なお、精神病床、感染症病床、結核病床および療養病床に該当しない病床を一般病床と呼ぶが、ここで、一般病院とは、一般病床を有する病床数(ベッド数)20床以上の医療施設であり、いわゆるクリニック(診療所)は含まない。 この図を見ると患者の満足度は、おおむね、上昇傾向をたどっているが2011年は外来患者で、一時期、満足度が大きく低下した。 医療状況に関する意識調査結果としては、今回を含めてこれまで3種を掲げてきた。 (1)図録3070(日本の社会状況−分野別の改善・悪化の国民意識)雇用、環境などと並んで医療について改善方向にあるか悪化方向にあるかの意識調査結果(内閣府「世論調査」) (2)図録1850(医療への満足度の推移)医療機関で受診している患者以外を含む国民全体の意識調査結果(内閣府「国民生活選好度調査」) (3)図録1852(病院に対する患者の満足度の推移)外来患者、及び入院患者の病院への満足度(厚生労働省「受診行動調査」) それぞれの調査結果は必ずしも同じ傾向を示していない。 (1)では医療は悪化傾向にあるとする国民が増加しており、医療崩壊の状況を示していた。ただし2010年以降は急速に改善方向へシフト、2012年には改善>悪化にプラス転換 (2)では医療に対する満足度が低下してきていたが、2005年度から08年度にかけて、満足度が急速に回復。 (3)では02年以降患者満足度が上昇傾向。2008〜11年は低下。2014〜17年は再度上昇。 (1)の悪化局面では病院診療や救急医療の実態事例や医療界からの意見などからマスコミ報道や国会論戦における世論形成の影響が大きいと考えられる。 (2)(3)の医療への満足度の回復や上昇についてはほとんど注目されていない。 医療崩壊とは医師不足、勤務医の過労などによって公立病院を中心に特定地域や特定科目によって診療が不能となる場合が生じていることを示しているが、患者の満足度が国全体として低下しているわけではない点にも注意を払っておく必要があるだろう。病院や医療従事者の危機、公立病院の危機は必ずしも患者の危機ではないのである。むしろ患者の満足度の向上が病院の犠牲で可能となっているケースが増えているのではあるまいか。 いずれにせよ、本格的な医療崩壊は長期的な患者満足度の低下に結びつくはずであり、日本の場合は、そうした本格的な医療崩壊は生じていないといってよかろう。 2008〜17年の患者満足度の内容は個別項目からみると以下である。08〜11年の外来患者の満足度低下は多くの項目にわたっているが、中でも大きな要因は診察時間が十分取られていないとする点であった。14年には11年と比べるとすべての項目でプラスとなったが、対08年比較では、なお、診察時間についてはかなりのマイナスとなっている。
医療の改善が必ずしも世論のプラス評価に結びつかないのは日本だけではないようだ。医療改革を進めたのに英国労働党政権の評判は良くなかった。英国では2010年5月の下院選で13年ぶりに労働党から保守党へ政権交代が起こった。下院選と関連して労働党政権の成果について英国エコノミスト誌が「物事はもっと良くなっていたとされただけ」という見出しを付けて論評している。その中で公共サービスを例にあげて成果があったのに評価されない様子が報じられている(記事中には、病院の平均待ち期間が1990年代末の18週から2008年には6週に改善している折れ線グラフが掲げられている。英国の医療改革については図録1900参照)。
「重要な公共サービスのいくつかは疑いもなく改善した。若者が大学へ進学する比率が上がった。ほとんどの患者がホームドクターの紹介後18週以内に病院にかかれるようになり、ほとんどの場合はもっと早く看て貰えるようになった。かつては18カ月の待ちもあったのにである。世論とは合理的に理解できない妙な癖があり、患者が診療に満足しているという国民保健サービス(NHS)の割合が最高値を更新しているというのに、多くの世論調査ではNHSは悪化しているという結果となっている。個々人の体験と一般的な見解との同様のくいちがいは犯罪の場合にも明らかだ。犯罪事件の発生率は低下しているのに犯罪への恐れは大きくなっているのだ。」(The Economist May 1st 2010) (2009年9月14日収録、2010年3月16日概況から確定数への変更、2010年5月19日英国の事例紹介、2013年2月26日更新、2015年9月8日更新、2020年3月16日更新)
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