最新データまでの分析は図録2780参照。

 自殺数と失業(景気)との相関について図録27402760で見たが、ここでは、離婚件数との相関について検討することとする。なお、自殺率と異なって離婚率は年齢別には算出されず、地域間比較について有効な指標であるのに止まる。時系列分析では離婚件数も離婚率も大きな流れを見るときにはそう大きな違いがないのでここでは離婚件数を取り上げた。

 我が国の離婚件数は1960年に6万9千件であり、60年代前半は余り変化がなかったが、60年代後半から増勢に転じている。その後、1983年に17万9千件のピークを記した後に88年に15万4千件まで減少した。1990年代以降、離婚件数は再度急増し、2002年には29万件と10数年で倍増を遂げている。ところが、2003年には久方ぶりに減少に転じ28万4千件となった。

 離婚件数は所得増、経済の成熟、欧米の影響等により増加傾向にあるといえるが、ここでは、もっと短期的な変動がどのような要因で生じているかを見るため、毎年の離婚件数が長期的な増加傾向(一次回帰線)からどれだけ乖離しているかを短期的な変動の指標として取り出すこととする。

 2図のうちの下の図は、こうして取り出した離婚件数の変動(傾向線よりプラスに乖離しているかマイナスに乖離しているかをプラスマイナス逆にして表示)と、同様にして取り出した実質GDPの長期傾向からの乖離の推移とを重ねてグラフにした。

 実質GDPの短期変動は景気の状態を示していると考えることが出来る。普通景気の状態は対前年度の増減率であらわされることが多い(図録4400参照)が、人々の実感ではこの図で示したような中長期的な傾向からの乖離の状態として認識されることが多いと思われる。

 離婚件数の長期傾向線からに乖離は1970年代までは景気と逆の変動か、変動なしの状態が継続しており、景気とはほとんど無関係であった様子がうかがえる。

 ところが、80年代前半の景気の落ち込みに対しては反応し、景気低迷とともに離婚件数は増加し、また84年からの景気回復に合わせ離婚件数は減少した。「カネの切れ目が縁の切れ目」状況がおとずれたようにみえる。

 1980年代以降の推移は大変興味深い。すなわち、離婚は景気の先行指標的な動きを示しているのである。1〜2年のラグをおいて離婚の減少(図では上昇)が景気上昇に先行し、離婚の増加(図では下降)が景気低迷に先行しているように見える。95年の離婚の増加が横ばいに転じた翌年に96年の景気回復が見られるところなど怖いぐらいである。

 女性特有の動物的なカンが景気を予知し、子供の養育費、慰謝料、離婚後の就職可能性などを考慮し早め早めに手を打つのではないかなど、仮説はいろいろ立てられようが、詳細は不明である。

 もし、離婚件数の動きが景気の先行指標であるという前提に立つと、2002年に乖離幅が縮小し、2003年には離婚件数そのものが久方ぶりに減少に転じており、こうした目立った動きが2004年の本格的な景気回復を予想させるものとなっている。

 このように離婚件数と景気との関連については、第1に、1980年代以降、景気の良し悪しと離婚件数の減少増加が対応するようになった点、第2に、離婚件数の動きが景気の動きに先行するかたちでこのような相関が生じている点が認められる。

 離婚ほど明瞭ではないが、自殺についても80年代から景気との関連を深めている(図録2740-1参照)。はっきり言えることは自殺と離婚という代表的な社会現象が経済現象化したという点である。今後、市場経済主義がますます普及していくとこうした傾向がさらに進むとも考えられる。景気対策については、雇用対策に加えより広い意味での社会対策としての側面もこれからは重視すべきであろう。今後も、様々な社会現象、生活側面をこうした面から分析していく必要がある。

 なお、この図録の図とコメントを引用した「意外な景気指標、離婚と景気」に関する記事が日経産業新聞2006年5月16日に掲載された(事前に電話取材あり)。

(2004年6月10日収録、6月12日データ更新)


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