子どもの幸福感と大人の幸福感を比較してみよう。資料はNHKが調査した中高校生とその両親に対する意識調査の結果である(子どもに関しては、図録3856「楽しい学校生活」参照、またイライラ度に関しては図録3947a参照)。

 まず、目立っているのは、子どもの幸福感の方が大人の幸福感より大きいということである。1982〜2022年の6回の調査でいずれにおいても、「とても幸せだ」と回答した者の割合は、中学生>高校生>両親となっている。子どもの幸福感が大人の幸福感を下回っていたら、それこそ嘆かわしいことなので、これ自体はよいことだといえる。

 2012年までの動きで目立っていたのは、子どもの幸福感が上昇し、他方、大人の幸福感が低迷しているため、両者の距離が広がっていることである。「とても幸せだ」の割合は、1982年には高校生の24%と母親の22%の間には2%ポイントの差しかなかった。ところが、2012年では、最も近い高校生の割合と父親の割合でも42%と19%と23%ポイントもの差があるのである。

 なぜ、差が広がったのであろうか。子どもが属する学校生活が改善されているのに対して、大人が属する社会生活は改善していないからというのがひとつの答えである。

 しかし、同じ日本に暮らしていて、なぜ、こんなにも差が広がったのかという疑問はなお残る。大人と子どもで意識差が大きくなっている調査項目を探してみると、日本の将来に対する見方が該当していることが分かる。参考図にこの点を示したが、子どもは日本の将来に比較的楽観的であり続けているのに対して、大人は日本の将来に対して、バブル経済が崩壊した1990年代以降、特に悲観的になっているという違いがある。大人は成長しない経済になかなか適応できないのであろう。また、高齢化社会の進展がますます深刻になることを考えて、余り遠い将来を考えない子どもと比較して、大人は悲観的にならざるを得ないと考えられる。参考図の2番目を見ると、中1から高3にかけて、1歳毎に日本の将来に対する楽観度が大人に近づいていくことが明かである。

 つまり、子どもの観点に立てば、今が幸せなら、そのまま幸福度が高くなるのに、大人の場合は、将来を心配して、現時点で満たされていても、幸せになれないのだと思われる。子どもが大人に学ぶべきなのだろうか?、それとも大人が子どもに学ぶべきなのだろうか?

 こうした点を踏まえると、意識上、子どもから大人になるのは、かつてよりギャップが大きくなっているかも知れない。子どものままの幸せ状態でいたい大人が理不尽さを感じ、将来に対する悲観的な見方を撒き散らすマスコミや学識経験者に悪の元凶を認めるというような心理状況もますます強まってくるのではないだろうか。

 以上は、2012年段階のコメントであるが、2022年には、それまでの動きとは逆に、中高校生の幸福度は低下し、両親の幸福度はむしろ上昇している。従って、開きつつあった両者の幸福度は再度近づいた。親の世代の幸福度の上昇は、のんき度などの他の指標の動きとも整合的である(図表2138参照)。収束が見えてきたコロナ禍の動きでほっとしているせいかも知れない。子どもの方は、むしろ、大人びてきたのかも知れない。もっとも中高校生の幸福度は「とても」だけでなく「まあ」も入れれば「とても」だけほどの大きな変化ではない(図録3856コラム参照)。

(2013年4月2日収録、2023年9月12日更新)


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