図は国民負担率の年次推移を租税負担率と社会保障負担率とに分けて示した国際比較の図録である。出所は国立社会保障・人口問題研究所の資料、最近は財務省である。 国民負担率は図の右上ほど大きい。日本の社会保障負担率の推移については、図録2796参照。 2023年2月には何故か、財務省が発表した2022年見込み(末尾表参照)の国民負担率47.5%がTwitterなどで江戸時代に農民が領主に納める年貢割合を表現した「五公五民」になぞらえて話題となった。年貢の「五公五民」とは性格がまるで異なるし、急に値が上昇した訳でもなく、海外諸国と比較して高い訳でもないのに妙な現象である。 2023年度の日本の国民負担率46.8%(見通し)は、米国の33.8%(20年、以下同様)より高いが、ヨーロッパ諸国が一時期よりは低下したもののドイツの54.0%、フランスの69.9%、スウェーデンの54.5%と高い水準にあるのとは対照的に低い。 ただし、毎年の国民負担率は国債発行などによる財政赤字により低くなるので、負担回避分まで考慮した潜在的な国民負担率は財政赤字を足して53.9%にのぼる(2023年度見通し)とも財務省によって算出されている(財務省HP)。これによると政府が設定している将来的な国民負担率目標限界水準である50%はすでに超えていることとなる。 図から多くの国で国民負担率が上昇してきていることがうかがえる。 1970年当時、なお高度成長期にあり、高齢化率も進んでいなかった日本の国民負担率は20%代と非常に低かった。その後、租税負担率を上げた時期もあったが、全体としては社会保障負担率を上昇させ、国民負担率の上昇を受け止めてきた。 1970年当時、スウェーデンを除くと「ゆりかごから墓場まで」といわれる福祉国家体制をとっていた英国の国民負担率が50%近く(48.1%)と最も高かった。その後、ドイツ、フランス、スウェーデンでは社会保障の充実を求めて国民負担率を大きく上昇させたが、近年は再度これを抑える方向にある。 米国と英国は出発点は大きく異なるが、その後も余り大きな変化を経ずに、今も40年前の1970年当時と余り変わらない国民負担率の水準にある。国民負担率の上昇を抑制するという国是で取り組んできたと言わざるをえない。 ドイツ、フランス、スウェーデンは、出発点から大きく国民負担率を上昇させ、いわゆる高福祉高負担へ大胆にシフトしたが、その後、見直しが大きく進み、ドイツ、フランスでは、半分ぐらい引き戻しており、スウェーデンに至っては、何と、1970年の出発点の水準にまで回帰している。「高負担・高福祉」の代名詞だったスウェーデンは、「準高負担・準高福祉」になってきた点が印象的である。 国民負担率のパターンには、ドイツ、フランスのように社会保障負担率重点型の国と英国、スウェーデンのように税重点型の国とがあることが図からうかがえる。 これは、高齢化とともに増大する社会保障費を社会保険方式で負担するのか税法式で負担するのかという問題と関係する。フランスやスウェーデンなど国民負担率が高い国では、近年、社会保険の保険料を低くして税率を上げたり、いろいろ試行して2つの負担率を巡ってぐるぐる回りして苦労してきたことがうかがえる。特にスウェーデンは、社会保障負担率の低下による国民負担率の低下が目立っている。
(2006年12月17日更新、2009年4月9日更新、2010年6月11日更新、6月14日コメント修正、2011年7月7日更新、2014年1月27日更新、スウェーデンについてのコラム追加、2015年5月8日更新、2019年2月7日更新、2020年2月9日更新、2023年3月6日更新、3月7日「五公五民」になぞらえた奇妙な話題)
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