国際共同調査であるISSP調査の結果から、日本人がどれほどスポーツ好きかを図録3989tで調べ、日本人がどんなスポーツ・運動をよくしているか、またどんなスポーツをテレビでよく見ているかを図録3989sで調べた。ここでは、同じ調査から、各スポーツの愛好度の15位までの世界ランキングを掲げることで日本人とスポーツとの関わりの特徴を浮かび上がらせる。

 取り上げたスポーツは、野球、サッカー、テニス、ゴルフである。バレーボール、格闘技、バスケットボールについては図録3989z参照。また、ラグビーについては、同調査による同様のグラフを図録3989bに掲げたので参照されたい。

 野球を最もよくするスポーツとして挙げた比率が最も高いのは米国の2.9%であり、日本、ドミニカ共和国が米国に次ぐ高さとなっている。テレビでよく見るスポーツとして野球を挙げた比率では、ドミニカ共和国が89.6%と非常に高く、台湾、日本がこれに次いでいる。米国は日本、韓国に次ぐ第5位の22.7%である。メジャーリーグ(大リーグ)を有する野球大国米国でテレビでの観戦率がそれほど高くないのは、野球場での観戦も多いことや野球以外でバスケットバールやアメフトなど他の多くのスポーツがさかんなせいであろう。

 世界ランキングのグラフを見ると野球の場合、他のスポーツより、さかんな国が特定の地域に偏っていることが分かる。すなわち、米国、メキシコ、カリブ諸国、フィリピンといった米国文化圏、及び日本、台湾、韓国といった東アジア以外では、する人も見る人も非常に限られている。その中で、日本人の野球の愛好度はかなり高いのである(注)

(注)プエルトリコが図に登場しないのは調査対象国から外れているからである。
 なお、2023年3月に行われているWBC大会への各国国民の興奮度にもこうした野球愛好度が反映している。成績が振るわない韓国で盛り上がりにかけることを題材とした記事にもそれがうかがえるので以下に引用する。
「WBCは今大会の観客動員数やテレビ視聴率、グッズ販売等のあらゆる数値が過去最高を記録していることを発表した。アメリカが初戦でメキシコに土を付けられ、優勝候補だったドミニカ共和国が1次ラウンド敗退を余儀なくされるなど、大会自体のレベルとエンターテインメント性の向上も顕著だ。日本国内は言うに及ばず、世界規模で大盛り上がりを見せている。
 だが、そうした上昇ムードを傍目に見ながら、少し寂しげな反応を示したのが韓国メディア『SPOTV News』だ。「日本が48%、プエルトリコが61%だ! 全世界の野球ファンが興奮するなかで韓国だけが冷め切っている」と題して、次のように論じている。
 「日本のテレビ視聴率(世帯別/関東圏)が凄まじい。1次ラウンドの韓国戦が44.4%と過去のWBC最高視聴率を叩き出すと、その6日後の準々決勝・イタリア戦では48.1%を記録してあっさり更新した。もともと大きな注目を集めるところで、今回は大谷翔平やダルビッシュ有らメジャーリーガーが加わって期待値が跳ね上がったのだ」
 さらに同メディアはプエルトリコがドミニカ共和国を破ったゲームでは、同国の国内視聴率が61%に達した事実に驚愕した。「底辺から這い上がったチェコ代表は成績に関係なく話題になった。母国でも小さくない熱狂を運んだようだ」と伝え、イタリアやオーストラリアも望外の結果で存在を誇示したと称賛。「メキシコなどは大統領が応援に駆け付けた。出場国が発するエネルギーは尋常なレベルではない」と感服した。
 そのうえで、「韓国はまるで冴えない」とバッサリ。「日韓戦の国内視聴率はライブ放送した三社を合わせても11.7%に過ぎず、前回大会を大幅に下回った。代表チームは1次ラウンドで敗退する憂き目に遭い、むしろファンの怒りを深く理解するための大会となった。国内に比較的成功しているプロ野球リーグを持ちながら、世界的な潮流から取り残されてしまったのだ」と嘆く」(THE DIGEST 2023.3.19)。

