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 県民性を示す信頼できるデータを紹介しよう。

 国民生活基礎調査(厚生労働省)は、毎年の調査であるが、3年ごとに通常年の5倍多いサンプルによる大規模調査が行われており、この時には都道府県別のデータが得られる。これは、県民性の分析でよく引用されたNHKの全国県民意識調査(1996年)の17倍多いサンプルを有し、都道府県別の比較的信頼できる情報を得られる数少ない調査の一つであるのに、意外とその結果は活用されていない。

 調査では「こころの状態」として、「絶望的に感じましたか」、「自分は価値のない人間だと感じましたか」といったような精神的に問題があるかを聴く6つの質問が出され、結果の合計点は、いずれの問でも問題が全くない0点からいずれでもいつも問題ありの24点に及ぶ(原設問文)。報告書では、これを3区分した集計がなされている。0〜4点を「精神状態が良好」と捉え、各都道府県の「精神状態が良好」の割合を示した。精神的な問題が少ないほど心が平安あるいは健全ということであるが、これを「のんき度」と考えることもできるので、「県民のんき度ランキング」と名づけた。常識とかけ離れてはいないと思う。

 図の上の【図表選択】でマップ形式あるいはヨコ形式を選んで表示させると、精神状態の良好度(のんき度)は、東北、特に太平洋側が最も低いレベル、そして九州・沖縄が最も高いレベルにあり、西高東低の地域構造をもっていることが明らかである。

 各年の結果には、調査時点までにそれぞれの県民を襲った経済状態の変化や災害など外部的要因の影響も反映されていると考えられるので、県民性の判断には複数年次の結果で共通した傾向を読み取らねばならない。

(2022年の特徴)

 2022年についてはのんき度指標の値が全国的に上昇した点が目立っている。この間の出来事としては新型コロナの流行が何といっても大きい。2022年調査はこのデータが属する健康票については6月に実施されているが、6波と7波の間で感染者数が大きく減り、コロナ禍への慣れもあって感染不安はかなり低下した時期にあたる(図録1951p)。最悪の事態を何とかやり過ごしてほっとした感情がのんき度の上昇にむすびついたと解されよう。

 ランキングなどから見た地域別の変化としては沖縄の地位低下が最も目立っているが、それを含めて以下のような点が指摘できよう。
  • 岩手は2019年に引き続き2022年ものんき度が最下位となったが、福島ののんき度はかなり回復し、日本海側の山形並みとなった。
  • 東京ののんき度ランキングは44位とかなり低下し、2007年以降最低となっており、コロナ禍で翻弄された状況をうかがわせている。のんき度マップ上では東京だけでなく、千葉や北関東での相対的低下も目立っている。
  • 富山が低く、石川が高いという相対関係は変わらないが、両県とも順位を大きく低下させている。富山は45位と最低レベルとなった。山梨と長野の相対関係も不変だがこちらは両県とも順位を上昇させている。
  • 京都は再び東海・近畿最下位となっている。
  • 中四国では鳥取と高知の上昇が目立っている。
  • 佐賀は九州最低地域を継続しているが、今回は43位と特に地位を低下させた。
  • 沖縄は2位からさらに17位まで低下し、かつてのナンバーワンのんき県の面影は薄れている。代わって鹿児島が首位に躍り出ている。
(これまでの特徴)

 過去からのランキングを見ると、沖縄は2016年までの各年次で全国トップである点が目立っており、また九州は一貫して順位が高く、東北地方は一貫して順位が低かった。地球規模では国民性、日本国内では県民性として、まじめだが暗い北国気質と明るく開放的な南国気質とが対比されることが多いが、その通りのデータになっているといえる。

 沖縄の「のんき度」は2013年以降、下がり続け、2019年にはついにトップの座を石川に譲り渡し2位となったた。普天間基地の県内移設に反対する県民の声が政府に無視され続けている状況が、さすがの沖縄人の快活な県民性にも影を落としていると考えざるを得ないだろう。

(北海道・東北)

 細かく見ていくと、同じ北方圏に属すとはいえ、北海道は、東北と比べると精神状態の良好度(のんき度)が高く、2013年には全国第2位となったことがあるぐらいである。必ずしも気候風土だけが県民性の要因ではないことが分かる。明治以降に開拓民が多く流入した土地という点で、東北地方とは大きく県民性を異にしていることがうかがわれる。

 東北地方の中では2013〜19年に太平洋側の岩手、宮城、福島が全国の中でも最低水準のレベルとなっているので、一見すると、2011年に起こった東日本大震災の影響かとも思われるが、2007年、2010年にも岩手と宮城は東北の中ばかりでなく全国の中で最低レベルであり、福島も2010年にはやはり最も低いレベルだったので、外的要因というより、むしろ、もともとの県民性の反映といえそうである。

