(2024年度改定)

 政府は12月15日、医療機関がサービスの対価として受け取る診療報酬の2024年度の見直しで、医師や看護師の人件費などに当たる本体部分を0.88%引き上げる一方、薬代などの薬価部分を0.96%下げ、全体をマイナスにすると決めた。診療所の適正化として0.25%引き下げを含め本体部分0.88%、そのうち賃上げ対応のための引き上げ幅は0.61%。厚生労働省は医療従事者の待遇改善のため1%台半ばの引き上げを求め、財務省は診療所のもうけが多いことなどを理由に、医療費抑制のため0.2%程度を主張していた(東京新聞・毎日新聞2023.12.16)。

 2023年度の年末となり、2年おきの診療報酬改定の今回の方針をめぐって、下図のようなせめぎあいが続いた。


 そうした中、尾ア治夫東京都医師会会長は、今後、湿布薬や保湿剤を医療保険から外したり、若い持病を持たない人の風邪は(軽度な身体の不調は自分で手当てする)セルフメディケーションで自分で薬を薬局で買ってもらうといったやりくりを繰り返すことで、診療報酬を「将来は一定に」したらよいとする議論を行っている(東京新聞2023.11.30)。

 具体的な改定のポイントは以下の通り。


(2022年度改定)

 政府は22日、医療機関がサービスの対価として受け取る診療報酬の2022年4月の見直しで、全体を0.94%引き下げると決めた。医師や看護師の人件費などに当たる本体部分を0.43%引き上げる一方、薬代などの薬価部分を1.37%下げ、全体をマイナスとした。また、一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に上げる時期を22年10月からとする(東京新聞2021.12.22)。

 その後、定められた具体的な診療報酬の改定内容は下図の通り、新型コロナ対策、不妊治療、オンライン診療、プライマリーケア重点化のための大病院初診料引上げなどである。


 東京新聞は2023年になって「医療の値段」という連載記事の中で、22年度改定には2つの首相案件、すなわち岸田首相が掲げた看護師の賃上げと菅義偉前首相が打ち出した不妊治療の保険適用で当初から診療報酬を0.4%押し上げることがあらかじめ決まっており、これに前日医会長横倉義武の時代のの4回の平均改定率0.42%を超えることを目指した日医の政治的働きかけが功を奏し、財務省主張の0.3%台前半を上回り、わずかとはいえ「横倉越え」も実現した0.43%に決まったという経緯があったと報じている。

 診療報酬の動向が国民医療費の伸びに占めるウェイトについては図録1902参照。

過去の改定時のコメント 

(2020年度改定の際のコメント)

 2020年度の診療報酬改定について、政府は本体部分0.55%、薬価部分-約1.5%、総額-約1%とする方針であることが報じられていたが、厚労相と財務相の合意による決定では、本体部分は変わらず、薬価-1.01%、総額-0.46%となった。本体部分のうち医師の人件費などは0.47%で、残りの0.08%分は救急病院の勤務医の働き方改革に使途を限定する(毎日新聞2019.12.18)。

(2018年度改定の際のコメント)

 2018年度の診療報酬改定については、-1.19%減となった。「診療報酬は、本体部分を0.55%引き上げるものの、薬や医療材料の実勢価格に合わせる形で「薬価部分」を1.45%下げるため、全体では0.9%のマイナス。約1600億円の財源を確保し、政府が掲げる高齢化に伴う社会保障費の自然増を1300億円圧縮する目標は達成した。さらに薬価制度を抜本的に改革することなどで300億円程度を抑制する方針。この薬価部分に組み込んだ場合は、全体の引き下げ幅は1.19%となる計算だ」(東京新聞2017.12.16)。

 診療報酬の2年おきの改定は、2018年度においては、3年おきの介護報酬の改定と6年ぶりで同時となった。介護報酬の改定率については図録2058参照。

 2025年に向けた最後の同時改定なので、医療と介護の切れ目のない連携や要介護者を増やさないような自立支援の強化を目指すものとなっている(毎日新聞2017.12.19)。以下、次表参照。

 2月7日に決まった具体的な診療報酬改定については、門前薬局や人工透析などの医療費削減策が盛り込まれる一方で、高齢社会対応の在宅医療の充実と複数疾患を総合的にケアできる「かかりつけ医」機能の強化が目指されれている。

