私の場合、「24 -TWENTY FOUR-」までは、国内放送、あるいはレンタルビデオで視聴したが、「LOST(ロスト)」以降(および「第一容疑者」)は、ネットフリックスなどのインターネット配信による視聴である。「ホームランド」は両方にまたがっている(映像ソフトの類別市場規模推移を紹介した図録5644参照)。 あくまで個人的な興味の範囲内で心覚えで作成しておきたかった図解であり、悉皆性や基準の厳密さはないことを前提にご覧ください。 「24 -TWENTY FOUR-」は架空組織であるテロ対策ユニット(CTU)の捜査官ジャック・バウアーによる各種テロ攻撃の未然防止をテーマとしている。 シーズン1は2001年11月〜02年5月放映(米FOXテレビ)であり、ボスニア内戦のセルビア武装勢力残党による米国大統領黒人候補暗殺陰謀を扱っていた。ところが、放映直前の同年9月11日にはイスラム過激派テロ組織アルカイダによる同時多発テロ事件が起こり、2003年3月〜5月には大量破壊兵器保有疑惑を抱いた米国はイラク戦争を引き起した。 2002年10月〜03年5月放映のシーズン2では、こうした事態を受けイスラム過激派によるロサンゼルス核攻撃とそれを謀った疑いによる中東3か国への報復戦争をテーマとした。 このように、当初から予期していたわけではなかろうが結果として時宜にかなった連続テレビドラマとなり、緊迫した時代背景そのものがドラマの緊張感を生んだとも見られよう。 2005年放映のシーズン4では、大統領が代わって政府からの仕事から外された米国の民間軍事会社(傭兵組織)のヘッド(ジョン・ヴォイト)が、国外で仕事を請け負っているアフリカの紛争国で同国武装勢力と共同開発した生物化学兵器を使ったテロで大統領を脅迫し、政府の軍事的意思決定機関における要職を要求する話だった。ロシアで傭兵組織が首都攻撃の構えを見せた2023年6月の「プリゴジンの乱」と構図がよく似たシナリオであり、傭兵組織というものの存在から起こりうると想定したドラマがロシアでは実際に起こったことで驚かされた。 寓意性に富み、生存競争、人間性、文明などをめぐっていろいろ考えさせられるドラマの「ウォーキング・デッド」の各シーズンの舞台設定は次の通り。
ウィキペディア「ホームランド」を見ていて、重要な配役が英国人俳優によって演じられていることに気がついた。シーズン1〜3でキャリーの相方となる準主役ニコラス・ブロディ役のダミアン・ルイス、シーズン3〜6の準レギュラーであり、キャリーにしか心を開くことができないCIAの汚れ役ピーター・クイン役のルパート・フレンド、そして、キーン大統領を批判するネット活動家オキーフを演じたジェイク・ウェバー、キーン大統領の信任厚い大統領首席補佐官ウェリントンを演じたライナス・ローチなど肝心な役どころの多くが英国人俳優であるのにおどろく。 かってよく見ていた米国ドラマ「ナポレオン・ソロ」の2人主役の相方イリヤ・クリヤキン役もデヴィッド・マッカラムという英国スコットランドの俳優だったことを思い出す。 その他、キャリーの指導教官でともに数々の案件に取り組んだユダヤ出身のCIA諜報員ソールのインド人妻を演じたのはインド出身の英国俳優サリタ・チョウドリー、パキスタン軍統合情報局(ISI)の要員で小憎らしいほど米国を翻弄するタスニーム役はインド人のニムラト・カウル、ワナをかけるのも見破るのも天才的である筈のソールがあっさりと落ちたハニートラップの掛け手で二重スパイのCIAベルリン支局長アリソン・カーを演じたのはオーストラリア出身のミランダ・オットー、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の諜報員グロモフを演じるのは実際ロシア生れのコスタ・ローニンと英国人以外にも国際的な配役が目立つ。 国際ミックス度が特に際立っているのは、大統領首席補佐官ウェリントンをハニートラップにかけ、キーン大統領の失脚を図るロシアGRU諜報員シモーヌ・マーティン役を演じたサンドリーヌ・ホルトである。彼女は、父が香港人、母がフランス人で英国ロンドン生まれ。5歳のとき家族とともにカナダのトロントへ移住し地元高校に通い、女優として米国で活躍するまでパリでランウェイモデルとして活動していたという。どんな複雑な背景をもつ配役でもこなせる実際のキャリアを有していると感じざるをえない(注)。なお、彼女はベター・コール・ソウル(後述)では、ジミーの運命的な敵役でラロに出会いがしら殺された弁護士ハムリンの妻を演じている。 (注)同様の民族的・人種的混交はローマ帝国の時代にも生じていた。浴場の名前で有名な皇帝の「カラカラは、生まれはガリアであるが、母はシリア人、父はアフリカ人で、まさに、この時代、ローマ帝国が提供した人種的・思想的混淆の代表で、その一個の人格の中には北方人の血気と南方人の狂暴さ、東方的信仰の奇妙さが混じりあった、まさにモンスターでありキマイラのような人物である」(ジュール・ミシュレ「フランス史【中世】T」、論叢社、p.116)。ウィキペディアによると父はカルタゴ人元老院議員、母は属州シリア出身の巫女だったらしい。 ドラマの中に小道具として登場する書籍は制作者の着想の源をうかがわせていて興味深い。