 ただ、2013年〜2019年の動きを見ると、宮城、福島、岩手はこの3年次にそれぞれ全国最下位となるなど低迷しており、東日本大震災と福島第一原発事故の長引くマイナスの影響を見て取ることも可能であろう。

(関東)

 北関東は東北に次いで低い傾向にあり、特に茨城は、2010〜2016年は福島と近い順位にあった。

 南関東の各県は、近畿と並んで、調査年によって順位の変動が大きく、また、概して順位が低い。大企業の本社等が集中しているため、調査年次における経済環境の変化などの影響を受けやすいのかもしれない。いずれにせよ大都会の気ぜわしさが感じられる結果である。

 南関東の中では、千葉の精神状態良好度(のんき度)が概して高い傾向にある点が目立っている。江戸時代に西日本から漁業関係の移住民が多かった名残りかもしれない。ただし、2019年は低かった。

(北陸・甲信)

 北陸・甲信地方では、新潟、富山と長野で低く、それ以外で高いという傾向が認められる。富山と石川では隣県であり県民性が似ていると思われがちであるが、精神状態の良好度(のんき度)では富山が低く、石川が高いという対照的な県民性となっている。

 特に、石川は、2019年に全国トップの「のんき度」。石川がトップに躍り出たのは、やはり、北陸新幹線が金沢まで延伸した影響が認められよう。

 北陸三県の県民性の違いをあらわす「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」という言葉がある。生活に窮すると、加賀百万石の特権にあぐらをかいてきた金沢人は乞食をするしかないが、分藩で恵まれない境地にあって薬売りの商魂を発揮してきた越中人は強盗までしても生き残るという意味である(祖父江孝男「県民性」中公新書、1971年)。おっとりとした石川県民は「のんき」、苦労人の富山県民は「のんきになれない」というデータもこうした県民性を反映しているのであろう。

 なお富山県民のような一途な奮闘努力ではなく、福井県民は詐欺師と言われるだけあって賢く切り抜ける方向で対処するので、精神的には富山ほど悪くならないのかも知れない(福井県民が貯蓄率全国トップである点は図録7455)。

 甲信地方の中央盆地地域の中で、山梨は高く、長野は低いという傾向が、特に2019年は顕著となった。甲州人と比較すると物事を難しく考える傾向が信州人にはあるのではなかろうか。

(東海・近畿)

 東海の中では、愛知の順位が2010年から13年にかけて3位から22位へと大きく低下したのが目立っている。リーマンショックによる2009年の大きな経済の落ち込みの影響が遅れてあらわれたとも考えられよう。

 近畿各県は南関東と並んで順位の変動が大きいが、その中で、京都が40位台と西日本の中の最低レベルから抜け出せない点が目立っている。京都人の精神的特徴として「いけず」と呼ばれる外面とは裏腹の排他性が指摘されることが多いが、それが自家中毒を起こしていると見られないこともない。ただし、京都は、これまでの「のんき度」西日本最低の地位を2019年には滋賀に譲っている。

(中四国)

 中国地方の瀬戸内海側に位置する岡山、広島、山口は、同じような県民性かと思いきや、高→低→高と差が大きくなっており、特に2019年はこの特色が顕著となった。

 四国の中では、高知、愛媛が高く、徳島、香川が低い傾向にある。のんき度からは、高知、愛媛は九州圏、徳島、香川は近畿圏に属するといってもよいかもしれない。

(九州)

 全体に精神状態の良好度(のんき度)が高い九州地方の中では佐賀県民だけは一貫して例外的に低い傾向にあるようだ。大分県民も2007年、2010年は、佐賀県民同様、低かったが、2013年以降には隣県とそれほど変わらない水準となっている。

 こうした県民性の状況は、「だから何なんだ」といってしまえばそれまでであるが、信頼できる調査にもとづいている以上、なかなか興味深いデータであると言ってよいだろう。

 最後に、以上で「のんき」と考えられた県民が、必ずしも、自分を「のんき」だと考えているわけではないことを示すデータを紹介しておこう。下に最新年次の「のんき度」とNHK全国県民意識調査の「精神的充実度の意識」とを比較したグラフを示した。年次が大きく離れている点に留意が必要であるが、2つの結果は、異なった傾向である点が明らかである。「のんき度」は上述の通り、西高東低の傾向を示しているのに対して、「精神的充実度の意識」は三大都市圏とその周辺部で高く、遠隔地の地方圏ほど低いという傾向を示している。感情的な状態認識と自覚的な自己認識とは異なっているようである。

