競泳男子100m自由形の世界記録と日本記録の推移をX軸の時間軸とY軸の記録秒数の相関で示した。陸上男子100m走、男子マラソンについての同様な図は、それぞれ、図録3988p、図録3989jで示している。

 陸上100m走と比べ、同一選手が何回も記録を出す場合が多いので記録の数も小刻みとなっている。世界記録ではジム・モンゴメリー選手(米国)とマット・ビオンディ選手(米国)がそれぞれ4回づつ記録を更新している。日本では佐藤久佳選手が5回も記録を更新している。

 全体としては、世界記録が先行し、日本記録がそれを追いかける格好になっている。しかも世界記録と日本記録の差は縮まりつつある。陸上100mやマラソンでは差が広がっているのとは対照的である(上記図録参照)。

 記録の更新は競泳水着の発達とも深くかかわっている。

 2008年オリンピック北京大会では英国SPEEDO社が開発した「レーザー・レーサー」が登場した。この競泳用水着は、摩擦抵抗の低減を主なターゲットとしてきた従来の水着とは異なり、水着の表面に水を透過しない極薄のポリウレタン素材である「レーザー・パネル」を接着することで、体の凹凸減らし、断面積を縮小することに焦点が当てられた。締め付けの強さから装着には他人の手を借りる必要がある。この水着を使った結果、競泳の新記録が続々と生れた。記録更新への影響は、選手の体型を変形する負担と効果のバランスから、長距離より短距離、男子より女子で著しかった。

 国際水泳連盟(FINA)は、体型を変え身体に大きな負荷を与える水着の開発競争を防ぐために、新型の高速水着を制限する目的で素材を繊維のみとする新たなルールを設け、2010年1月1日から適用した。同時に水着が体を覆う範囲も男子選手は腰からひざまで、女子選手は肩からひざまでと従来より狭まった。

 2008〜09年の新記録は「高速水着時代の記録」と表現されることもある。確かに、ここで見た男子100m自由形の世界新記録は同時期に集中してあらわれたが(図の18〜23)、2010年以降は10年近くなるのに新記録がない。

 ブラジルのセーザル・シエロ選手が2009年の世界水泳選手権で世界記録を出したときには、「アリーナ社製の高速水着で泳いだ。22歳の新王者は「猛練習で自分を追い込み、限界寸前で速く泳げる体になれた。水着が織物に戻っても自分を信じれば46秒台を出せる」と言い切った」(日刊スポーツ2009.7.31)というが、やはり、高速水着なしでは新記録が難しくなったのである。

 日本記録と世界記録の差は、1990年前後には3秒ほどであったが、それがどんどん縮小する傾向にある。

 中村克選手(イトマン東進)が2018年2月にコナミオープンで記録した47秒87という日本記録は、日本記録を更新しただけでなく、かなり前にブラジルのセーザル・シエロ選手が更新した世界記録46秒91(図の23)との差が0.96秒となり、世界記録との差がはじめて1秒を下回った点でも注目される。

 また、「高速水着時代の記録」以前のピーター・ファン・デン・ホーヘンバンド(オランダ)の世界記録47秒84(図の17)にはわずか0.03秒の差とほとんどタイに近いタイムになっている点でも注目に値する。

 なお、中村克選手の日本記録は、オリンピック3番相当の記録だという(2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックで銅メダルを獲得したネーサン・エイドリアン(米国)の記録は47秒85、4位のサント・コンドレリ(カナダ)は47秒88)。

(原データ)

