塩分の多い食事が多い地域では減塩が大きな健康上の課題となっている。ここでは、家計調査の結果から塩分の多い食品の消費量(購入数量)をあらわした。塩分の多い食品と考えられる品目としては、塩干魚介、しょう油、みそ、漬物類(梅干、たくあんなどの大根漬、キムチを含む白菜漬、昆布佃煮の計)と食塩そのものがあげられる。これら5品目の対全国の消費量を計算し、それらの単純平均を棒グラフにした。5品目をそれらの消費金額、あるいは国民健康・栄養調査で分かる食品別の塩分摂取量でウエイト付けして平均することも考えたが、凝っても結果には大きな違いはないと考えウエイト付けしなかった。そもそもサンプル数、県庁所在市及び政令市限定、毎年の変動など制約の多いデータなので理論走った指標化はバランスが悪いということもある。

 結果は青森が1.49と全国平均を約5割上回っていてトップである。第2位以下は山形、秋田、新潟、鳥取と続いており、以上の各市では全国平均を25%以上上回っている。基本的に東北、北陸、山陰と東北弁の地域、あるいは縄文語の直系地域と重なっている(図録7720)。

 逆に、少ない方の地域を見ると那覇が0.57と全国の6割水準となっており、最も少なくなっている。那覇が特段に少ないが、その他では、東京、名古屋、大阪の三大都市圏や西日本で少ない傾向がある。もっとも、西日本の中では九州はやや高い傾向がある。

 こういう分布はカレールウ消費の分布(図録7745)や食品消費トップ品目の数の分布(図録7724)と重なっている。

 激しい運動の減少や食生活の変化、及び健康のための減塩志向にともなって、食塩摂取量の傾向的に減少してきた。その中で、食塩摂取量の多い地域ほど食塩摂取量の削減幅は大きかった(図録2173)。実は、グラフや地図で見られる塩分の多い食品の消費が多い地域ほど塩分を減らしてきたのである。縄文語直系地域で塩気の勝った旧来型の食生活に親しんだ者にとって現代の減塩食には味気なさを感じる場合も多かろう。そこで、そうした何となく新しい環境に馴染めない気分の大きな地域ほど戦後新しく登場したカレールウやその他の特異な品目の消費に走る傾向があるのではないだろうか。

 鳥取市が全国トップの消費額の品目は、イワシ、カレイ、カニ、梨、牛乳、ちくわといった地元産品として名高い日本海の海の幸に加えて、これとは一見対極にある、即席麺、砂糖、マヨネーズ、カレールウ、まんじゅう、スナック菓子(2位)といった即席味ともいえる食品からなっている。その結果、鳥取のトップ品目の数は全国有数である(図録7724)。鳥取市食文化のこの大いなる謎は減塩の代償消費の側面が大きいと考えればいくらか納得がいくようだ(図録7745参照)。鳥取市の50年前のトップ品目数は3品目と少なかったこともこれを裏づけていると考えられる(図録7724、なお、50年前の鳥取市のトップ品目は、「するめ」、「竹輪」、「福神漬」)。

 下表には塩分の多い食品の品目別に消費量ランキングを掲げた。塩干魚介では青森、しょう油・食塩では山形、漬物類では鳥取、みそでは長野がトップとなっている。品目によって特色がある。上位都市はいずれの品目でも上位である傾向があるが、松江のようにしょう油では2位と順位が高いのに、その他の品目は低順位なので5品目平均でも20位と低い場合もある。みそでトップの長野にも似たようなところがある。消費量が少ない方では、那覇のほか、三大都市圏の東京、名古屋、大阪がランキングの低さで目立っている。大都市圏での低さはもともとの地域性のほか減塩志向の高まりや食生活の多様化などが理由として考えられる。ただし東京の漬物類(キムチを含む)、名古屋のみそはそれほど低い順位ではないといった特徴も見られる。

 下図には、ここで取り上げた塩分の多い食品の消費量と胃がんの死亡率との相関図を掲げたが、両者には関係がありそうである(図録2158参照)。もっとも2016年国民健康・栄養調査(熊本は12年)の20歳以上の男性の塩分摂取量(年齢調整済み、図録7309)と相関図を描いてもR2は0.0645とほとんど無相関である。国民健康・栄養調査のデータが都道府県別までは信頼性が乏しいのか、それとも純粋の塩分摂取量ではなく塩分の多い食品の摂取量が問題なのかであろう。