 「のんき度」と「精神的充実度の意識」の地域傾向から、両者がもっとも食い違うのは沖縄県であり、前者で1位であるのに対して後者では下から2番目なのである。沖縄県民に「のんきだね」といったら、「そんなわけはない」と怒られるだろう。また、「のんき度」が西日本最低の京都が「精神的充実度の意識」では、まったく逆に、西日本第2位、近畿トップの高さとなっているのも興味深い。京都人のプライドの高さをうかがうことができよう。


【コラム】県民性の分かる公式データ

 県民性を話題にするデータが氾濫しているが、信頼できるものは少ない。調査設計が科学的でなく、また調査の対象人数も少ないデータをもとにあれこれ論じてみても、とらえどころのない空しい結果に終わることが多い。

 国勢調査や人口動態統計のような全数調査なら県別であろうと市町村別であろうと信頼できるデータが得られる。ところが、サンプル調査であると人口数の少ない県ではサンプルも少なくなってしまうので県別集計まで信頼できるデータを得るためにはかなり大規模なサンプル数の調査が必要となる。これは市町村民が対象の意識調査でも全域のデータであれば千人ほどのサンプルがあればよいところを域内の各地区別についての確からしいデータを得ようとすると全体で数千人というオーダーのサンプルが必要となるのと同じことである。

県民性を示す県別データが得られる主要な統計調査等
調査主体 調査名 頻度 サンプル数
総務省統計局 国勢調査 5年毎 全数
就業構造基本調査 5年毎 47万住戸、そこに住む15歳以上世帯員
社会生活基本調査 5年毎 8.3万世帯、20万人(10歳以上)
全国消費実態調査 5年毎 (二人以上の世帯)51,656世帯
(単身世帯)4,696世帯
家計調査 毎月 (二人以上の世帯)8,000(5,500)世帯
(単身世帯)670(450)世帯
 *()内は県庁所在市・政令市
厚生労働省 人口動態統計 毎年 全数
国民生活基礎調査(大規模調査)  3年毎(最新2016年) (世帯票・健康票)29万世帯、71万人
国民健康・栄養調査(大規模調査) 随時(最新2012年) 2.4万世帯、6.1万人(1歳以上)
NHK 全国県民意識調査 随時(1978年、1996年) 各県900人,全国計42,300人
(注)家計調査の場合、県別ではなく県庁所在市・政令市別のデータが公表される。県庁所在市・政令市別データの毎月のサンプル数は余りに少ないので、通常、年平均、あるいはむしろ3カ年平均のデータが使われる。

 上に、県民性の判断に関係がありそうだと思われるデータのうち、調査設計が科学的でサンプル数も多く、県別まで集計されている官庁統計等の統計調査等の一覧表を掲げた。

 全国で5万世帯以上といったサンプル数がないと信頼に足るデータは得られないと考えられていることが分かる。厚生労働省の国民健康・栄養調査(大規模調査)やNHKの全国県民意識調査はサンプル数がやや少ないが、県別に一定数以上のサンプルで調査し、全国集計するときは県別ウェイトで戻すというような工夫を行っている。なお、NHK調査は信頼に足る県民性データとして様々に分析、活用されたが、今や古すぎるので新しい調査実施が求められている。

 この中で、比較的サンプル数が多い抽出調査は、就業構造基本調査(5年毎)と国民生活基礎調査(3年毎の大規模調査)であり、世帯総数の1%弱に当たる30万〜47万世帯を調査している。

(注)2010年国調では、概数で、全国の人口1億3,000万人、一般世帯数5,200万世帯(うち二人以上の世帯3,500万、単身世帯1,700万)

 就業構造基本調査は、毎月失業率が発表される労働力調査がサンプル数が少ないため、都道府県別の結果が得られないのに対して、5年毎に都道府県別までの詳細な就業関係のデータを得るために行われている。国民生活基礎調査の大規模調査も毎年の簡易調査では得られない詳細かつ地域別データを得るために3年毎に行われている。

 国民生活基礎調査の大規模調査は、このように、都道府県別の比較的信頼できる情報を得られる調査であるのに、意外とその結果は活用されていないようである。そこで、その一例として、本文に県民のんき度ランキングのデータを紹介した次第である。

(2016年3月13日収録、4月21日コラム補訂、2017年12月8日更新、コメント改訂、12月12・13日NHK調査との対比図、2018年12月25日北陸三県県民性、2023年8月27日2019年データへの更新、8月30日2022年データへの更新)


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