集団利益を優先するムラ意識が強いのは福島、島根、石川、薄いのは鹿児島、沖縄。ただし、沖縄はむしろ個人を尊重する意識のあらわれか。

 NHK放送文化研究所が1996年に行った全国県民意識調査の結果によって、都道府県毎の「ムラ意識」の程度があらわれていると思われる2つの設問の回答を散布図として描いた。

 ここで「ムラ意識」と呼んでいるものは、「集団意識」、あるいは「共同体意識」と言い換えることも出来るものである。

 2つの設問のうち、Y軸に設定したのは、「公共の利益のためには、個人の権利が多少制限されてもやむをえない」という設問に「はい」と回答した割合であり、「積極的ムラ意識」、あるいは「公共精神の高さ」とも言うべきものをあらわしていると考えられる。

ムラ意識の都道府県ランキング
上位 下位
積極的
ムラ意識
消極的
ムラ意識
積極的
ムラ意識
消極的
ムラ意識
1位 福島 石川 沖縄 鹿児島
2位 島根 島根 鹿児島 高知
3位 徳島 栃木 千葉 岡山
4位 広島 山梨 埼玉 熊本
5位 青森 福島 北海道 大阪

 上位の地域としては福島、島根、徳島、広島などが目立っている。逆に、下位の地域としては、沖縄が図抜けて低く、鹿児島、千葉、埼玉、北海道などがこれに続いている。

 2つの設問のうち、X軸に設定したのは、「本来自分が主張すべきことがあっても、自分の立場が不利になる時はだまっていることが多いですか」という設問に「はい」と回答した割合であり、「消極的ムラ意識」、あるいは「自己抑制主義」とも言うべきものをあらわしていると考えられる。

 上位の地域としては、石川、島根、栃木、山梨、福島などが目立っている。逆に、下位の地域としては鹿児島、高知が目立っている。

 積極的ムラ意識と消極的ムラ意識とは、ゆるやかな右上がりの分布が認められ、共通傾向の側面があるといえよう。両方ともに高い地域としては福島、島根が目立っており、両方ともに低い地域としては鹿児島が目立っている。

 この共通傾向から大きく外れているのは、沖縄であり、消極的なムラ意識は平均的である一方で、積極的なムラ意識は、他県とは比べものにならない位、弱いのである。沖縄の場合、公共の利益を重視していないのか、それとも個人の権利を極めて重視しているのか、そのどちらか(あるいは両方)で、こうした特異な位置を占めるに至っているのである。沖縄の文化的な特異性がうかがわれる調査結果のひとつであろう。

 一般には、沖縄のここでふれたような積極的なムラ意識の低さは、強力な中央集権から免れていた歴史に理由が見出されることが多い。「島々は御嶽(うたき)という神社を核にまとった多くの村落に分かれていた。沖縄を統治する琉球王朝はあったものの、そのような村落の共同体の自主性は強かった。それゆえ、近代以前に中央集権の圧迫をうけることのなかった沖縄の人に、江戸の人間がもつような秩序を重んじる発想が入りこむことはない。これによって、沖縄で独立指向や自己主張を表に出す生きかたが当然のものと考えられたのである」(武光誠「県民性の日本地図」文春新書、2001年、p.228)。

 普通考えると、ムラ意識の強弱は、地方圏で強く、大都市圏で弱い筈であるが、必ずしもそうでな点が興味深い。同じ大都市圏に属する地域でも、埼玉、千葉、大阪などは積極的と消極的の両方で低い意識となっているが、東京、神奈川は、消極的なムラ意識は弱いが、積極的なムラ意識はむしろ強い方であるし、愛知は、積極的なムラ意識は弱いが、消極的なムラ意識はむしろ強くなっているのである。

 日本のムラ制度はイエ制度とともに中世後半に成立したといわれる。イエの継承の安定性がムラ秩序の確立につながったとされるのである。こうした社会制度が成立する以前の日本社会は東南アジア社会などと類似性があり、イエ・ムラ制度の成立が未発達だった鹿児島ではその名残りが強く残っているとされる。そこでは分割相続にもとづく流動性が集落生活の特徴となっている。また、永続性をもった地域と家族のヒエラルキーは存在せず、その都度の自己中心的な社会関係が中心となっている(坂根嘉弘「日本伝統社会と経済発展」農文協、2011年、p.150〜151)。

 実際に鹿児島ではムラが未成立だったことを示す証拠がある。すなわち農業集落の領域確認率が極めて低くなっているのである(図録7826参照)。

 鹿児島では、個人の権利の制限を受けつけず、自分の主張を抑制することも少ないという当図録のデータは、こうした見方とは整合的である。歴史的に沖縄が特異であるばかりでなく、鹿児島(あるいは高知)でも、ムラ意識が特異な状況を示しているのである。

 沖縄と鹿児島が無常観でも全国の中で特異である点を図録7771に示したので参照されたい。

 ムラ意識の地域分布を確かめるため、地方ブロックごとに各県を色分けして示した(下図参照)。

 左図を見ると、東北6県や北陸4県は構成する県の位置が近く、しかも全体にムラ意識が強い傾向が認められる。一方、九州7県も鹿児島を除いて各県の位置は近いが、全体としてムラ意識は、東北、北陸より弱い。これらの諸県の分布を見る限りは、ムラ意識は東高西低の傾向をもっているとも見える。

 ところが、中国、四国の各県の位置を示した右図を見ると、それぞれ、全国の分布範囲と重なるぐらいばらけており、相互に近似性が乏しい。四国の中では、消極的ムラ意識では、徳島、香川のムラ意識が比較的強いのに対して愛媛、高知(特に高知)のムラ意識が弱いという対比は、九州に近いかどうかという県民性の対比として、分からないこともない。ところが、中国地方の島根と鳥取、あるいは岡山と広島という隣接県どうしでは、真反対ともいえる位置にあり、どうも理解しにくい。

 なお、NHKの県民意識調査は1978年にも行われており、同じ2設問の結果が得られている。これを使った同様の散布図(gifファイル)を描くと、沖縄の特異性を除き、必ずしもここで展開した仮説通りにはなっていない。県間移動が激しかった高度成長期に近い時期には明らかでなかったもともとの地域性が、「地方の時代」へ向かうその後の動きの中で1996年には再び輪郭を顕在化させてきたと見るほかないであろう。


(2019年3月27日収録、11月10日コメント修正、11月17日武光(2001)引用)


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