LOST(ロスト)では、フラナリー・オコナーの短編集「すべて上昇するものは一点に集まる」を読んでいる登場人物の魔力でもう1人の登場人物がビルから墜落死するシーンがある。ホームランドの最終シーズンでは、ソールの自宅の書棚の書籍がロシアに潜入したスパイからの情報の受け渡し使われていたものだとキャリーが見抜くシーンがあったが、ジョゼフ・コンラッド「秘密工作員」、サッカレー「虚栄の市」が含まれていた。前者は原題通りに「シークレット・エージェント」と題された和訳があり、読んだことがあるが、確かに非情な世界で人知れず持ち続ける意欲がある意味滑稽な存在だともいうべきスパイを描いた古典的作品だった。 「ブレイキング・バッド」とあわせてアイスランド・サーガならぬアルバカーキ・サーガを構成する「ベター・コール・ソウル」はボブ・オデンカーク主演の傑作ドラマであり、個人的には図中のベストワンに推したい。ボブ・オデンカークがまさにはまり役と言うべきであり、これに出なければ彼は「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2017年)の味のある名脇役という印象しか得られなかっただろう。観ている者が終始、ジミー役のボブ・オデンカークと幸せにむすばれることを願わざるをえないキム役のレイ・シーホーンは、成瀬巳喜男映画の杉葉子に似た感じのナイスレディだ。 町田康現代語訳の宇治拾遺物語(河出文庫)を読んでいるが、ベター・コール・ソウルはこれと各エピソードの面白みがよく似ていることに気づいた。全6シーズンのうち前半3シーズンのメインテーマはジミーとチャックの兄弟確執であるが、宇治拾遺物語にも「楽人である家綱と行綱が兄弟互いに騙しあった」(第74話)がある。この話は、受けることは確実だとしても余りに下品な所作なので発案した兄の家綱を弟の行綱が諫めて舞台でやらないと兄弟で決めたのに行綱が勝手にそれを演じてしまい、家綱に悔しい思いをさせたのち、兄弟は表面上は和解したが、別の舞台で行綱が演じる役のオチを家綱が先に観客にばらし、行綱をいたたまれない状況に陥れることで復讐した。まったく、ベター・コール・ソウルそのもののような筋でびっくりした。愛憎こもごもの兄弟対立は古今東西を問わない古典的なテーマなのだろう。 ベター・コール・ソウルはこまかいシーンが凝っている。下にジミーの幼少期のシーンを掲げたが、タイム誌、マッド誌、プレーボーイ誌といった時代を代表するような雑誌の当時の表紙を拡大してパンしていく映像に懐かしさを感じた視聴者も多いだろう。ドラマではプレーボーイのヌードを盗み見るというような万人受けのシーンとなっていたが、本当はジミーはマッド誌を愛読し、機知やジョーク、風刺、諧謔などの感覚を小さな時から養ったため、「ジミーの悪巧み物語」ともいうべきこのドラマの主人公となる資質を育むことになったと暗に示したかったのではなかろうか。実際、私は千代田区立麹町中学の生徒だった頃、家がきだみのるを寄食させたりしていた印刷屋の息子なのでませていた元電通マンの同級生Y君からマッド誌を借りて読んで(実際は英語が分からないので眺めて)感心しまくった思い出がある。日本でもそうなのだから米国ではいかばかりかと思う(マッド誌については図録6040も参照)。 ジミーが常用していたスズキのエスティームについては末尾のコラム参照。 社会実情データ図録ではネットフリックスの映画・ドラマのシーンを結構多く引き合いに出している(検索)。例えば、英ブレア政権の支持率のアップダウンについて「ザ・クラウン」を引用した図録5236a参照。 取り上げた連続ドラマは米国のものが多い。ドラマのほか、映画、音楽を含め米国のエンターテインメントへの評価が世界的に高くなっている点については図録5662参照。 国内の長寿テレビドラマについては、図録5664b参照。
掲載したタイトルは次のとおりである。ダラス、ツイン・ピークス、第一容疑者、ER救急救命室、24 -TWENTY FOUR-、LOST(ロスト)、ブレイキング・バッド、ベター・コール・ソウル、BORGEN、ウォーキング・デッド、ブラックミラー、ホームランド、ハウス・オブ・カード、オレンジ・イズ・ニュー・ブラック、ピーキー・ブラインダーズ、ファーゴ、ナルコス・同メキシコ編、サバイバー: 宿命の大統領、ストレンジャー・シングス、ザ・クラウン、ダーク、ペーパー・ハウス、オザークへようこそ。 (2021年8月12日収録、12月20日「ホームランド」コメント、2022年1月8日ドラマ登場書籍、8月16日更新、2023年3月5日カラカラ帝出自、6月18日更新、6月24日24コメント、7月26日24シーズン4コメント、9月23日ウォーキング・デッド追加、11月27日ウォーキング・デッド各シーズン舞台設定、2024年4月30日グッド・ドクターを外し、ピーキー・ブラインダーズ、ナルコス・同メキシコ編を追加、5月31日ベター・コール・ソウル評、6月7日・8日同画像、6月15日宇治拾遺物語、6月19日〜22日コラム、6月30日コメント補訂、8月30日THE KILLING/キリング、ウォーキング・デッド(スピンオフ)追加、10月1日ミスター・メルセデス)
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