1.概観


 厚生労働省の労働経済動向調査では四半期毎に労働力の過不足の状態を事業所に対して調査している。

 ここでは、不足という回答事業者比率から過剰という回答事業所比率を差し引いた値(DI値という))について、正社員等労働者(07年11月までは常用雇用者)とパートタイマーの推移グラフ、及び職種別の推移グラフを示した。

 全体としての労働者の過不足については、2003年までの過剰状態(正社員等の)から転じて、2004年以降、不足状態が続いていたが、2007年をピークに不足度は低下し、2008年9月のリーマンショックにより不足度の低下が加速した。

 特に2008年の11月から2009年の2月にかけては、正社員等及びパートタイマーともに、一気にマイナスに転じており、かつてないほど急激な悪化となった。

 その後、2009年8月以降は上昇に転じており、雇用情勢は底は打ったかたちである。2010年8月には正社員等も0(過不足なし)となり、11月には不足に転じた。

 2011年にはいって、3月の東日本大震災ののち、5月に正社員等が急落したが、8月以降は持続的に回復傾向にある。2013年以降のアベノミクスを経て、だんだんとリーマンショック前のピーク水準に近づき、ついに2015年2月には過去のピークを越えるに至った。2016年から18年にかけても空前の労働力不足ともいうべき状況が続いた。

 2019年の2月から11月にかけて、継続的に労働への不足が低下しており、景況の転換がうかがわれる。

 2020年2月から5月、そして8月にかけて、急激に労働需要が下落したが、これは新型コロナの感染拡大の影響である。4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発令され、16日にはそれが全国に拡大適用され、5月4日に、緊急事態宣言が一か月延長された。

 5月14日には緊急事態宣言が解除されたが、その後、感染者増加の第2波が襲ったこともあって8月調査ではなお労働需要は回復していない。ただし、8月を底に11月、翌年2月にかけて回復傾向となっている。職種別の動向に見るように、これは製造業の回復の寄与が大きい。

 職種別の労働需要についてのコロナの影響については末尾参照。

2.正社員とパートタイマーの過不足

 正社員等とパートタイムの推移を比べると、全体のレベルがあがった景気の良い時期には、両者が近づき、全体レベルの下がった不況期には正社員等が大きく下がる一方でパートターマーはそれほど下がらないので両者の差が大きくなるという傾向が認められる。

 この結果、雇用者のパートタイマー比率、あるいは非正規労働者比率が一貫して上昇してきた訳である(図録3250、図録3300、図録3200参照)。

 2004年以降の正社員等の労働力不足の中で正社員(フルタイム職員)の長時間労働が顕在化したといえる(図録3125参照)。

 2011年以降、全体的には労働力不足の傾向が高まっているが、不足度においては、なお、正社員等はパートタイマーを下回っていた。しかし、2015年2月にはついに久方ぶりで正社員等の不足をパートタイマーを上回り、それ以降、連続して、正社員等の不足がパートを上回っている。正社員等の不足がパートの不足を上回る状況は2015年2月調査以降12期連続となっており、2007〜08年当時の4期連続を大きく凌駕している。

 2017年2月には正社員等の不足が40を大きく上回り、正社員等とパートタイマーの差が一段と拡大した点が目立っている。その後もこの差は縮まらずに推移している。

 新型コロナの影響で労働需要は減退しているが、リーマンショック時との違いは、正社員等の方が落ち込みパートへの代替が進むという状況ではなくなったことである。

3.職種別の過不足

 職種別の過不足状態を見ると、全体のレベルの上下はあるが、不足気味の専門・技術職やサービス職、販売職、過剰気味の管理職、事務職という対比が目立っている。

 ブルーカラーの技能工、および単純工については、レベル的には、両者の中間であるが、アップダウンの差が激しい点、すなわち景気の良し悪しによって、雇用が大きく左右される点に特徴がある。

