結論からいうと、社会保障給付の対国民所得比はこれまで一様に上昇してきたのではなく、横ばいの時期と急上昇の時期が交互に訪れる形で上昇してきた点に大きな特徴がある。 我が国で総合的な社会保障制度の基盤ができたのは、1961年の国民皆保険、皆年金の導入による。その後、社会保障給付費は増加したが、高度経済成長下で所得水準も上昇しており、国民の年齢構成も若かったので、国民所得比はそれほど上昇しなかった。各時期の経済成長率については図録4400参照。 1973年は老人医療の無料化や年金給付水準の引き上げ、物価・賃金スライド導入などが一挙に行われ、福祉元年と呼ばれている。背景としては、高度成長のお陰で財政が潤沢であり、田中角栄首相が財政負担による給付引き上げにリーダーシップを発揮した点があげられる。「成長か福祉か」論争の中で、福祉国家は今や国民的要求という風潮があり、また革新自治体の出現に対して自民党の選挙対策という側面もあった。 こうした制度導入の結果、1973年から、高度成長が安定成長に転換したためもあって、社会保障給付費の対国民所得比は73年から82年にかけての10年間に6.5%から13.7%へと2倍以上に急上昇した。この間、年金給付費が急拡大し、それまで社会保障の中心であった医療給付費を1981年には上回るに至った。その後も年金の伸びは医療を上回っている。 1982年から、いわゆる福祉見直しがはじまった。80年に発足した臨時行政調査会(第2臨調)が社会保障制度における国庫支出を抑制・削減する改革案を提示したのを受け、また1979サッチャー政権、1981レーガン政権、1982中曽根政権と相次いで自由主義的な改革路線が世界的潮流となったことも背景にして、老人医療無料化の廃止、健康保険本人負担1割、基礎年金制度など社会保障制度が大きく見直された。この結果、1980年代を通じて、社会保障給付の対国民所得比は、ほぼ横ばいとなった。 1990年代にはいると、再度、社会保障給付の対国民所得比は急上昇に転じた。これは、社会保障給付が高齢化の進展の本格化によって伸びが加速したのに対して、バブル崩壊後の景気低迷によって経済成長率は極めて低い水準となったからである。国・地方の財政赤字も巨額に上り、このままいったらどうなるんであろうかという考えのもと小泉政権下では首相官邸におかれた経済財政諮問会議の主導の下、社会保障改革が相次いで実行された。年金ではマクロ経済スライド方式により、賃金や物価の上昇があった場合被保険者の減少や受給年の伸び(平均寿命の伸び)を考慮した調整率を差し引いて給付することとなった。医療制度改革においては経済財政諮問会議では医療費の伸びをGDPの伸びとリンクして管理する案が出されたが、むしろ都道府県別の医療費適正化計画など具体的に医療費を管理することとなった。この他、医療、介護において、在宅者との均衡を考慮し入院・入所者のホテルコスト(居住費・食費)を自己負担することとなるなどの改革が行われた。 小泉政権下の社会保障改革により、すでに2002年からは、社会保障給付の対国民所得比が横ばいに転じている。
なお、2000年の介護保険開始で、「福祉その他」の比率が上昇しているが、他方、それまで医療保健の対象だった療養型病床群が、医療保険型と介護保険型に分けられ、後者は「医療」から「福祉その他」に移行したため、「医療」の比率は2000年に例外的にダウンしている。 2008年〜09年は、急に社会保障費の対国民所得比がアップしている。これは、右表のように、母数となる国民所得が同年秋のリーマンショック後の不況で大きく落ち込んだのに対して、当然のことながら社会保障費は一定以上の伸びを示したためである側面が大きい。社会保障給付費の伸び率も2.9%、6.0%とかなり高くなったが、これは、衆議院総選挙の前年と政権交代の年ということもあり、2008年に導入された後期高齢者医療制度も長寿医療制度と改名、手直しが施され、その後後期高齢者医療制度の廃止や子ども手当の創設(月額2万6千円)を掲げる民主党への政権交代がおきるなど、小泉改革への反動が生じたためである。2010年度には子ども手当の半額実施が行われたので、このため社会保障費が伸びた可能性がある。ところが、民主党政権下とはいえ、2011、12年度は国民所得の伸びも低く、社会保障給付費の伸びも低く抑えられている。 自民党政権への復帰の影響は2013年度からであるが、アベノミクス下において、なお、抑制的に推移しているといえる。 税負担率とここでふれた社会保障負担率を合計すると国民負担率となる。国民負担率を税負担率と社会保障負担率に分解して推移を辿った図を図録5100に掲げたので参照のこと。 以下に、今後の医療・介護・年金制度の改定予定を掲げた。介護については図録2058参照。 2014年度以降の医療・介護・年金制度の改定予定
(2006年12月18日収録、2009年9月10日更新、2011年10月21日更新、10月28日更新、2014年11月6日更新、11月13日更新、2015年3月5日今後の改訂予定表追加、2019年5月28日更新)
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