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1.非正規雇用の増加の中身

 非正規雇用者数の増大が続いているが、これを階級社会の拡大ととらえる論調には誤解があることを非正規雇用者数の増加に占める男女・年齢別の構成を示すことによって明らかにしたい。

 非正規雇用者数は一般に労働力調査の詳細集計によっている。これは2002年からそれまで2月にだけ行われていた特別調査を年間を通じた調査として発展させた部分の集計である。

 特別調査とそれを引き継いだ詳細集計を時系列につないで図録3240では1990年からの正規・非正規雇用者数の推移を示したが、ここでは、年間の平均値が得られる2002年以降の値を追った。

 5年毎の非正規雇用者数の年平均増加数に占める年齢別構成を男女計および男女別に示した(ただし2000年代前半は2002〜05年、2010年代の後半は2015〜18年が対象期間)。

 非正規雇用者数は毎年30〜60万人のペースで増加してきており、2002〜18年には総数669万人の増加となっている。総数増の男女別内訳は、男が238万人、女が430万人と女が男の1.8倍と大きく上回っている。

 増加数に占める年齢別の内訳を男女計について見ると、15〜34歳の若年層の非正規雇用は2000年代前半には多かったが、2000年代後半〜2010年代前半、むしろ、減少となった。男女別に若年層の動きを見ても、ほぼ、同様の推移となっている。

 もっともこれは若年就業者数そのものが減ったためでもあり、正規も減っているので、非正規比率そのものはほぼ横ばいである(図録3250参照)。

 非正規雇用者の増加で目立っているのは、若年層ではなく、55歳以上の中高年である。

 2000年代には55〜64歳の非正規雇用者の増加が多かったが、2010年代に入ると、むしろ、65歳以上の非正規雇用者の増加が目立つようになり、団塊の世代が65歳以上となった2000年代後半には、ほとんどが65歳以上の増加で占められるようになった。

 このことから、定年年齢が55歳から60歳に伸びるとともに定年後再雇用の動きが非正規雇用の増大のますます大きな部分を占めつつあることがうかがわれる。定年後再雇用では、企業の中で非正規の身分となる場合が多いのである。

 こうした動きは、将来的な年金受給開始年齢の延長をにらんだ2006年の改正高年齢者雇用安定法による企業に対する継続雇用の義務づけをきっかけにしている。同時期に高齢者の労働力率が上昇に転じた点については図録1400参照。

 男女計の動きでは、35〜54歳の増加も目立っていた(特に2010年代前半)。これについては、男女別の動きを見ると、女性の35〜54歳の増加によるものだということが理解される。子育て後の女性を中心にパート就労が大きく増えたことが高齢者の動きと並んで非正規雇用の増大の大きな部分を占めていることが分かる。

 このように非正規雇用の増加は、若年層の非正規雇用ではなく、高齢者の定年後再雇用(あるいは雇用延長)と中年女性のパート就労が中心だったことが明らかである。

 中年女性のパート就労の動機の一つは老後の夫婦家計に備えるためであることを考え合わせると、非正規雇用の増加は、階級社会の拡大を示しているのではなく、高齢化に伴う社会保障の持続可能性についての問題解決へ向けての国民的対応なのである。

2.正規雇用の動き

 参考のために、表示選択で正規雇用者の方の増減の年齢構成を見てみよう。

 まず、年齢計の動きとしては、非正規雇用が拡大を続けているのに対して、正規雇用の方は、2010年代前半までは減少を続けていたのが、2010年代後半に入って、むしろ、増加に転じたのが目立っている。

 次に年代別の動きを見てみよう。

 団塊の世代が50歳代後半だった2000年代前半は55〜64歳の増加が目立っていたが、2000年代後半以降は、同年齢層および65歳以上の中高年の増減はほとんど目立たなくなっており、同じ中高年が非正規雇用の増加のますます大きな部分を占めるようになったのとは対照的である。

 15〜34歳の若年層については、2010年代までは減少幅が大きかったのが目立っている。2000年代前半は非正規が増え、正規が減るというかたちで非正規化が進んでいたが、2000年代後半から2010年代前半までは非正規も正規も減り、正規の減少の方が大きいので非正規化が進むかたちに変化した。2010年代後半には、非正規以上に正規が増えており、非正規化の動きが逆転し、むしろ正規化が進んでいる。

 35〜54歳の中堅層では、非正規が増えるのに対応して正規が減っていたのは2000年代前半までであり、それ以降は、むしろ正規雇用者が一貫して増加しており、2010年代後半には非正規の増加を大きく上回っており、正規化が進んでいる。

