吉田兼好「徒然草」第117段には「よき友、三つあり。一つには物くるる友。二つには医師(くすし)。三つには知恵ある友。」とあり、よく知られている(注)。

 日本人や日本人と文化的なつながりの深い韓国、台湾、中国といった東アジア諸国の国民は、どんな友人が望ましいと考えているのであろうか。東アジアの人的相互交流がかつてないほど高まっている現在、国境を越えた友人関係も増えていると思われる。相互に相手国の考え方について理解しておくことも大切だろう。

 ここでは、東アジア4カ国の大学・研究機関が共通の質問票を使用して共同で行った各国の全国レベルのアンケート調査の結果から、友人の特長として大切と思う点についての設問への回答結果をグラフにしている。資料出所は日本側の担当機関の1つである大阪商業大学JGSS研究センターのHPである。EASSというこの共同調査の概要と中国調査の回答者属性をページ末尾に掲載した。

 まず、どの国民も、「正直さ」、「責任感」、「忠実さ」、「思いやり」の4徳目に関しては、友人としてつきあうとき基本的に重視すると言っていることに気がつく。いずれの国民も賢さや財産といった属性より、人間関係におけるモラルの高さを重視しているのである。

 次ぎに、日本人の回答の特徴として目立っているのが、すべての項目で他の3カ国と比べて、「非常に重視」あるいはこれと「重視」の計の値が最低となっている点である(唯一、「思いやり」だけ台湾をやや上回っているが)。日本人の場合は、どちらかというと、友人がどんな特長をもっているかには比較的無関心。偶然友人になればそれを重んじるという傾向があるようだ。

 さらに、各項目への回答パターンは以下の3つに分類できる。

回答パターン 友人に求めるもの
@日本人だけが相対的に低いパターン 正直さ、責任感、忠実さ
A韓国人と中国人が相対的に高いパターン
(日本人と台湾人が相対的に低いパターン)
頭のよさ、教養、思いやり
B中国人だけが特別に高いパターン 権力がある、裕福さ

 日本人だけが低いパターンの@は、上でもふれたような、どのような友人かにこだわらない日本人の特徴があらわれている項目といえる。「責任感」に関し、無責任な友人でも友人は友人だと考える者が他国では1割以下であるが、日本人には4分の1もいる。以下は藤圭子が1970年にうたってヒットした「夢は夜ひらく」の歌詞の最終フレーズであるがこの点を表現していると思う。

  一から十まで 馬鹿でした
  馬鹿にゃ未練は ないけれど
  忘れられない 奴ばかり
  夢は夜ひらく
  夢は夜ひらく

 「忠実さ」は英語表現では”Loyal”であり、約束を守る。信義を重んじる、といった意味を目指していると考えられるが「忠実である」という設問表現ではこれが回答者に理解されていない可能性がある(韓国ハングルでは「忠実」、台湾・中国では「忠誠的」と表記)。

 日本人と対極的なのは韓国人であり、「非常に重視」の割合を見ると、「正直さ」と「責任感」(及び「思いやり」)で、4カ国人の中で最も大きな値を示している。友人関係に求められる精神性がこれだけ高いと日本人のルーズな友人関係との間に、齟齬や失望、あるいはすれ違いが生じかねないので注意が必要かも知れない。

 日本人と台湾人とで重視度が相対的に低いAのパターンについては、「頭のよさ」、「教養」については、儒教的な伝統が、この両国民では韓国人、中国人よりやや薄いからとも考えられる。「思いやり」については、もっともらしい説明が思い当たらない。

 Bのパターンでは、中国人だけが、50%前後の者が「権力がある」あるいは「裕福さ」をもつ友人が望ましいと考えており、驚くべき状況だといってよいだろう(日本人、台湾人は10%未満、韓国人でもせいぜい10%台)。訪日中国人はこうした点でつきあいの深い友人に贈り物をするために日本で巨額な買物をするという側面もあると考えられる(図録7218参照)。

 中国で、このような権力主義的、拝金主義的な観点が一般的である背景として、(1)現代の中国社会では社会主義と資本主義が独特なブレンド状態にあるためと考えた方がよいのか、(2)経済の一定の成長段階の特徴と考えた方がよいのか、(3)改革開放以前にはたてまえとしてそれらが禁じられていた反動と考えたらよいのか(食べ物に対する禁欲とその反動については図録0300参照)、(4)それとも、もともとの中国人社会の特徴と考えたらよいのか、よく分からない。

 吉田兼好が指摘した「よき友」の第一は「物くるる友」であった。物をくれることができるのは、権力をもつ者か裕福な者であり、現代中国人が特に重視している点である。第二の医者かどうかはさておいて、第三の「智恵ある友」は「頭のよさ」に該当し、これまた中国人の重視度が最も高い。吉田兼好が暮らしていた鎌倉時代末期の日本に最も似通っているのは、今の中国なのかも知れない。

 要約すると、どんな友人かに余りこだわらない日本人、友人関係に高い精神性をあたえる韓国人、権力があり裕福な友人を重んじる中国人といった特徴が見られるといえよう。

(注)ちなみに「よき友」に先だって吉田兼好は「友とするにわろき者、七つあり。一つには高くやんごとなき人。二つには若き人。三つには病なく身強き人。四つには酒を好む人。五つにはたけく勇める兵(つはもの)。六つには虚言(そらごと)する人。七つには欲深き人。」とも言っている。


(2011年4月28日収録、2012年6月2日「夢は夜ひらく」歌詞紹介)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(海外)
テーマ 東アジア
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)