 医療費削減策については小粒な対策が多いと東京新聞は指摘している。「国が負担する社会保障費は過去最大の約33兆円(18年度予算ベース)で歳出全体の3割超を占める。このため政府は高齢化に伴う自然増を、18年度に1300億円圧縮する目標を掲げた。しかし、昨年12月初めには薬の公定価格である「薬価」を市場実勢価格まで引き下げればこの目標を達成できることが判明。厚労省内で制度の大幅な見直しによって医療費を削減する動きが鈍化した」(東京新聞2018.2.8)。

報酬改定の主な内容
診療報酬 介護報酬



紹介状のない大病院受診への上乗せ負担の対象病院拡大(大病院と診療所との役割分担1)
遠隔診療への加算(大病院と診療所との役割分担2)
24時間往診・随時連絡体制に「継続診療加算」、訪問診療や夜間休日対応のかかりつけ医への初診料800円加算の「機能強化加算」(かかりつけ医機能強化)
医療機関との連携に取り組む介護事業所への加算(ケアマネージャーが退院時にケアプランを作成したり医療機関で会議に参加したりした場合の手厚い評価)
認知症の人に対する加算の対象事業拡大
特養が非常勤の配置医や協力病院と連携し24時間対応を行う場合、加算(施設でのみとり推進)



大手薬局グループの「門前薬局」を前回改定以上に報酬減額
後発医薬品85%以上の薬局に加算、20%以下は調剤基本料を減額
人工透析で利益を上げている医療機関の報酬を下げる
軽症患者の多い急性期病床の診療報酬減額(軽症者をリハビリ病床に誘導し在宅療養につなげる)
集合住宅での訪問介護の報酬を見直し使いすぎを抑制
調理など「生活援助」の頻回利用を自治体がチェック。また「生活援助」の短期間研修制度を新設し担い手を拡大し、その分、報酬引き下げ
(資料)毎日新聞2017.12.19、2018.2.7、東京新聞2018.2.8

(2016年度改定の際のコメント)

 2016年度の診療報酬改定については、財務省と厚生労働省、医療関係者の間でせめぎあいが続いていたが、医師の人件費などにあたる「本体」部分を0.49%引き上げる一方、薬の価格などの「薬価」部分は1.33%引き下げ、全体では0.84%引き下げることを決められた。「全体のマイナス改定は08年度改定以来、8年ぶり。ただ、これとは別に、想定より売れた医薬品の価格引き下げも含めると実質マイナス1.03%となる。これは前回まで改定率に加えていた。前回14年度の改定は消費増税に伴う補填分を除けば実質0.1%増の厳しい結果だったが、今回は0.4ポイント近い増加で0.49%増に」(毎日新聞2015年12月22日)。こうしたマイナスを小さめに見せ、プラスが大きいと主張できる決着は、来夏の参院選で、集票力のある日医向けのサービスと全体の大きな減という実質的な財務省意向の実現の両立を図ったものと考えられる。

 薬価についてはジェネリック医薬品(後発薬)の普及で抑制する方向が明確になっており、このため、後発薬の価格を新薬の半分とすることが決まっていた。

「厚生労働省は安価な「ジェネリック」(後発医薬品)の価格引き下げの方針を固めた。現在は新たに発売される後発薬の価格は原則先発薬の6割だが、これを5割に引き下げる。2日の中央社会保険医療協議会に提案し、2016年度の診療報酬改定に反映させる。政府は医療費抑制のため価格の安い後発薬の使用促進を進めており、価格引き下げは促進策の一つ。(中略)後発薬の価格は前回14年度の改定でも先発薬の7割から6割に引き下げている。ただ、その後も実際の取引価格が低下していることから、厚労省は、さらなる引き下げも可能と判断した」(毎日新聞2015年12月1日)。「製薬業界は基本的に容認する姿勢だが「一律に引き下げるのは乱暴だ」として、値下げの影響が大きいものなど、薬の種類ごとに対応を分けるよう求めている。厚労省は月内に最終決定し、16年度の診療報酬改定に反映させる。後発薬は、新薬の特許が切れた後に安いコストで製造される。同じ新薬に多数の後発薬が一度に開発された場合は価格を4割とし、遺伝子組み換えなどの技術を応用したバイオ医薬品は、最初に発売する後発薬の価格を7割に据え置く」(東京新聞2015年12月3日)。

 この点に関連して、日本の医薬品費がOECD諸国の中で相対的に高いという点については図録1905参照、また後発薬の普及度が低い点については図録1907参照。

(2014年度改定の際のコメント)

