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年齢別自殺率の長期推移(男性)の図からは、以下のような特徴が目立っている。
なお、ここで採用しているエクセルの等高線グラフを利用した作図パターンは、舞田敏彦「教育の使命と実態」武蔵野大学出版会で度々登場する作図例に倣ったものである。舞田氏には感謝の意を表したい。 (2000年頃のコメント) かって日本は自殺率の高い国として知られていた。戦後の高度経済成長期以前の時期のことである。その時期、高齢者と若者の自殺率が高かった。現代でも多くの国で高齢者の自殺率は高い。体が弱くなり自力で稼ぐことが困難であるための生活不安、及び高齢になるにつれて襲いかかる病苦、この2つが高齢者の自殺率を高くする要因である(図録2770参照)。終戦後の若者の自殺率の高さは、戦前の軍国主義、鬼畜米英の時代から、敗戦、占領、民主化という価値観の180度の転換に対して、まじめな若者は対応し得なかった点を要因としてあげることが多い。 その後、高齢者や若者の自殺率は目立って低下し、日本の自殺率水準は中位となった。1955年と1995年の対外比較をすると以下である。 自殺率−10万人当たり自殺死亡数− 1955年 日本:25.2 米国10.2 仏15.9 独19.2 1995年 17.2 12.0 20.8 15.8 若者の自殺率の低下は価値観の転換が定着した点に求められよう。また、高齢者の自殺率の低下は、国民皆保険・皆年金といった社会保障や医療制度の発達によるところが大きいと考えられる。これ自体、経済の高度成長や所得増加と並んで、日本が世界に誇れる成果といえる。 ところが、長引く経済不況や失業率の急増、日本型経営システムの制度疲労などに伴って、1998年以降、各年齢で自殺率が上昇し、特に中高年の自殺率が他の年齢層と比べて非常に高いという構造が日本の特徴となった。日本の年齢別自殺率は50歳代後半をピークに山形となっており、高齢に伴う自殺率上昇の減少は80歳以上からみとめられるのみである。 米国と比較すると、日本の自殺率の年齢構造は、米国では高齢者になると自殺率が高くなるが、60歳代未満ではほとんど自殺率は一定であるのと比較して、極めて特異であることが分かる。フランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ諸国も米国とほぼ同様の構造となっている(図録2770参照)。失業率の年齢構造を欧米について調べてみるとドイツはやや日本と似ているが全体的には日本のように中高年で特に高い失業率とはなっていない。自殺率の年齢構造は失業率の年齢構造とリンクしていることがうかがわれる。
(年齢別の自殺原因・動機) 警察庁は遺書ありの自殺について下表のような原因・動機別年齢別自殺者数を集計している。40歳代〜50歳代では「経済・生活問題」「勤務問題」といった仕事・経済面が半数を超えているのに対して、60歳以上では「健康問題」が57.2%と6割近くを占め最も多い理由となっている。 (2000年以降の特徴) 2000年以降も同様の構造は基本的に変わっていない。しかし、2000年以降の動きを見ると、以前から社会保障の充実を受けて自殺率が低下していた「80歳以上」とともに、90年代後半に急増した「50歳代後半」の自殺率も低下しており、逆に、非常に低かった「20歳代前半」の自殺率がむしろ上昇している。結果として年齢差は縮小している。 格差問題との関連では、90年代後半以降の景気変動の中で民間企業でも「聖域なき構造改革」が進展、能力主義・成果主義を重視する風潮が強まり、中高年の既得権益が突き崩されたため(このため高所得者の所得が低下し格差指標はむしろ縮小したとの見方を図録4663で示した)、中高年の自殺率が急増したが、その反動で「格差」が社会問題化し、中高年の利益が守られるようになったので、そのしわ寄せが雇用の非正規化などを通じて若者層に向かい、この結果、中高年の自殺率は低下、若者の自殺率が上昇という傾向となったと考えられる。 (関連図録) なお、失業者数との比較や自殺者数による短中期的な動きは図録2740参照、年齢別ではなく自殺率全般の米国を含む世界各国との国際比較は図録2770参照。
(2004年6月8日収録、9月8日2003年確報値にデータ更新、9月19日年齢別動機別データ追加、2011年12月19日更新、2015年9月10日主グラフを折れ線グラフから等高線グラフに変更、2017年6月2日更新、2019年1月9日等高線グラフに2017年データ追加、8月23日図形式やや変更、11月29日更新、2020年8月3日更新、2021年6月25日更新、10月28日女性の参考図、2023年9月28日2020年概数から確定数に更新、2024年7月3日23年概数追加)
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