3.年齢別の動きの重要性

 高齢化が進んできている日本社会で起こる現象は、年齢別の動きを見ないと正しく判断できないことが多い。この点を藻谷浩介氏は以下のように指摘している。

「「アベノミクスによる景気回復で、5年間に就業者数は250万人増えた」「いや増えたのは主に非正規雇用だ」という応酬も、年齢を見ていない点でピントがボケている。総務省の労働力調査で、野田内閣当時の2012年と17年の平均を比較すると、増えた250万人(正規・非正規合計)の、6分の5に当たる211万人は65歳以上だ。残り40万人が64歳以下の就業者の増加だが、性別では女性が109万人増で、男性は70万人減となっている(四捨五入の関係で端数が一致しない)。景気回復で雇用増というのであれば、64歳以下の男性の雇用も増えているのが筋ではないだろうか。また「若者の雇用増」というイメージに反して、39歳以下の就業者も116万人減っている。

 これらは別に政権が悪いのではない。日本では64歳以下の人口、特に39歳以下の人口が減っているので、上記のような流れは景気に無関係に止めようがないのである。そんな中でも「1億総活躍」の掛け声の下、出産で退職した女性の再雇用と高齢者の延長雇用が進んだ点は、素直に政権を評価すべきだ。さりとて就業者の増加の中身が圧倒的に高齢者である以上、非正規雇用が多いのは当然で、個人消費を増やす効果も乏しい。年代別人口の増減の影響を無視して設けられた既存マクロ経済学の土俵設定の外側から俯瞰せねば、事実は見えないのである」(毎日新聞2018年3月25日「時代の風」)。

4.毎年の動き

 冒頭の図について恣意的に都合よく増減の期間をとっているという疑いを抱く人がいるといけないので、下図には、毎年の増減の年齢構成(ただし男女計のみ)を示しておいた。

 2009年の大きな減少はリーマンショック後の景気後退によるものであり、非正規雇用だけでなく正規雇用も同じように減少だった。

 1947〜49年生まれの団塊の世代が65歳になったのは2012〜14年である。毎年の動きで見れば、この時期から65歳以上の非正規雇用者の増加が特に目立つようになったことが明らかである。

 2018〜19年は高齢層の非正規雇用が大きく増加した。それだけでなく若年層の非正規雇用が増えている。高齢層、若年層の増加はともに女性の方が概して大きく増加している。労働力不足がこうした動きを生んでいるものと考えられる。

 コロナの感染拡大が大きな経済の落ち込みを招いている2020年に入ると、正規雇用は増加を継続しているのとは対照的に非正規雇用が急減しているのが目立っている。

 雇用悪化の中で、雇用者数が減少しているのは非正規だけであり、正規の方はむしろ増加が続いている点が目立っている。これはほぼ各年齢層共通の全般的な傾向である。

 ここでは示していないが、実は、非正規の減と正規の増という対照的な動きは、男性より女性、中でも女性若年層について目立っている。

 コロナの影響による労働需要の減少に対して、パート、アルバイトなどの非正規雇用を大きく整理し、正規雇用者はむしろ残したり増やしたりして現状又は将来の労力不足に備えるという行動を企業がとっているのではないかと想像される。

 政府は、経営が悪化した企業に対する雇用を維持するための「雇用調整助成金」について、新型コロナウイルスの影響を受けた企業への特例措置として、ひとり1日当たり8330円の助成金の上限額を1万5000円に、従業員に支払った休業手当などの助成率を、大企業は50%から75%、中小企業は3分の2から100%にそれぞれ引き上げているが、正規雇用の増については、こうした措置の影響もあろう。

 2021年1月に2回目の緊急事態宣言が出て大企業でも営業時間の短縮に協力する1都3県の飲食業等に対して助成率を100%に引き上げることになった。

 特例措置は、パートやアルバイトなど雇用保険に入っていない人を休業させた場合も対象となるが、やはり、非正規より正規の雇用維持につながっているのではないかと考えられる。2021年1月の助成率の引上げ措置を発表した田村厚生労働大臣は、飲食店は非正規が非常に多いが「非正規も含めて休業手当などの対応をしてほしい」と呼びかけている(東京新聞2021.1.9)。

 こうした動きの結果、少なくとも2020年の年平均では非正規雇用比率はリーマンショックの時のようにかなり低下するものと見込まれる。高齢化に伴う今後の労働力不足を踏まえると、この低下は一時的なものに止まらない可能性が高い。

(2018年4月19日収録、2019年3月12日更新、2020年11月15日更新、正規年次図追加、11月22日雇用調整助成金の影響など最近の動きのコメント追加、2021年1月11日大企業でも飲食店党派助成率100%)


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