2008〜09年は久しぶりにフルタイム労働者の労働時間の減少が大きく労働時間全体の減少につながっており、リーマン・ショック後の不況が影響していると考えられる。その後、2010年には景気の回復に伴って、一転、労働時間は増加し、2011年に東日本大震災と原発事故もあって再度減少した。2012年以降は増減を繰り返していたが、2018年以降は再度減少傾向となった。

 2020年は新型コロナ感染症の流行の影響でフルターマー、パートタイマーともに労働時間が縮小し、これまでと異なってパート比率が低下したため、この点では労働時間短縮とは逆の方向に作用した。2021〜23年の基調はフルターマーの労働時間が回復した一方で、パートタイマーの労働時間は減ったままである。

 労働時間の変化は、労働者の所定内・所定外の労働時間の変化とともに、短時間労働者(パートタイマー)の比率によっても影響を受ける。そこで、年間総労働時間の対前年増減をフルタイマー、パートタイマーそれぞれの労働時間と両者の比率により要因分解したグラフを作成した。

 これを見ると明らかなとおり、99年は特徴的な年であり、それまでと異なって所定内労働時間が一般労働者より少ないパートタイマーの比率が大きく上昇した要因が主となっている。また04年はフルタイマーの労働時間の増加をパートタイマー比率の上昇で打ち消して労働時間全体がマイナスとなった点で目立っている。

 毎月勤労統計調査によるパートタイマー比率(年平均)は、一貫して上昇傾向をたどっている。特に1990年代後半に急増した。パートタイマーの比率とパートタイマーの労働時間の両方が全体の労働時間に大きな影響を与えるに至っているのである。

 98年までの労働時間の短縮が労基法の改正などによる時短の結果であり、フルタイマー自体の労働時間の減少が主たる要因であったのとは大きく様変わりしている状況がうかがわれる。近年ではフルタイマーの労働時間の傾向的減少の要因はほとんどゼロに近くなっていたが、2018〜19年には再度フルタイマーでも労働時間が減少している。働き方改革の影響であろう。

 こうした動きはリストラによる正社員からパートタイマーへの転換という動向を反映していると考えられる。労働時間の短縮がオランダやフランス、カナダなどで進んでいる女性労働力活用の新時代を告げるものとはなっておらず、むしろ、非正規雇用者の増加という現象のあらわれになっている。

 年間総労働時間の推移を見ると1980年代後半以降、労働者計では一貫して減っているが、フルタイム労働者の労働時間の減少は1990年代前半に止まり、それ以降は、もっぱらパート比率の上昇の影響だということが分かる。なお、パートタイム労働者の労働時間は一貫して減少傾向をたどっている。

 以下には、参考のために年間総労働時間の5年毎の増減を掲げ、また、当図録で使用した元データと要因分解の方法について記載した。

年間総労働時間の要因分解の算出について

1.ベースとなる統計データ

 毎月勤労統計調査は1993年以降は一般労働者とパートタイム労働者(一般より少ない労働時間あるいは労働日数の労働者)に分けて、月間労働時間(総実、所定内、所定外)を毎年発表している。また、パートタイム労働者の比率も発表している。この毎月勤労統計をベースに92年以前のデータを推計する必要がある。

2.パートタイム労働者の労働時間(1992年以前)

 賃金センサス(毎年6月分調査、10人以上事業所)では、70年より女子パートタイム労働者の1日当たり所定内労働時間を算出・公表している。これをコントロール値として92年以前のパートタイム労働者の労働時間を算出する。

 接続は93〜97年の5年間の両統計の所定内労働時間を使った。賃金センサスの1日当たり所定内労働時間かける労働日数を月間所定内労働時間とした。なお、88年以前の賃金センサスのこれらデータは89年以降の小数点1桁表示と異なって、整数表示であるので、年齢別のデータから小数点1桁ベースの数字を推計した(労働日数のみ。1日当たり労働時間はほぼ一定であり推計不能)。

 92年以前の所定外労働時間については、92年以前の毎月勤労統計調査の全労働者の所定内対所定外労働時間比率に93〜97年の5ヶ年平均の同値対パート比率を使って算出した。なお、89年以前については、30人以上事業所のデータしか得られないのでそれを使った。89年以前の全労働者の総労働時間についても同様に、5ヶ年平均の接続指数を使って5人以上事業所ベースに補正した。

3.パートタイム労働者比率(1989年以前)

 毎月勤労統計のパートタイム労働者比率は90年以降しか得られないので、89年以前については、労働力調査・労働力調査特別調査からパート・アルバイト雇用者比率あるいは80年以前については短時間雇用者比率を使い、90〜94年5ヶ年の平均接続指数で遡及推計した。

4.要因分解について

 総労働時間をフルタイム労働者とパートタイム労働者の労働時間、及びパートタイム労働者比率の3つに要因分解する方式は、OECDのEmployment Outlook 1998と同じ方式を採用した。すなわち、
H-h=(pr)(HP-hp)+(1-pr)(HF-hf)-(PR-pr)(hf-hp)+(PR-pr){(HP-hp)-(HF-hf)}  (a)
ただし、H=(1-PR)(HF)+(PR)(HP)、h=(1-pr)(hf)+(pr)(hp)
 H:労働時間、HF:フルタイム労働者労働時間、PF:パートタイム労働者労働時間、
 PR:パートタイム労働者比率(大文字は期末年、小文字は期首年)
 (a)の第4項は無視しうるほど小さな数字となる。

(2006年2月16日更新、2008年2月19日更新、2009年2月4日更新、2011年3月12日更新、2012年2月22日更新、2013年2月5日更新、2月18日確報、2014年2月6日更新、2月19日確報更新、2015年2月18日更新、2016年2月9日更新、年間総労働時間の推移を図に追加、2月23日確報更新、2017年2月22日確報更新、2018年2月7日更新、2月24日確報更新、6月28日5年毎の推移図、データ算出・加工方法、2019年2月22日更新、17年まで未補正、2020年2月22日更新、2021年2月24日更新、2022年2月24日更新、2023年3月1日更新、2024年2月28日更新)


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