最初の図には、当初所得と再配分所得のそれぞれについて、格差を示す指標であるジニ係数の推移を掲げた。所得格差の議論で、当初所得の所得格差の拡大だけが取り出され、格差が大きく拡大していると指摘されることもあるが、高齢化に伴って当初所得が大きく減少する者が増加しているのであるから、当然ともいえる動きである。むしろ本当の所得格差は再配分所得の方である。 再分配所得も当初所得ほどではないが上昇傾向にはある。高齢世帯は年金受給を加えてもなお就業世帯に比べて所得が少なくなると考えられるので、こちらもそう著しい上昇でなければ、そう大きな問題ではないともいえる。生活に必要な所得は高齢者になれば、子供がいる就業者世帯よりも少なくて済むので、その分、高齢世帯の所得が少なくなっても問題はないのである。(所得格差の問題は、同じ年齢層で所得格差が広がっているかであり、これについては図録4665参照。) 2008年の調査結果は小泉改革の影響を評価するのに役立つ。小泉政権(2001年4月〜2006年9月)の構造改革政策とそれを引き継いだ自民・公明の連立政権によって、社会格差が広がったと民主党を中心とする野党やほとんどのマスコミはさんざん批判を繰り返したが、2005年から2008年にかけての変化を見ると当初所得のジニ係数の上昇は上昇度を以前より低め、また、再配分所得は、この期間にむしろジニ係数を低下させている(図録4663参照)。 なお、民主党政権期(2009〜12年)にかかる2008〜2011年にはジニ係数は当初所得も再配分所得も上昇している。 再配分による所得格差の改善度(ジニ係数の低下度)を第2のグラフに示している。高齢化にともなって、この改善度は大きく上昇している。1978年当時は7.4%と1割弱の改善度であったのに対して、2011年には31.5%と約3割の改善度にまで上昇しているのである。我が国の所得再配分の機能は、充分に働いていると見なすことができる。小泉改革がもし所得再配分機能の見直しを企図していたとすればそれは失敗していると捉えざるをえない。 問題は、この再配分機能が将来にわたって維持できるかどうかである。これがまさに社会保障の持続性の問題である。 税金による所得分配(そしてそれによる所得格差の改善)についてであるが、まず、個人が収める直接税の多寡による再配分がここでの対象である点に気をつけておく必要がある。法人税や消費税による再配分は対象外である。 税金による所得配分は、1987〜88年の抜本的税制改革による累進緩和(個人所得課税最高税率88%→65%)、94年の累進緩和(65%課税2500万円以上から3600万円以上へ)、99年の最高税率引き下げといった「累進性の低下」、及び94年〜96年の特別減税や99年以降の定率減税による「税の全般的な所得再配分機能の低下」により、有効性を低下させてきている。 税の再配分効果にかわって大きな役割を果たすようになったのが、社会保障による再配分である。1978〜81年当時は、所得格差の改善度は、社会保障による分より、税金による分の方が大きかったのに、最近では、ほとんどが社会保障による再配分、所得格差改善となっていることが図から明解である。 ここで税金には、消費税は含まれておらず、消費税を財源とする社会保障制度の保持については、別の議論となる。 なお、各年齢層間の所得再配分の状況については図録4668参照。地域間の所得再配分の状況については、図録4669参照。所得再配分の国際比較については、図録4666参照。 なお、各年の報告書では、ジニ係数の変化について要因分解の試算を公表している(下図参照)。 これによれば、2005年から2008年にかけての当初所得のジニ係数の上昇について高齢化や単独世帯の増加の要因を除くとむしろジニ係数は低下していると見られる。ところが、予想されたことだがマスコミは当初所得のジニ係数の上昇だけを取り上げている。例えば「貧困対策も急務だ。世帯ごとの所得格差を示す「ジニ係数」が過去最大になっていることが09年調査でわかった」(毎日新聞2010年10月4日社説「失業率と貧困 長期的視野で対策を」)。 2011〜14年も2005〜08年と同様に高齢化や単独世帯の要因を除くと格差は縮小していた。ところが、マスコミは、年金受給額を除いているので高齢者が増えれば格差が上昇するのは当たり前の当初所得にだけ着目し、「過去最大の格差」という見出しで大きく報じ、「厚労省は高齢化と単身世帯の増加が主な要因と分析」(毎日新聞2016年9月16日)というだけで、この2つの要因を除くと格差はむしろ縮小していることには全然ふれない。そして、そのまま「非正規労働者の賃金底上げなどの格差対策が求められる」(同)とするのは、やはり結論ありきの記事であり、ミスリーディングであるといえよう。本来は、なぜ、この期に格差が縮小したのかを分析し、この傾向を今後も維持可能とするには何が必要かと論ずべきなのである。 なお、2017年は当初所得、再配分所得ともに格差が縮小したが、これは、当調査の調査客体における世帯主の年齢が65歳以上の世帯の割合が減少し(48.2%から46.2%)、現役世帯の割合が増加したことが影響していることが分かる。 2017〜21年も2011〜14年の時のような「所得格差過去最高水準」というような見出しが踊った。高齢化要因を除くとむしろ格差がかなり縮小した点は注目されず、その要因を探ることもない。 (2006年4月13日収録、2007年10月9日更新、2010年9月27日更新、10月4日コメント追加、2013年10月11日更新、2016年9月15日更新、9月16日要因分解図、2019年9月11日更新、2023年8月23日更新)
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