ここでは、戦前からの青森と沖縄の平均寿命の推移を全国と比較しながらグラフで観察した。また両県の全国順位の変遷についても図録を作成した。 原データは厚生労働省の都道府県別生命表である。 沖縄は長寿県、子だくさん県として知られている。子だくさんかどうかを示す合計特殊出生率(TFR)を青森と沖縄について戦前からの推移を図録7300で観察した。そこでは戦前の沖縄のTFRはむしろ全国順位で最下位に近く、沖縄の子だくさんは風土的なものではなく、米軍占領下で戦後日本社会の変化の影響を受けなかった時期が長かったからということが示されていた。 それでは、長寿についてはどうかを調べたのが今回の図録である。 結論から述べると、青森は戦前から一貫して平均寿命が全国平均に比して短く、沖縄は20世紀には戦前から一貫して平均寿命が長い長寿県だったといえる。 青森の平均寿命は男女ともに2020年段階で全国最下位であるが、戦前から40位以下の低いレベルが続いているのが実情である。1970年、75年には女性は30位台前半まで順位を上げたが、その後、また最下位レベルに戻ってしまった。 もっとも図録7248でふれたとおり、都道府県間の地域差は戦前から最近へ向けて大きく縮小していおり、同じ最下位レベルであっても、全国レベルに近づいていることも確かである。 沖縄の平均寿命は2020年段階では男では43位、女では16位である。 沖縄の男性の全国順位は1980〜85年は1位、90年〜95年でも4〜5位であり、戦前から一貫して基本的に1位を続けている女性とともに長寿県の名声をほしいままにしていた。こうした実績から人口当たりの百歳以上高齢者数も沖縄が2009年まで第1位であった(図録1163参照)。 このため、沖縄は長寿県のイメージが強かったし、1995年には世界に向けて「沖縄世界長寿地域宣言」も発表したようにそれを自負してもいた。世界五大長寿地域がブルーゾーンとされ、イタリアのサルディーニャ島、アメリカカリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリア島と並んで沖縄県もそう呼ばれていた。 ところが、男性の順位は2000年以降、女性は2010年以降、大きく順位を低めてしまい、男女とも長寿県ではないといわざるを得ない。肥満やそれと関連する生活習慣病が原因だといわれるが、肥満度が改善されても順位は回復しないので、関連についてなお研究が必要である。沖縄の肥満度については図録7310参照。 沖縄の男性の平均寿命の都道府県順位が突如2000年に4位から26位へと急落した状況に関し、沖縄の医学関係者の間では「26ショック」とささやかれたという。しかし、これは、実は戦前生まれの長寿であった世代(コーホート)のウエイトが小さくなって、若干全体の平均寿命の相対地位が低下し多数ゾーンに包含されただけであり予想の範囲内の事態だったとされる(上田尚一「統計グラフのウラ・オモテ 」講談社ブルーバックス、2005年)。 確かに、後の表に見るとおり、男女ともに40歳未満の平均余命は65歳以上の平均余命と比べて全国順位が低くなっている。沖縄タイムス(2022.12.24)によると「短命傾向が深刻化しているのは20〜64歳の働き盛り世代だ。(沖縄県保健医療部の)糸数部長は高齢の親より早く子どもが他界するケースが沖縄中で増えていると説明し、「家庭内はもちろん、地域にも大きなダメージだ。県民と危機的な状況を共有したい」と訴えた」。 なお、沖縄の女性の例をとると、同じく全国1といっても、対全国比は、1921〜25年から2005年にかけて、1.17から1.01へと縮まっており、地域差が大きく縮小していたが、2020年にはついに全国16位まで順位を下げてしまった。 近年の順位の低下の要因については、飲酒習慣にもとづく肝疾患死亡率の高さがあげられる場合も多い(下表参照)。 「毎晩、晩酌を欠かさないというタイプではなく、全国と比較しても呑み会の回数が多く、その時に大量にアルコールを摂取する傾向があると考えています。例えば沖縄では、地縁・血縁に根ざした“模合(もあい)”というグループがあり、かつては地域の金融システムとして機能していました。ところが今は、呑み会のグループに変容していることも少なくないんです。具体的には、毎月に1度、酒宴が開かれます。社交的な人は模合を掛け持ちしているので、更に飲酒機会は増えます。そして沖縄県に限らず、お酒の場で出てくる食べ物は、高カロリー、高脂肪のものが少なくありません。シメに炭水化物を大量に摂取する人もいます。更に車社会ですから終電を気にせず呑みますし、これが運動不足の原因にもなっています。こうしたことが折り重なって、沖縄県の平均余命を引き下がっていると考えています」(沖縄県保健医療部)(2017年12月26日ヤフーnews「デイリー新潮」) 全国ではこうした飲酒習慣は少なくなっているのに沖縄では根強く残っているため全国順位に影響しているというわけである。確かに、肝疾患の年齢調整死亡率の推移を全国と沖縄で比較すると全国は低下傾向にあるのに対して沖縄は横ばい傾向なのである。 沖縄県は2040年までに男女とも平均寿命日本一を目指す計画を立て、「健診の受診率の向上や肥満対策、肝臓負荷を下げるアルコール対策の3点に注力してきたが、今回の死因別死亡確率では飲酒の影響が出やすい肝疾患が男女1位で、糖尿病や高血圧性疾患など、生活習慣病による疾患も上位に位置」(琉球新報2022.12.24)し、思ったような成果があらわれていないことが明らかとなった。「県は早期の対応として、長寿を目指す行動計画「健康おきなわ21」の見直しを急ぐ。また、企業などが従業員の健康促進に取り組む「うちなー健康経営宣言」の普及で、若年・中年層などの働き盛りの男性を中心とした健康管理の意識付けに取り組むという。糸数部長は「所得が低いほど健康的行動が取れない国のデータもあるのでそこも取り組まないといけない」と語った」(同上)。 沖縄県は、健康診断で何らかの異常が見つかる「有所見率」が10年連続で全国最悪。肥満も深刻であり、バランスを欠いた食生活や車社会による運動不足などが原因と指摘されている。 歴史的には、沖縄の平均寿命は、合計特殊出生率と異なり、米国統治下の影響(あるいは本土からの影響からの隔離)は認められない。出生率が多分に社会的、文化的なものによる影響が強いのに対して、平均寿命は、栄養・保健医療の技術的な側面の影響が強く、この面に関しては米国統治下でも本土と同じように改善が進んでいたためといえよう(占領下沖縄には本土並みの健康保険制度が存在しなかった影響が少なくとも平均寿命に関してはあらわれていないのは何故かという点についてはなお調べがつかない)。 なお、ここで取り上げた沖縄と青森については戦前から戦後にかけて全国順位に大きな変化がないが、全国的には、この間、地域によって大きな順位の入れ替えが生じている。この点については図録7253、7254参照。
(2009年12月27日収録、2013年2月28日更新、2017年12月17日更新、12月29日年齢別平均余命、死因別死亡確率、2022年12月24日更新、12月25日コメント補訂、2023年5月4日ブルーゾーン)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|