情報通信ネットワークの利用率の年齢別・地域別・所得別の格差を「デジタル・デバイド」と呼び、情報化社会の進展の中において、解消すべき課題とされる。

 ここでは科学技術についてもOECDの報告書から、デジタル・デバイドのうち年齢格差について、OECD全体の推移と各国別の比較を掲げた。

 先進国全体をあらわすとされるOECD平均の推移を見ると、年齢平均が2005〜16年に56%から84%へと上昇する中で、若年層の上昇幅を高年層の上昇幅が上回っているため、若年層と高年層の格差は徐々に解消されてきていることがうかがえる。

 次に、直近年の各国別の年齢格差の状況を見ると、年齢計のインターネット利用率の低い国ほど年齢格差が大きいという一般傾向がうかがわれる。つまり、インターネットの遅れている国では、若者はいち早くインターネットを利用するようになったのに対して高齢者はなかなか若者についていけない状態をあらわしている。国ごとの違いは若者では小さく、高齢者では大きいのである。

 こうした一般傾向と異なる国に2通りある。

 ひとつは全体の利用率とは関わりなく年齢格差が小さい国であり、スウェーデン、イスラエル、米国などがこれに該当する。

 こうした国では、もし格差があるとしても年齢格差ではなく、貧富の差などの方が大きいと考えられる。インターネット先進国の米国で若年層の利用率が85%とOECD諸国の中で最低レベルなのはやはり目を引く。貧富の格差が大きいのが理由と考えられる。

 スウェーデンでは電子マネーが非常に普及している(図録5098)。どちらが原因でどちらが結果か分からないが、インターネット利用の年齢格差がほとんどゼロであることと関係していよう。

 もうひとつは、逆に、発展度の低い国ほど年齢格差が大きいという一般傾向の割に年齢格差が大きい国であり、日本が典型である。全体の利用率はOECD第2位と高いのに対して、高齢層の利用率はOECD第9位の77%と低く、年齢格差が相対的に大きい点が目立っているのである。

 日本のこうした特殊性の理由としては、日本の高齢者が他の先進国と比較して、とりわけ、進取の精神に欠けており、その背景のひとつは経済が急成長し高学歴化が進んだ日本では高齢者には低学歴の者が多いからという解釈もあり得よう(年齢別の学歴の国際比較は図録3929)。

 インターネットが普及する時期にすでに管理職の年齢だった現在の高齢層は部下にインターネット対応を任せっぱなしにしたため、いまさらインターネットをうまく使えないという側面もあろう。

 しかし、IT対応の年齢比較を行ったOECDの成人スキル調査の結果からは、むしろ、能力はあるのにITを使いたがらない高齢者が日本には多く、その理由は、使わなくても済むほど社会が便利だからと考えられる(図録6245)。そうして見ると、日本の高齢層のインターネット利用率が相対的に低いのもこうした理由が大きいものと考えられる。

 同じOECD報告書では、ネット購入や電子政府の利用率も日本は相対的に低いというデータが出ているが、何故かを考えると、ネット社会が発達していないというより、ネット以外でも買い物が便利で行政手続きが容易だからなのである(図録6203参照)。新しい技術に対応するのはバリアが大きい高齢者にとって日本はやさしい社会である点が高齢者のインターネット利用が高まらない大きな理由であろう。

 高齢者のIT機器使用状況を調べた国際意識調査でも比較している国数は少ないものの同様の結果が出ている(図録6247)。これを見るとドイツも日本と同様「必要を感じない」高齢者が多く、図録におけるドイツの年齢格差にも日本と同様の背景がうかがわれよう。

 関連して同調査からIT機器を使っていない高齢者にその理由にきいた結果として費用面が挙げられた割合を次図に掲げたが、韓国や米国では4分の1から3割ぐらいにのぼっており、両国では、貧富の差がデジタル・デバイドに大きく影響していることがうかがえる。ただ、図録のインターネット利用率の年齢格差が韓国で大きく、米国では小さいことと考え合わせると、韓国では貧富の差が年齢格差としてあらわれているのに対して米国は年齢格差としてはあらわれていないという違いがあろう。


(2018年8月31日収録)


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