OECD諸国の公務員について各国を比較してきた(公務員数は図録5192、中央・地方比率は図録5192a、女性比率・高齢比率は図録5193、公務員数と財政規模による大きな政府か小さな政府かの総括図は図録5194)。

 ここでは、同じくOECDデータにより、公務員の給与水準を概ねうかがうことができるデータを掲げることとする。給与には政府による社会保障負担や諸手当も含まれているので、公務員に対する待遇として含まれていないのは低家賃の公務員住宅など限られたものであろう(出所はOECD,Government at a Glance 2009 )。

 独自調査の結果ではないがもっと新しい年次のデータは図録5191に掲げた。

 公務員が多い国ほど、公務員の給与総額(人件費総額)も多いはずであるが、この2つの相関図を描いてみれば、一般傾向からどれほど離れているかで給与水準が推定されると考えることができる(原データは公務員数比率給与比率)。

 図に見られるとおり、公務員数比率と公務員給与比率はほぼ比例している(2つの指標は年次が異なるので厳密な分析ではない。ただ大きな民営化などがなければ両者とも毎年そう大きく変わらない性格のデータであるので比較が可能)。

 一次近似直線から上方に乖離している国は、給与水準が高いと見られるが、ポルトガルがかなり高くなっているのが目立っている。この他、財政危機が叫ばれているギリシャ、スペインといった国も相対的に給与水準は高くなっている。

 小さな政府を標榜する米国は、この図では、公務員比率、公務員給与比率ともに中位のレベルにあり、小さな政府とはいえない。これは地方公共団体、地方自治体の公務員が多く、その給与も決して低くはないためである。東京新聞は「役人天国アメリカ」という国際面の連載で、強力な組合を背景に地方公務員の給与が民間水準より高く、老後保障も手厚い場合が目立つこと、また自治独立の精神から小さな自治体が非常に多く(人口、面積とも日本より小規模なニューヨーク州の自治体の数が約3400)、それだけコストは高いことを報じた(2010年12月25〜27日阿倍伸哉記者)。

 他方、一次近似直線より下方の国は、給与水準が比較的低い国と見られる。ノルウェー、チェコ、ドイツ、スロバキアといった国では、相対的に給与水準は低いことが分かる。日本についても、この直線より下であり、給与水準が高いとは言えない。ただし、図録5193で見たとおり、日本の公務員は高年齢化が相対的に進んでいないので、勤続年数の長い高年齢公務員が少ないせいもあって、給与水準が相対的に低く出ている可能性もある。同一年齢、同一役職で給与水準がどうかは、そのための調査をしない限り分からない。

 データから見ると、日本の公務員数は労働力人口との対比で最少なので、日本の政府サービスの範囲が他国並みの大きさであるとすると、日本の公務員は「少数精鋭」あるいは「政府サービス実施のための一人当たりの負荷が大きい」と考えることも可能であるが、だからといって以上のように給与水準が世界と比べて高いわけでもなさそうである。この図は日本の公務員が公務員以外と比較して恵まれているかどうかを示したものではない。日本の公務員が給与的に恵まれているとしたら、それでも、海外の公務員が恵まれている程度以上ではないことを示しているのである。また、ここで対象となっている公務員は地方自治体職員、教員、警察官などを含んだ広い範囲の公務員であることにも注意が必要である(図録5192参照)。

 なお、公務員に支払っている給与総額(対GDP比)から大きい政府か小さい政府かを判断するとすると、日本はOECD諸国の中でも最も小さい政府といえる。

 比較した国はOECD諸国に属する24カ国、具体的には、スウェーデン、オランダ、フィンランド、フランス、ハンガリー、英国、ベルギー、チェコ、ポルトガル、ノルウェー、カナダ、イタリア、米国、ドイツ、オーストリア、ポーランド、スペイン、日本、スロバキア、ギリシャ、アイルランド、韓国、スイス、メキシコである。

(追加コメント)

 この図録は2010年10月9日から11日にかけてネット上で大きな反響を呼んだ。日本の公務員は恵まれているかという点についての関心の高さを物語ると云って良いであろう。

 当初のコメントでふれておらず、この図は不当であるという批判の論拠となっている点について言及しておこう。

 図を見れば、日本の公務員比率は5%であるのに対して、給与比率は6%となっている。ところが、スウェーデンでは公務員比率28%であるのに対して給与比率は15%である。労働分配率(国民所得に対する雇用者報酬の割合)はどの国も7割前後であることを考えると、日本の公務員の1人当たりの給与水準は相対的に高いと結論づけられる。日本の公務員の給与が雇用者全体と同じ水準であれば、5%×0.7=3.5%しか給与比率がならない筈であるのに、実際の6%はこれの1.7倍(6%÷3.5%)なのである。スウェーデンは同じ値が0.8倍(15%÷19.6%(=28%×0.7))なのだ(国民所得をGDPと同じとし労働分配率を0.7で計算)。

 図の1次近似線は公務員の数が少ないほど、給与水準が高くなるというOECD諸国における一般傾向をあらわしていると考えられる。公務員比率が5%の日本の様な国と公務員比率が28%のスウェーデンの様な国とでは、公務員の職種の内容がまるで異なっていると考えなければならない。日本では民間が行っている教育、保健医療、福祉などの分野の多くが公務員によって担われていると考えなければ帳尻が合わない。実際、女性比率の比較では日本は20%、スウェーデンは49%(図録5193参照)である。小学校の教師の女性比率が日本では高いと思われているが諸外国は日本よりさらに高いのである(図録3852参照)。男女の給与水準の差や勤続年数の差、パートタイマーの比率の違いなどが一般傾向を生んでいると考えられる。

 従って、いわゆる省庁や役場・役所職員など本来の公務に公務員の範囲が限られて来るのに応じて、相対的な給与水準は高まっていくのがOECD諸国の一般傾向であることを図の1次近似線はあらわしていると考えられる。こうした傾向のなかで日本の公務員が恵まれた給与を得ているとして、その程度が一般傾向から見て特段に恵まれている訳ではないと当初のコメントは云っているのである。

 ネットでは余り指摘がなかったが、この一般傾向を直線近似させることが正しいとは限らない。下に一次回帰直線と対数回帰曲線の2つを対照させた。対数回帰を傾向線として採用すれば、日本の公務員の給与水準は一般傾向から乖離していないと云うこととなる。


(2010年10月7日収録、10月12日追加コメント、12月28日米国コメント追加)


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