競泳男子100m自由形の日本新記録の推移
樹立日 選手名 所属 記録 大会
1 1986年9月1日 藤原勝教 近大付属高 51秒56 第10回アジア競技大会
2 1991年8月1日 中野勉 東京SC 51秒37 第4回パンパシフィック水泳選手権
3 1994年6月1日 松下幸広 中央大学 50秒98 第70回日本選手権水泳競技大会
4 1998年1月1日 伊藤俊介 日本 50秒93 第8回世界水泳選手権
5 1998年9月1日 伊藤俊介 中央大学 50秒68 第74回日本学生選手権水泳競技大会
6 1999年6月1日 伊藤俊介 富山財団 50秒45 第75回日本選手権水泳競技大会
7 2002年6月1日 名倉直希 法政大学 50秒41 第78回日本選手権水泳競技大会
8 2002年6月1日 明部洋明 早稲田大学 50秒32 第78回日本選手権水泳競技大会
9 2004年8月1日 奥村幸大 日本 50秒24 アテネオリンピック
10 2004年9月5日 細川大輔 中央大 50秒13 第80回日本学生選手権水泳競技大会
11 2005年7月27日 細川大輔 日本 50秒07 第11回世界水泳選手権
12 2005年9月2日 佐藤久佳 日本大 49秒73 第81回日本学生選手権水泳競技大会
13 2005年9月4日 佐藤久佳 日本大 49秒71 第81回日本学生選手権水泳競技大会
14 2007年4月5日 佐藤久佳 日本大 49秒32 第83回日本選手権水泳競技大会
15 2007年8月22日 佐藤久佳 日本 49秒22 インターナショナル・スイム・ミート2007
16 2007年9月9日 佐藤久佳 日本大 48秒91 第83回日本学生選手権水泳競技大会
17 2009年4月16日 藤井拓郎 KONAMI 48秒73 第85回日本選手権水泳競技大会
18 2009年12月8日 藤井拓郎 日本 48秒49 第5回東アジア競技大会
19 2015年5月23日 中村克 日本 48秒41 ジャパンオープン2015
20 2016年4月8日 中村克 イトマン東進 48秒25 第92回日本選手権水泳競技大会
21 2016年8月7日 中村克 日本 47秒99 リオオリンピック
22 2018年2月18日 中村克 イトマン東進 47秒87 KONAMI OPEN 2018
(資料)Wikipedia「100m自由形の歴代日本記録一覧」ほか

競泳男子100m自由形の世界新記録の推移
樹立日 選手名 国名 記録 大会
1 1970年8月23日 マーク・スピッツ 米国 51秒94 1970 Amateur Athletic Union National Outdoor Swimming Championships
2 1972年8月5日 マーク・スピッツ 米国 51秒47 1972 US Olympic Swimming Trials
3 1972年9月3日 マーク・スピッツ 米国 51秒22 ミュンヘンオリンピック
4 1975年6月21日 ジム・モンゴメリー 米国 51秒12 American Athletic Union World Championship swimming trials
5 1975年8月3日 アンディ・コーン 米国 51秒11 An Amateur Athletic Union Region Four meet
6 1975年8月23日 ジム・モンゴメリー 米国 50秒59 Amateur Athletic Union Long Course Championships
7 1976年7月24日 ジム・モンゴメリー 米国 50秒39 モントリオールオリンピック
8 1976年7月25日 ジム・モンゴメリー 米国 49秒99 モントリオールオリンピック
9 1976年8月14日 ジョンティ・スキナー 南ア 49秒44 Senior National AAU Outdoor Championships
10 1981年4月3日 ローディ・ゲインズ 米国 49秒36 Time Trial at NCAA Championships
11 1985年8月6日 マット・ビオンディ 米国 49秒24 1985 US National Summer Swimming Championships
12 1985年8月6日 マット・ビオンディ 米国 48秒95 1985 US National Summer Swimming Championships
13 1986年7月24日 マット・ビオンディ 米国 48秒74 1986 US World Championships Selection Trails
14 1988年8月10日 マット・ビオンディ 米国 48秒42 1988 US Olympic Swimming Trials
15 1994年6月18日 アレクサンドル・ポポフ ロシア 48秒21 1994 International Swimming Meeting of Monte Carlo
16 2000年9月16日 マイケル・クリム 豪州 48秒18 シドニーオリンピック
17 2000年9月19日 ピーター・ファン・デン・ホーヘンバンド オランダ 47秒84 シドニーオリンピック
18 2008年3月21日 アラン・ベルナール フランス 47秒6 European LC Championships 2008
19 2008年3月22日 アラン・ベルナール フランス 47秒5 European LC Championships 2008
20 2008年8月11日 イーモン・サリバン 豪州 47秒24 北京オリンピック
21 2008年8月13日 アラン・ベルナール フランス 47秒2 北京オリンピック
22 2008年8月13日 イーモン・サリバン 豪州 47秒05 北京オリンピック
23 2009年7月30日 セーザル・シエロ ブラジル 46秒91 世界水泳選手権
(資料)Wikipedia「競泳100メートル自由形の世界記録の変遷」ほか

(2019年1月18日収録)


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