NHKは1982年から全国の中高生と親を対象に5年ないし10年おきに「中学生・高校生の生活と意識調査」を実施している。ここでは中高校生が回答した「学校生活の楽しさに関する設問」と「担任の先生の生徒に対する理解度に関する設問」の結果を掲げる。学校生活に関しては、いじめ、体罰、生徒の自殺とマイナス面の話題だけが取り上げられやすい風潮の中で、学校生活の雰囲気の全体感は、これとはやや様相を異にしていることが分かる点がこれらの設問を取り上げた理由である。同調査でのイライラ度については図録3947a参照。

 学校が楽しいかを生徒にきいた設問では、「とても楽しい」と「まあ楽しい」の計は、2022年の結果では中学生で91%、高校生で88%にのぼっており、学校が楽しいとする生徒がほとんどであることが分かる。しかも「とても楽しい」という回答も中学生で41%、高校生で40%と4割を越えている。職場が楽しいかについての質問だったらこんな答えになるだろうか?

 時系列変化をみると「とても+まあ」でも「とても」でも楽しいとする回答が中学生でも高校生でも2012年までは拡大傾向にあり、楽しさを増していたが、2022年にはコロナ禍の影響かどうか分からないが、やや低下した。

 次ぎに、担任の先生は自分のことをわかってくれているかをきいた設問でも、回答の割合は、学校が楽しいかの設問よりはやや少ないが、時系列的には、ほぼ同様のプラス方向の結果を示している。生徒と担任の先生のコミュニケーションは良好になって来つつあるのである(国際的には生徒と先生のコミュニケーション密度が日本の場合低い点については図録3942a参照)。

 学校環境のこうした長期的な改善は少子化の影響もあって1980年代後半以降中学・高校の生徒数が減少傾向にあるからだとも考えられる。学校間の入学者獲得競争で学校生活の楽しさを増す方向の努力が払われようになり、また先生が生徒一人一人に割く時間が増えているからなのであろう。なお体罰も基本的には減少傾向にある(図録3855参照)。

 学校生活が全体的にプラス方向に向かっているとすれば、その中で家族の問題を抱えている生徒、あるいは、いじめや体罰などマイナス局面に陥った生徒は、それだけに一層精神的に落ち込み、事態が深刻化する可能性はあるかもしれない。この点については、仕事のストレスや過労死をめぐる状況と似たところがあると思われる(図録3276参照)。

 学校の楽しさが学業をおろそかにしたいわゆるレジャーランド化によってもたらされているとしたら必ずしも肯定的に評価できないことになる。しかし最近は学業時間も回復傾向にあり、その中で楽しさが増しているのでやはり肯定的に評価できると考えられる(図録3944)。

 社会運動家、評論家、学識経験者、そしてマスコミは、自らの存在理由を社会に訴えたいという無意識の動機によって、何事についてもマイナス面、課題面を強調する傾向がある。これが社会の進歩の原動力の1つともなることから、こうした強調を必ずしも否定することはない。しかし、現実のプラス面についても正当に評価しておかないと、マイナス面を改善することによってむしろプラス面を損ない、元も子もなくなってしまう可能性が出てくるので十分に気をつけておく必要があろう。

【コラム】生徒個人は幸せか

 本文では学校生活が楽しいかを示した。ここでは、生徒個人が幸せかを見てみよう。

 下には、本文と同じ調査の結果から、中高校生の幸せ度と病理的な心理の状況を調べた結果の推移を掲げた。

 「いま幸せだ」と感じている生徒は9割以上と余り変わらないが、「とても幸せだ」と感じている生徒は、中学生の場合、1980年代では3割台だったのが2012年には55%と5割を上回っており、高校生の場合、2割台だったのが、42%と4割を上回っている。学校生徒の幸福度は上昇しているといえる。

 また、病理的な心理のひとつとして「おもいっきり暴れまわりたい」とどのくらい感じるかという設問に「まったくない」と回答した生徒は、1982年から2012年にかけて、中学生の場合、21%から68%へ、高校生の場合、17%から69%へと大きく増加しており、病理的な状況に陥っている生徒は著しく減少していることが分かる。「神戸市連続児童殺傷事件」(1997年)や「西鉄バスジャック事件」(2000年)などショッキングな事件が続くと「切れる17歳」という言葉が広がったりするが、中高校生全体が暴力的傾向から離脱する中で例外的な少年が凶悪化するということではないだろうか。

 ただ、2022年には「まったくない」と回答した生徒は減っている。これは、上で見た学校の楽しさの低下や図録3947aで見た中高校生のイライラの増加と軌を一にしている。学校生活はやや悪化していると考えられるが、これがコロナ禍の影響かどうかは不明である。

 本文に掲げた学校生活が楽しくなっている背景としては、こうした生徒の心理状況の変化も影響していることが分かる。なお、こうした子どもの幸福度アップに比して親たち、大人の幸福度は対照的に低いままである点については図録2397でふれた。


(2013年2月4日収録、4月2日コラム追加、2023年9月12日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 教育・文化・スポーツ
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)