EASS調査の概要、及び中国調査の回答者属性について 独立ページ表示

 この図録では、東アジア4カ国の大学・研究機関が共通の質問票を使い、2年に一度、共同で行っている東アジア社会調査(East Asian Social Survey:EASS)の結果データを用いている。

 この調査の概要を紹介し、また、特に中国調査がどれだけ中国人全体の実態を反映しているかについて概観しておくこととする。

2008年EASS調査の概要
  日本 韓国 台湾 中国
調査名 日本版総合的社会調査(Japanese General Social Surveys) Korean General Social Survey 台湾社会変遷調査(Taiwan Social Change Survey) 中国総合社会調査(Chinese General Social Survey)
略称 JGSS KGSS TSCS CGSS
調査主体 ・大阪商業大学JGSS 研究センター(JGSS Research Center, Osaka University of Commerce)
・東京大学社会科学研究所(Institute of Social Science, The University of Tokyo)
・成均館大学 サーベイ・リサーチ・センター(Survey Research Center, Sungkyunkwan University) ・中央研究院社会学研究所(Institute of Sociology, Academia Sinica) ・中国人民大学社会学系(Department of Sociology, Renmin University of China)
・香港科技大学調査研究中心(Survey Research Center, Hong Kong University of Science and Technology)
実施時期 2008年10〜12月 2008年6月〜8月 2008年7月〜9月 2008年9月〜12月
調査方法 面接・留置法の併用 面接法 面接法 面接法
調査対象 20〜89歳の男女 18歳以上の男女 18歳以上の男女 18歳以上の男女
抽出方法 層化2段無作為抽出 層化3段無作為抽出 層化3段無作為抽出 層化4段無作為抽出
計画標本 4,003 2,500 4,601 6,300
有効回答数 2,160 1,508 2,067 3,010
回収率* 60.60% 61.00% 44.90% 47.80%
*各チームが報告している値に基づいており、算出方法は異なる。
(資料)大阪商業大学JGSS研究センター, East Asian Social Survey: EASS 2008 Culture Module Codebook(2010年3月)


 各調査とも社会調査の基本に則っている。すなわち、母集団である各国国民から偏りがなく抽出(任意抽出)した標本(サンプル)に対して調査を行っている。一番、信憑性が気になるのは、国土と人口が巨大な中国である。そこで、中国調査の回答者の属性を、地域別、年齢別、所得階層別に調べ、中国の統計データと対照させてみることとする。

 結論からいうと、調査は厳密に行われており、中国全土の中国人全体の意識や実態が結果に反映していると考えられる。所得階層も金持ちに片寄っておらず、むしろ相対的に中所得あるいは低所得の層から多くの回答が得られている。

@中国調査の地域別回答数


 中国各地域の回答数と人口の構成比を比較したグラフを上に掲げた。これを見れば、この調査が全国にわたって中国人の全体を捉えようと努力している有様が理解できる。中国人に対する調査と称して一部都市住民だけを調査しているのとは異なって看板にいつわりなしといった感がある。標本数6,300、回答数3,010と13億人の人口を抱える中国からのサンプルとしては多いわけではないが、全国31の行政区のほとんどに対して調査を行っており、回答がないのは2省1自治区に過ぎない。北京、上海といった主要都市の回答数は人口構成比を上回っているが、他方、人口の少ない辺境部の寧夏回族自治区や新疆ウイグル自治区でも人口比を上回るサンプルがある。

A中国調査の年齢別回答数

 年齢別では以下の通り、ほぼ、中国全体の年齢構成を反映している。もっとも、70歳以上では回答数がやや少なくなっている。


B中国調査の世帯所得別回答数


 社会調査では、貧困層より金持ち層に回答が片寄るバイアスが一般に懸念される。そこで世帯所得の分布を調べてみよう。

 回答結果の世帯所得の分布が母集団とどのように食い違っているかを調べるため、中国統計年鑑に記載されている10%の世帯毎の区分である十分位、あるいは20%の世帯毎の区分である五分位階級毎の平均世帯所得と比較して見ることにする。

 なお、コードブックでは中国の世帯収入別回答数割合を中国統計年鑑の都市世帯十分位階級の1人当たり平均所得を区分値として集計しているが、世帯収入と1人当たり所得では概念が異なるので単純に比較できない。

 中国統計年鑑の世帯所得分布データによれば、都市世帯の所得十分位階級で見て4万元以上はほぼ40%の世帯をカバーすると考えられる。また農村世帯の所得五分位階級で見ると4万元以上の世帯は20%に満たないであろう。

 一方、共同調査の場合は回答者の世帯の収入4万元以上が17.4%となっている。そこで、この最も所得の高い世帯比率は母集団より多くはないと考えられる。

 低所得世帯の方を評価すると、中国統計年鑑の都市世帯では、下から10%のラインはほぼ2万元ぐらいではないかと考えられる(十分位階級の第1と第2の中間)。農村世帯では、2万元というと半分ぐらいの世帯と見なせる(丁度真ん中の第3の五分位階級の平均世帯所得が2万元なので)。

 一方、共同調査の場合は2万元以下の世帯は、少なくとも4割はいる。すると、低所得世帯については、母集団より多くの回答があると考えられる。

 以上の所得分布についてまとめると、ここで取り上げているアンケート調査の対象世帯は、所得の相対的に高い層に片寄っているのではなく、むしろ、所得の相対的に低い層にやや片寄っている可能性が高い。