1億円の報奨金は制度が資金不足もあって2020年の3月に終了していたので鈴木選手は残念ながらこれを受け取れなかった。 日本実業団連合は2015年7月から男女マラソンに日本新=1億円などの報奨金を設定した。当時、男子は02年の高岡寿成の日本記録が10年以上破られないなど低迷していたからである。その後、2018年の東京マラソンで設楽悠太、同年シカゴマラソンで大迫傑(すぐる)、2020年東京マラソンでは大迫が再び日本記録をマーク。そして今回の4秒台である。厚底シューズの開発や給水成分の改善などもあったが、高額賞金によるニンジン効果は確実にあったといえよう。 振り返れば、1980年代半ばの瀬古、中山、児玉、2000年前後の犬伏、藤田、高岡と短期間に3人のマラソン選手が連続して日本記録を更新する時期があった。今回の設楽、大迫、鈴木の連続快挙もこうした時期の再来だと考えられる。きっかけはともかく、連鎖反応を起こす時期があるのだと考えるのがよいだろう。 2020年3月1日に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、一般ランナーは参加せず「エリートランナー」枠の選手のみで実施され東京マラソンで、大迫傑(28)が2時間5分29秒で日本選手トップの4位となり、自己の持つ日本記録を更新した。これで、五輪代表に大きく前進し、日本記録更新で1億円もゲットした。 2018年10月、「ワールド・マラソン・メジャーズ」のシカゴ・マラソンで、大迫傑(27)が2時間5分50秒で3位となり、設楽悠太がつくった2時間6分11秒の日本記録を更新した。またこれにより日本実業団連合による報奨金1億円を手にした。 「大迫は世界最高峰の集団「ナイキ・オレゴンプロジェクト」を練習拠点とする。日本人の約75%は、体への負担は少ない反面、スピードは出にくいヒールストライク走法(かかと着地)。だが大迫が磨いたのは主にアフリカ勢が採用するフォアフット走法(爪先着地)。足の腱を利用し、短い接地時間で効率的に推進する。はだしで走るなどの生活習慣があると自然と身に着くが、日本人は骨格や筋肉も違い、難しいと言われる。今の大迫は太もも裏、ふくらはぎ上部には美しい筋肉が付くが、他は一切無駄がない。世界トップを狙う選手ばかりの環境に身を置き、フォアフットでも42・195キロを走りきれる体を作り上げた」という(日刊スポーツ、2018年10月7日)。 ピョンチャン冬季五輪の最終日に当たる2018年2月25日に東京マラソンが、東京都庁から東京駅前までの42.195キロのコースで行われ、2位の設楽(したら)悠太選手(26)が2時間6分11秒の日本新記録を樹立した。従来は高岡寿成選手(カネボウ)が2002年シカゴでマークした2時間6分16秒で16年ぶりに5秒更新することとなった。 日本新記録を作った設楽選手には、陸上競技の振興を図る企業・団体で構成する日本実業団陸上競技連合などから報奨金1億円が贈られた。報奨金制度は2015年に東京五輪に向けてマラソン選手を鼓舞するため創設され、設楽が初の1億円獲得者となった。 男子マラソンの日本記録の歴史は世界記録への挑戦の歴史である。1911(明治44)年、東京高等師範学校(現筑波大学)の金栗四三は、翌年開催されるストックホルム五輪に向けたマラソンの予選会で当時の世界記録(ただし距離は25マイル=40.225キロ)を27分も縮める2時間32分45秒で走り、短距離の三島弥彦とともに日本人初のオリンピック選手となった(ウィキペディア「金栗四三」)。そして、これがNHK大河ドラマ「いだてん」の前半のハイライトとなった。 金栗選手の記録は公式になっていないが、その後、1935年には、鈴木房重、池中康雄、孫基禎の3選手が相次いで2時間26〜27分の世界記録を樹立し(鈴木選手の記録は日本では非公認)、戦後も1963年に寺沢徹選手がエチオピアのアベベ・ビキラの世界記録を破る2時間15分15秒8を記録するなど、日本記録が世界記録になるケースが多かった(Wikipedia,"Marathon world record progression")。 ここでは、その後の男子マラソン日本記録の推移を図にした。世界記録の推移は図録3989e参照。 1965年に重松選手が世界記録を更新してからは、日本記録は世界記録に遅れを取る状況が続いている。日本記録は、世界記録に大きく差をつけられた後、世界記録にかなり追いつくという動きを2回繰り返したが、現在は、3度目として、世界記録に大きく差をつけられている状況である。 1度目は1985年前後の瀬古選手・中山選手・児玉選手の時代、2度目は2002年の高岡選手の時代に世界記録に迫ったが、その後は、アフリカ選手の躍進により、大きく差を開けられる格好になっている。2018年の設楽選手の16年ぶりの日本記録やその後すぐの大迫選手の日本記録は、さほど、世界記録との差を縮めることにはなっていない点が残念である。 なお女子マラソンの世界記録・日本記録の推移については図録3989k参照、また短距離100m走の世界記録・日本記録の推移については図録3988p参照。競泳100m自由形の日本記録については図録3988s参照。
(2018年2月26日収録、9月16日世界記録更新、10月7日更新、2019年1月12日宗茂、児玉泰介両選手の名前の誤記修正、2月3日金栗四三についてのコメント追加、2月4日鈴木房重〜寺沢徹各選手の世界記録、2020年3月1日更新、2021年2月28日更新、3月1日コメント更新、2022年9月25日世界記録更新、2023年10月9日世界記録更新)
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