塩分の多い食品の消費量ランキング(2013〜15年平均)
順位 塩干魚介 しょう油 みそ 漬物類 食塩 5品目平均
1 青森市 山形市 長野市 鳥取市 山形市 青森市
2 盛岡市 松江市 盛岡市 福島市 青森市 山形市
3 鳥取市 佐賀市 秋田市 富山市 秋田市 秋田市
4 秋田市 北九州市 青森市 高知市 新潟市 新潟市
5 新潟市 津市 新潟市 青森市 盛岡市 盛岡市
6 札幌市 鳥取市 浜松市 宇都宮市 長野市 鳥取市
7 静岡市 秋田市 富山市 盛岡市 福島市 長野市
8 山形市 青森市 静岡市 和歌山市 長崎市 福島市
9 甲府市 大分市 山形市 新潟市 大分市 富山市
10 富山市 宮崎市 熊本市 秋田市 高知市 静岡市
11 北九州市 高松市 宮崎市 堺市 仙台市 高知市
12 福島市 さいたま市 大分市 金沢市 福井市 北九州市
13 相模原市 山口市 長崎市 奈良市 札幌市 仙台市
14 /長野市 /鹿児島市 佐賀市 京都市 鳥取市 札幌市
15 和歌山市 千葉市 仙台市 仙台市 岐阜市 長崎市
16 水戸市 熊本市 北九州市 千葉市 山口市 大分市
17 宇都宮市 長崎市 鹿児島市 徳島市 富山市 佐賀市
18 松江市 宇都宮市 札幌市 さいたま市 甲府市 山口市
19 仙台市 福島市 金沢市 相模原市 水戸市 甲府市
20 千葉市 神戸市 福島市 津市 鹿児島市 松江市
21 高知市 高知市 鳥取市 東京23区 金沢市 宇都宮市
22 山口市 和歌山市 福井市 山形市 前橋市 千葉市
23 さいたま市 京都市 千葉市 静岡市 堺市 宮崎市
24 福岡市 岡山市 徳島市 山口市 広島市 さいたま市
25 長崎市 静岡市 さいたま市 横浜市 徳島市 津市
26 大津市 新潟市 名古屋市 広島市 福岡市 水戸市
27 横浜市 堺市 水戸市 岐阜市 北九州市 相模原市
28 津市 甲府市 福岡市 川崎市 熊本市 金沢市
29 川崎市 大津市 相模原市 北九州市 京都市 熊本市
30 京都市 水戸市 山口市 佐賀市 静岡市 浜松市
31 佐賀市 長野市 甲府市 前橋市 東京23区 福井市
32 宮崎市 盛岡市 松江市 福井市 佐賀市 和歌山市
33 東京23区 富山市 広島市 松江市 宮崎市 京都市
34 堺市 岐阜市 岐阜市 浜松市 奈良市 堺市
35 前橋市 松山市 高知市 長野市 浜松市 徳島市
36 奈良市 金沢市 津市 高松市 高松市 岐阜市
37 浜松市 相模原市 横浜市 水戸市 川崎市 鹿児島市
38 名古屋市 前橋市 前橋市 甲府市 相模原市 前橋市
39 大分市 福井市 宇都宮市 大津市 松山市 広島市
40 福井市 浜松市 川崎市 /大分市 さいたま市 川崎市
41 徳島市 仙台市 松山市 長崎市 津市 福岡市
42 熊本市 徳島市 東京23区 熊本市 千葉市 東京23区
43 大阪市 広島市 京都市 宮崎市 宇都宮市 横浜市
44 金沢市 札幌市 那覇市 名古屋市 横浜市 奈良市
45 岐阜市 川崎市 堺市 神戸市 和歌山市 大津市
46 松山市 横浜市 大津市 大阪市 那覇市 高松市
47 鹿児島市 奈良市 奈良市 札幌市 松江市 名古屋市
48 広島市 名古屋市 高松市 岡山市 大津市 松山市
49 岡山市 大阪市 和歌山市 福岡市 岡山市 岡山市
50 神戸市 福岡市 岡山市 鹿児島市 名古屋市 神戸市
51 高松市 東京23区 神戸市 松山市 大阪市 大阪市
52 那覇市 那覇市 大阪市 那覇市 神戸市 那覇市
(注)"/"はひとつ前の市と同順であることを示す。
(資料)家計調査


(2016年4月17・18日収録、6月22日鳥取市50年前との比較、2019年2月17日胃がんとの相関図)


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