗の葬儀で拝読されるのを聞く機会が多い。「されば、朝には紅顔ありて夕には白骨となれる身なり。すでに無常の風きたりぬれば、即ち二つの眼たちまちに閉じ、一つの息ながく絶えぬれば、紅顔むなしく変じて、桃李の装いを失いぬるときは、六親眷属あつまりて嘆き悲しめども、さらにその甲斐あるべからず」。浄土真宗が普及している地域ではこうした御文の影響もあろう。

 逆に「無常観」とは縁の薄い県としては、沖縄と鹿児島が目立っている。沖縄と鹿児島は他の県とは無常観では距離が大きく、日本の中でも文化的な差異が大きい地域であるといえよう。特異な文化を有することが良く知られている沖縄より鹿児島の方が無常観が薄い点が注目に値する。なお、無常観の薄さだけでなくムラ意識の希薄さでも鹿児島と沖縄が全国の中でも共通した特徴をもっている点については図録7771c参照。

 鹿児島は、現在では、北陸と同様に浄土真宗の信徒が多いが、戦国時代からの300年もの間は真宗は禁教とされており、明治維新以後、国家神道と矛盾しない葬式仏教として急速に普及した。こうした全く異なる経緯を有しているため、北陸とは真逆の無常観が抱かれているのであろう。

 「よそ者意識」と「無常観」という2変数から県民意識の分布を見ると、同じ北陸でも、石川、福井、富山は比較的似ているが、新潟はかなりグループから外れることが分かる。

 北陸は戦国時代に浄土真宗(一向宗)が広がり、今でも、浄土宗系の信仰が全国の中でも根強い(図録7770)。ただし、新潟はその中では浄土宗系の名残りは薄い。また新潟は江戸時代から江戸方面への出稼ぎが多く、東京の公衆浴場主、豆腐屋、米屋などの多くを新潟県人が占めていた(祖父江、同上)。冬の積雪による農閑期の副業として酒造りがさかんで、杜氏の出身地も新潟が圧倒的に多かった(図録7870)。他地域との交流性の高さ、特に首都圏との交流において、新潟は北陸の中でも違いがありそうである。こうしたことから県民意識の上でも新潟とそれ以外とでは差が生じているのだと考えられる。

 また、北陸だけでなく、四国の中でも、徳島と香川が似ており、また、愛媛と高知が似ているが、両者はまったく異なった県民性を有していることが分かる。四国各県のそれぞれの県民性をあらわす小話として以下がある。すなわち、思いがけず1万円もらったときに、香川県人はすぐ貯金する。徳島県人は殖やして貯金する。愛媛県人は欲しいものを買ってしまう。そして高知県民は祝杯をあげて呑んでしまう、というものだ(祖父江、同上)。貯金するところは香川と徳島で共通であり、使ってしまうところは愛媛と高知で共通なのである。図録7304で見たように、のん気度の低い徳島、香川は近畿圏に属し、のんき度の高い高知、愛媛は九州圏するといってもよいかもしれない。外洋性の高知、愛媛、内湾で関西とつながる香川、徳島という立地の違いがこうした意識の差を生んでいると考えられよう。

 ちなみに、香川出身と高知出身の著名人を思いつくままに挙げて比較して見ると以下の通りである。

(香川出身の著名人)
空海、平賀源内、大平正芳、南原繁、大杉栄、菊池寛、壺井栄、大藪春彦、宮武外骨、笠置シズ子

(高知出身の著名人)
山内容堂、坂本龍馬、武市半平太、板垣退助、植木枝盛、後藤象二郎、中江兆民、ジョン万次郎、有沢広巳、寺田寅彦、牧野富太郎、幸徳秋水、田宮虎彦、安岡章太郎、岩崎弥太郎、横山やすし

 NHKの県民意識調査は1978年にも1996年と同じ調査方法で行われている。その時の結果から同じ残布図を描いたものを参考データとして表示選択で見れるようにした。これを見ると以下のように、同様のことが言えている場合とそうでない場合とがある。
  • 大都市圏や北海道でよそ者意識が薄い点は同じである。
  • 大都市圏にもかかわらず愛知、京都などでよそもの意識が強い点も同様である。
  • 無常観は石川、福井はそれほどでもなく、むしろ富山で顕著だった。
  • 沖縄、鹿児島は特に無常観が薄くなかった。これは1996年には人の移動の激しかった高度成長期からかなり過ぎて本来の県民性に回帰したと考えられないでもない。
  • 北陸の中で新潟だけが特異というより富山だけが特異な位置を占めていた。
  • 四国の中の徳島・香川と愛媛・高知の対照的な違いは同じだった。
*参考資料
NHK放送文化研究所(1997)「現代の県民気質―全国県民意識調査」日本放送出版協会
祖父江孝男(1971)「県民性」中公新書

(2019年5月10日収録、10月17日1978年データ追加)


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