 サッカーは、日本では、野球に次いで人気のあるスポーツともいえるが、世界的なランクでは、それほど高い愛好度とはいえない。というのも、サッカーは全世界的に人気の最も高いスポーツだからである。愛好度の世界ランキングを見ると中南米や欧州の諸国の愛好度は日本を大きく上回っていることがうかがえる。東アジアでも韓国は日本と比較にならないほどするのも見るのも比率が高くなっている。特にテレビ観戦率は世界一の高さとなっている。

 テニスは、野球やサッカーとは、ぜんぜん異なった特徴をもっている。すなわち、テニス愛好度は、するスポーツとしては、世界一のオーストリア、2位のベルギーに次ぐ世界第3位の高さであるのに対して、見るスポーツとしてのランクは世界34か国中31位と非常に低いランクなのである。

 日本におけるテニスをする人口の多さは、やはり、現在の天皇が皇太子だった1957年8月に後の美智子妃と軽井沢でテニスを通じて出会い、その後もテニスを通じて交流したことが結婚につながった点から最初のテニス・ブームが起き、次に1970年代前半の日本人選手の国際的活躍、2001年にアニメとなった「テニスの王子様」によるブームを経て、学校スポーツ、テニススクール、そして最近は健康スポーツとしてテニスがさかんになっていったためであろう。

 反面、日本では国際的なテニス大会が開催されておらず、また世界ランキング上位の選手が持続的に存在しなかったため、見る方の人気は高まらなかった。世界の頂点で戦う最近の錦織圭選手の活躍で見る方のテニス人気も高まってくるかもしれない。

 テニスをする人口の多さと比して世界的選手が余り出ない理由の一つとして、中学でテニス部が少ないため「空白の3年間」が生じていることが挙げられる。「小学生までは民間クラブでテニスに親しんでいても、テニス部(硬式)のある中学校は全国で約1割しかない。このため中学進学を機にやめてしまい、中学時代の3年間に伸びるチャンスを奪われるケースが多いのだ」(朝日新聞2016.3.17)。背景としてはテニスが日本中学校体育連盟に加盟していない点がある。19世紀末に安価なゴムボールではじめられるソフトテニスが普及し、中学ではこちらが主流となっているためらしい。

 国際的なテニスの4大大会である英国のウィンブルドン選手権、全米オープン、全仏オープン、全豪オープンの創設年次は、それぞれ、1877年、1881年、1891年、1905年である。こうしたこともあって、こうした諸国がテニスの本場のように思われているが、実は、テニスをする人の割合はこうした国ではそれほど高くない。オーストラリア、フランスは5〜6位であるが、米国、英国は15位、23位なのである。テニスを見る人の割合でもこの4カ国が特段高い訳ではない。日本と異なりテニスは特定の階層の好むスポーツであるにすぎないからかもしれない。

 最後に、ゴルフであるが、野球ほどではないが、ゴルフを好きな国は英語圏諸国を中心に比較的限られている中で、日本の位置は、する方も見る方も堂々世界一である点で目立っている。ゴルフ場の緑の維持にとって日本の風土は決して適しているとは言えないにもかかわらず、日本の会社社会に組み込まれた接待ゴルフ、付き合いゴルフがさかんとなり、各種ゴルフトーナメントも開催され、世界で活躍する有力なゴルフ選手も持続的に存在して来たためだと考えられる。1980年代後半からバブル現象の象徴としてゴルフクラブの会員権の高騰を背景としたゴルフ場建設のラッシュが起り、その後、バブル崩壊とともに経営的に頓挫したものの結果として国内にゴルフ場が多く残されたことも影響していよう。その結果、ゴルフ場が不足していて料金が高い韓国からゴルフのプレイを目的とした訪日客が多いというような現象にもむすびついている。

 どんなスポーツが好きかに関するもっと新しいデータとして、オリンピック競技に限定されるが、図録3612に関心の高いスポーツ競技について各国比較したので参照されたい。日本でも最近はバスケットボールへの関心が高まったことなどがうかがわれる。


(2015年9月2日収録、9月6日12位までから15位までにランキング拡張、またバレーボールと格闘技の世界ランキングを参考に追加、2016年3月17日中学テニス部の少なさコメント追加、2023年3月19日WBC大会への各国興奮度、2024年7月27日参考掲載していたバレーボール・格闘技にバスケットボールを加えて図録3989zとして独立化)


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