 政府は2013年12月20日、2014年度の診療報酬改定率について、全体で0.1%増とする方針を決めた。ただし、14年4月の消費増税に伴い、仕入れのコストが増える医療機関への補填分(計1.36%)を除いた実質ではマイナス1.26%となる。2年に1度の診療報酬改定でマイナスとなるのは、2008年度改定以来6年ぶり。実質プラスを求めてきた厚生労働省、日本医師会(日医)と、総額の削減を主張していた財務省の間を取った首相官邸が「名目プラス、実質マイナス」という痛み分けを演出した、とされる。

2014年の診療報酬の改定
  改定率 (うち仕入れコスト増
 の補填分)
実質改訂率
本体 +0.73% (0.63%) +0.10%
薬価 -0.63% (0.73%) -1.36%
全体 +0.10% (1.36%) -1.26%
(資料)毎日新聞2013.12.21

(2012年度改定の際のコメント)

 医療費の財源としては自己負担と保険料負担の他に政府による財政負担が含まれているため、来年度予算の編成過程の中で、診療報酬の2012年度改定額をこのほど政府が決定した。

 診療報酬は、2年ごとに改定される公的医療保険を診療を受けた場合の全国一律の公定価格であり、患者は医療機関の窓口や薬局で原則3割を負担し、残りは患者が加入する医療保険が病院などに支払う。厚生労働大臣の諮問機関である中医協(中央社会保険医療協議会)が手術毎の技術料の値段など、膨大な項目の細かい点数を決めるが(専門家でないと決められない部分)、大枠は政府・厚生労働省が事実上決めている。

 官房長官、財務相、厚労相の協議の結果、「全体では小数点以下3ケタの部分で0.004%増というギリギリのプラス改定とすることで合意した。介護報酬は、介護職員の待遇改善費を見込んで1.2%アップ。前回(09年度)の3.0%増に続き2回連続のプラスとなった。」(毎日新聞2012.12.22)プラス改定を求めた厚労省、民主党の顔を立てつつ、増額を嫌う財務省側にも配慮した政治決着として極めて異例な小数点以下3ケタでの調整となったという。

(2010年度改定の際のコメント)

 2010年度診療報酬改定は10年ぶりにプラス改定となることが決まった。プラス改定の結果、診療行為の総量の増加と掛け合わせた分だけ、財政負担ばかりでなく、国民の自己負担、保険料負担も増加する。

 総額の診療報酬改定率は、小泉政権(2001〜2006)下の医療制度改革と平行して、マイナスを続けてきた(図録2796参照)。その結果「医療崩壊」が進んだという見方が広がり、2009年の衆議院選挙でも与野党ともに診療報酬のプラス改定を約束していたため、今回、10年ぶりにマイナス改定から脱したといえる。なお、「医療崩壊」は、様々な面の医師負担の増大や患者の医療費負担の軽減などを通じた「患者満足度の向上」の中で進んでいた面がある点については図録1852参照。

 民主党は政策集で勤務医対策を中心に医療費の大幅増を明記していたため、当初、10%以上の改定を目指していたが、財務省はむしろ財政難や子ども手当などの財源不足から3%の引き下げを要求(「デフレ下において引き上げはあり得ない」藤井財務相)、政府内での交渉の結果、最低レベルの決着となった。

 総額の内訳としては、医師の技術料を中心とした本体部分は1.55%と2000年度改定以来の大幅な引き上げとなった。薬価部分の1.36%の引き下げが本体部分の引き上げに充当された格好である。

 さらに本体部分自体の内訳としては、医科1.74%、歯科2.09%、調剤0.52%増であり、医科の中では入院が3.03%増であるのに対し、外来は0.31%に止まった。「歯科の改定率は従来、医科と同水準だったが、次期改定では歯科に手厚く配分された。日本歯科医師連盟が自民党から民主党へ支持政党変更を視野に入れていることが影響したとみられる。」(産経新聞2009.12.24)

(2009年12月24日収録、2011年12月22日更新、2013年12月21日更新、2015年12月3日更新、12月21・22日更新、2017年12月17日更新、12月19日更新、2018年2月7・8日補訂、2019年12月14日2020年度予定、12月18日更新、2021年12月22日更新、2022年2月10日補訂、2023年7月19日「医療の値段」記事より、12月4日2024年度改定コメント、12月16日更新、2024年2月15日2024年改定のポイント)


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