学校が楽しいかを生徒にきいた設問では、「とても楽しい」と「まあ楽しい」の計は、2022年の結果では中学生で91%、高校生で88%にのぼっており、学校が楽しいとする生徒がほとんどであることが分かる。しかも「とても楽しい」という回答も中学生で41%、高校生で40%と4割を越えている。職場が楽しいかについての質問だったらこんな答えになるだろうか? 時系列変化をみると「とても+まあ」でも「とても」でも楽しいとする回答が中学生でも高校生でも2012年までは拡大傾向にあり、楽しさを増していたが、2022年にはコロナ禍の影響かどうか分からないが、やや低下した。 次ぎに、担任の先生は自分のことをわかってくれているかをきいた設問でも、回答の割合は、学校が楽しいかの設問よりはやや少ないが、時系列的には、ほぼ同様のプラス方向の結果を示している。生徒と担任の先生のコミュニケーションは良好になって来つつあるのである(国際的には生徒と先生のコミュニケーション密度が日本の場合低い点については図録3942a参照)。 学校環境のこうした長期的な改善は少子化の影響もあって1980年代後半以降中学・高校の生徒数が減少傾向にあるからだとも考えられる。学校間の入学者獲得競争で学校生活の楽しさを増す方向の努力が払われようになり、また先生が生徒一人一人に割く時間が増えているからなのであろう。なお体罰も基本的には減少傾向にある(図録3855参照)。 学校生活が全体的にプラス方向に向かっているとすれば、その中で家族の問題を抱えている生徒、あるいは、いじめや体罰などマイナス局面に陥った生徒は、それだけに一層精神的に落ち込み、事態が深刻化する可能性はあるかもしれない。この点については、仕事のストレスや過労死をめぐる状況と似たところがあると思われる(図録3276参照)。 学校の楽しさが学業をおろそかにしたいわゆるレジャーランド化によってもたらされているとしたら必ずしも肯定的に評価できないことになる。しかし最近は学業時間も回復傾向にあり、その中で楽しさが増しているのでやはり肯定的に評価できると考えられる(図録3944)。 社会運動家、評論家、学識経験者、そしてマスコミは、自らの存在理由を社会に訴えたいという無意識の動機によって、何事についてもマイナス面、課題面を強調する傾向がある。これが社会の進歩の原動力の1つともなることから、こうした強調を必ずしも否定することはない。しかし、現実のプラス面についても正当に評価しておかないと、マイナス面を改善することによってむしろプラス面を損ない、元も子もなくなってしまう可能性が出てくるので十分に気をつけておく必要があろう。
(2013年2月4日収録、4月2日コラム追加、2023年9月12日更新)
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