こうした国民医療費の伸びの要因としては、@診療価格の変化、A人口の増減、B人口高齢化、Cその他、が考えられる。「@診療価格」には診療サービス(医師・看護婦等のサービス)と医療機器の価格が含まれるが、我が国では公的健康保険の「診療報酬・薬価基準」の改訂で基本的に決まる。「Cその他」は受診率の上昇や医療技術の高度化によるものと考えられる。 図には国民医療の増減率についてのこの4つの要因の内訳を厚生労働省が計算した結果の推移を示した。原資料は年次ごとの値であるが、ここでは、分かりやすいように5年ごとの単純平均の推移を示している。 「診療価格」はバブル経済期をはさんだ1990年代前半までは上昇していたが、その後のリストラ時代の中で、特に2000年代の構造改革の時期に低下傾向となり、医療費の伸びもその分抑えられるようになった。2010年代以降はほぼ横ばいとなっているため価格面は医療費の伸びにはあまり影響を与えていない。2年毎の診療報酬の改定率の推移は図録1933参照。 人口要因は人口増減と高齢化の両方の要因が取り上げられている。人口増減要因については、2000年代前半までは増加が医療費の伸びの1要因となっていたが、2010年代以降はむしろ減少が医療費の伸びの抑制要因に転じている。高齢化要因については、一貫して、1.2〜1.7%の範囲で国民医療費の伸びの大きな要因であり続けている。 「その他」については、1990年代前半までは非常に大きかったが、それ以降は1.5%程度の寄与度となっている。これは、医療アクセスの改善によって上昇していた受診率(人口あたりの通院・入院者数)が、高齢人口、生産年齢人口のいずれもについて、近年は低下傾向にあり(図録2000参照)、「その他」の寄与度が医療技術の高度化の要因に限られてきているためと考えられる。 最近の2010年代前半では、医療費の伸びは、ほぼ、高齢化と医療技術高度化とで半分半分を占めていると判断することができる。 (2016年9月5日収録、2019年7月30日更新、2020年10月21日更新)
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