 2008年末〜2009年の雇用情勢の悪化が特に製造業で著しいことを反映して、技能工、単純工については、一気に大きなマイナスに転じている点が目立っていた。この調査には派遣労働者は含んでいないが、一時期の「派遣切り」の事態もこうした状況から推測することができる。

 2017年11月には単純工の不足がはじめて専門・技術職と並んで最大となった。そういう景気の状況なのであろう。

 技能工、単純工と反対に最も景気の影響を受けにくいのはサービス職であることが図からうかがわれる。

 09年2月から11月にかけてはこうした動きが底を打った状況が見える。2010年8月以降には技能工、単純工ともにプラスとなっている。なお過剰感があるのは管理と事務だけである。

 2011年3月の東日本大震災の影響としては、技能工、単純工の低落が目立ったが、8月には大きく回復している。

 なお、リーマンショック後の変化としては、他の職業に比べて不足感の強かった専門・技術職が他職業並みになっている点が目立っている。

 2012年2月にはすべての職種で不足が過剰を上回った。5月には管理と事務が再度ゼロになったが8月以降またプラスに。また、2013年11月から技能工、単純工も不足傾向が強まり、管理・事務を除く業種間格差がかつてないほど狭まっている。もっとも、2015年2月には、専門・技術職が、再度、リーマンショック前の水準まで急騰したのが目立っている。

 2015年以降には3つのグループ、@専門・技術職、サービス職、A管理職、事務職、Bその他、に分かれながら上昇傾向を続けている状況である。

 2019年の2月から11月にかけて、技能工、単純工という製造業関係の職種中心に労働需要が低下している。これは製造業を中心に米中の貿易戦争の影響が出てきたことによるものと考えられる。

 2020年の新型コロナによる労働需要の減退は全職種に及んでいるが、輸送・機械運転だけは落ち込みの程度がやや軽い。店舗購入からネット購入への転換が起こっている影響だと考えられる。大きく落ち込んでいた製造業関連の技能工と単純工が11月以降、大きく回復傾向に転じている。

 近年の特徴として、かつて専門・技術職に次いで不足がちだった販売職が、いまや、相対的に低い水準に落ちている点が目立っている。2017年8月には、はじめて、管理、事務以外で最低となっている。

 下には専門・技術職と販売職の推移を職種平均と比較したグラフを掲載した。専門・技術職が平均を大きく上回ったまま推移しているのに対して、販売職は平均を上回った状態からほぼ平均並みになり、さらに平均を下回るに至った状態へと変化していることが分かる。


 営業職が減り、代わって営業・販売事務職が伸びている状況は図録3500参照。

4.職種別の労働需要についてのコロナの影響

 職種別求人情報数の推移図を以下に掲げた。

 「約1年8か月のコロナ禍において、IT系専門職はテレワークの拡大もあり、求人数は好調を維持している。また第3波以降、美容業界は脱毛など美容医療の需要も伸び、求人が激増している」(東京新聞2021.9.258)。

 一方、飲食/フード、ファッション/インテリア、宿泊/ブライダル、アミューズメントなどへの求人はコロナの影響で大きく減少してから、なお落ち込みが継続している。


(2007年5月7日収録、12月7日更新、2008年3/12・6/9・12/10更新、2009年3/13・6/9・9/9・12/7更新、2010年3/6・6/4・9/4・12/4更新、2011年3/4・6/6・9/2・12/7更新、2012年3/6・6/7・9/6・12/5更新、2013年3/12更新、5/28職種別データ1996迄遡及、6/10・9/6・12/6更新、2014年3/10・6/10・9/10・12/11更新、2015年3/11・6/11・9/9・12/15更新、2016年3/15・6/15・9/13・12/13更新、2017年3/15・6/22・9/21・12/21更新、2018年3/29・6/19・9/19・12/19更新、2019年3/22・6/25・9/20・12/12更新、2020年3/19・6/24・9/24・12/16更新、2021年3/17・6/24・9/16更新、9月25日コロナの影響、2022年3/18・6/23・11/11・12/20更新、2023年3/24・6/23・9/22・12/22更新、2024年6/25・9/24更新)


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