江戸時代の人口推移を知ることのできる資料として、幸運なことに徳川吉宗が享保改革の一環としてはじめ、その後、6年おきに子(ね)の年と午(うま)の年に幕末まで継続的に行われた全国人口調査の結果が残っている。これは、徳川幕府が命じて各藩が調査した統計である。現代は国勢調査も5年おきであり10進法の世界となっているが、当時は十二支をあてた12進法の世界なので6年おきなのである。

 最初の享保6年(1721年)の全国人口は、2,606万5,425人となっている。これには、武士や公家の人数は入っていない。武士の人数は軍事機密であり、明らかにされていない。また、この調査は、幕府が代官や諸藩に命じて、それまで行ってきたそれぞれの方法で人口を数えて報告せよ、というものだったから、金沢藩のように15歳以下は含まず、和歌山藩のように8歳未満は含まず、といった対象年齢の制限がある。僧侶や被差別民も含まれていない場合が多くなっている。除外人口がどのぐらいだったかという研究が行われているが、確かなことは分からないので、調査人口の1.2倍して当時の日本の人口にするというような便法が通用している。江戸時代後半の人口約3000万人はこうして求められているのである(注)

(注)江戸時代前後では1600年に1,700万人、1721年に3,128万人、1873年に3,330万人という人口が権威ある数字となっている。すなわち江戸時代前半は人口急増、後半は人口停滞と対照的な人口動向だったと考えられている(図録1150、図録1150a参照)。

 よく調べてみると、各藩は、宗門改めで人別改めの経験を積んでいる。全ての者がキリスト教徒ではないことを確証するため、毎年、個々人の帰属を記録していた。これは近代以前としては世界にも稀な徹底ぶりである。また、幕府が求めているのは人口の変化であることを各藩は理解していたようであり、最初はじめた対象年齢の制限はその後も毎回変えずに人口を調べている。定義が異なっていても同じ定義で調査が継続されれば、結果は有用である。

 調査の末端の村々では、藩や幕府報告用に正本を1部提出し、同じ内容の副本を村に保存し、毎回、村民の出生、死亡、転入、転出をこの副本に添付記録し、次回の調査に備えていたと言う。

 従って、人口の増減数については、かなり、正確なのではないだろうかと思われる。

 全国人口は125年間、22回中、19回分が残り、地方人口は同、12回分が残っている。

 この図録は、残存する史料の数字から、人口の推移を指数であらわしたものである。全国人口は、ほぼ横ばいとなっており、これが、江戸時代後半の人口は停滞的だったとされる根拠になっている。

 また享保の飢饉、天明の飢饉、天保の飢饉といった天災による人口減少も数字に捉えられている。日本の江戸時代後半の人口は、増えても飢饉でまた落ち込むことの繰り返しであり、その結果、トータルな推移は停滞的と判断されるのである。

 全国は停滞的でも、地方により、動向はまったく異なっていたことが知られている。例えば、北陸と北陸の中の国ごとの人口動向を全国と同じ1721年を100とする指数で示した。北陸では天明の飢饉の時期後に大きな人口増加が起こっていることが分かる。また、北陸の中でも越後、越中、能登で特に人口増が著しかったことが分かる。

 北陸の人口の対全国割合は幕府調査によると1721年に8.2%だったのが、1834年には10.2%まで上昇している。ちなみに2010年の国勢調査による同割合は4.4%に過ぎない。北前船経済圏の繁栄の中で江戸時代に躍進した北陸経済は、明治以降の近代化の過程における陸上交通へのシフトや世界経済とのつながりでの経済発展に伴う太平洋側の躍進で相対的な地位を縮小させたことが分かるのである。

 また、海上交通が主流の時代には能登のような半島部でも人口増が目立っていたのが印象深い。

 飢饉に関しては、享保の飢饉、天明の飢饉、天保の飢饉の時期に全国的に人口が減少する影響を被ったが、北陸の場合、前の2つの飢饉ではあまり影響が見られず、最後の天保の飢饉ではむしろ全国を上回る人口減が見られるという経過をたどっている。

 天保の飢饉は基本的に稲作が冷害を受けたためであるが、「この人口危機の特徴は高熱と蹴りをともなう疫病の流行であった。(中略)1834年から40年にかけてとくに人口減少率が大きかったのは、出羽、陸奥、北陸、畿内周辺、山陰、山陽、蝦夷地であったから、大阪と日本海航路でつながりの深い地域との間で、なんらかの感染症が流行したのではないかと推測される」(鬼頭宏「図説人口で見る日本史」PHP研究所、2007年、p.90)。

 この時期の日本の各地方の人口推移を図録7858で比較しており、また各地方の国別人口の推移を図録7859でふれているので参照されたい。

 北前船経済圏については2013年の富山市民大学での講演資料を参照されたい(ここ)。

(2022年10月23日収録)


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