年の半期毎の産業別の就業者数の増減を追った図を掲載した。好景気や景気低迷がどの産業で生じているかが分かろう。産業別就業者数の増減についての国際比較は図録5249参照。

(2024年)

 上半期について、大きな回復ではないが順調に就業者数は増加している。2023年には小さかった情報通信業の増加幅も以前に戻ってきた。円安の進行にもかかわらず製造業はマイナスである。2024年問題を抱える運輸業も減少が続いている。

(2023年)

 2023年上半期の動きとして目立っているのは製造業が大きな増加に転じた点と情報通信業の増加が大きく縮小した点である。前者は円安の進行による国内回帰の影響と考えられる。後者はコロナ禍による急拡大が一服し、2022年から23年にかけて米国の大手IT企業で実施された大規模なリストラの余波が及んだ格好である。

 下半期も回復が続き、卸小売がマイナスからプラスへ転じている。

(2022年)

 2022年の上半期には就業者数の落ち込みはほぼ止まっているが、産業別に「卸小売業」が大きく落ち込んだのが目立っている。同年1〜6月はコロナの第6波が拡大縮小した時期に当たりまん延等防止措置が発出された地域もあったが、すでに就業者数が減っていた「宿泊・飲食サービス」の更なる落ち込みは見られなかった。

 下半期には、コロナ以降減少ないし横ばいが続いていた総数がようやく増加に転じた。産業別には大きな減少が続いていた「宿泊・飲食サービス」が増加に転じ、「卸小売業」の減少幅も縮まった。

(2021年)

 2021年の上半期及び下半期は、就業者数の減少は止まったが、産業別の動きはコロナの影響で「医療、福祉」、「情報通信業」が拡大、「宿泊、飲食サービス業」や「サービス(4分類)」、「その他」が縮小という2020年と同様の傾向が継続している。

(2020年)

 2020年の上半期、下半期は、新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響で、それまでの就業者数増から一気に減に転じ、2008〜09年のリーマンショック以来、久方ぶりに不況の相をあらわにした。

 産業別には、増加業種と減少業種がはっきり2分されたのが特徴となっている。いわゆる「エッセンシャルワーカー」が属する「医療、福祉」、「運輸、郵便」、「情報通信業」では就業者の増加が続いているのに対して、その他の業種はおおむね減少に転じている。

 就業者数の減少幅が大きいのは、「宿泊、飲食サービス業」であり、新型コロナの感染拡大が、特に、この業種を直撃したことが分かる。その他、「製造業」や「建設業」などへの影響も大きくなっている。「建設業」は東京オリンピックが新型コロナの世界的な感染拡大で1年延期となったのが影響していると思われる。

 テーマパークやパチンコ店など娯楽業を含む「サービス(4分類)」は特に下半期に減少幅が大きくなっている。長期的には増勢が続いていた「教育、学習支援業」は上半期には全国一斉休校の影響もあって増加がほぼゼロだったが、休校が解除されている下半期には増加に転じている。

(2019年)

 2019年には就業者数の増加幅が大きく縮小した。産業別の寄与としては、18年と比較して宿泊・飲食サービスの増加幅が大きく縮小したほか、サービス業や情報通信業は余り増減幅が変わらなかったが卸・小売や建設が増加から減少に転じている。下半期における卸・小売業の大きな減少は10月からの消費税の10%への引上げが影響しているのかもしれない。

過去のコメント 

 2018年下半期は就業者の増加幅はやや減少したが、海外旅行客の急増に対応した宿泊・飲食サービスの増加が継続するなど、ほとんどの産業で就業者数が増加しており、引き続き好景気状態を維持している。「その他」の増加幅の縮小は金融・保険業の減少によっている。

 2018年上半期は就業者数の増加が150万人近くと著しい好景気状態を示している。産業別では卸小売がマイナスとなったのを除き、各産業で増加となっている。建設がオリンピックの影響でプラスを続けており、さらに農林業までプラスとなった。また宿泊・飲食サービスが24万人増とこれまでにない増加を記しているが、これは訪日観光客の増加によるものと考えられる。「その他」の増が目立っているが、内訳を調べてみると、金融・不動産が7万人と増加しているが、「分類不能の産業」が33万人も増加している影響が大きい。ネット社会による産業変化、あるいはバブル的な経済状況と見られる。

 2017年は、上半期には、これまで以上に就業者数が増加し経済の好調さを示している。その中で、マイナスの産業が少ない点、また卸売業・小売業の増加と医療・福祉がはじめてマイナスとなった点が目立っている。また、下半期には、図の区分ではマイナスの産業がなくなり、産業全般の好調さをうかがわせている。医療・福祉はプラスに転じたが、なお、増加数はこれまでより小さくなっており、他産業の好調のあおりで人材不足となっている可能性が高い。

 2016年は上半期、下半期と総数が増加し、景気の良さを示している。その中で2016年下半期には、建設(及び情報通信)のマイナスを除いて、ほぼすべての産業でプラスになっている点が目立っている。

 2015年下半期には就業者計の増加数の縮小が止まった。医療福祉、教育、情報通信などが増え、農工、商業、建設など旧来型産業が減る長年来の傾向となっている。建設の場合は需要がないというより人材不足による減少とも思われる。

 2015年上半期の就業者計はなおプラスであるが増加数はさらに縮小した。各産業の増減の幅の小さくなり、産業変化の動きが停滞的ともいえる。農林業が2008年以来の増加であるが他産業の停滞予想による定年者等による農業回帰であろうか。

 2014年下半期の就業者計はなおプラスであるが増加数は縮小した。円安が続いているのに国内回帰はそれほど進まなかったのか製造業はマイナスとなった。2014年下半期の特徴は建設業が2003年以降はじめて大幅なプラスとなった点である。2020東京オリンピックへ向けた建設需要の影響が出はじめたのだろうか。卸小売はマイナスに転じ、消費ブームは1年間程度だったこととなる。

 2014年上半期の動きは、まず、就業者計が45万人増と前年下半期に続き大きなプラスを維持した。製造業(及び情報通信業)もマイナスからプラスへのはっきり変化し、工場生産の海外から国内へのシフトなど円安の効果があらわれはじめたといえる。農業、林業を除くとマイナスの産業がほぼなくなりつつあるというのも景気回復を印象づけている。

 2013年下半期の動きは、まず、就業者計が54万人増と上半期を大きく上回るプラスとなり景気回復を印象づける結果となっている点が目につく。この増加幅は2007年上半期を上回っている。製造業のマイナスもほぼ解消し、工場生産の海外から国内へのシフトなど円安の効果があらわれはじめたといえる。卸小売のこれまでにない回復は、個人消費の好調を反映しているが(図録4420)、株価上昇の資産効果と2014年度の消費税引き上げを前にした駆け込み需要が影響しているのであろう。「その他」の増の理由は上半期と同じだと思われる(下記参照)。

 2013年上半期の動きは、まず、就業者計が29万人増と大きくプラスとなり景気回復を印象づける結果となっている点が目につく。ただし、2006年頃の景気回復と異なり、製造業がプラスに転じていない。「その他」の増が目立つのは、派遣労働者の所属産業を派遣元ではなく派遣先が記入されるよう改善を図った結果として必要となった対前年増減の補正において、補正しきれなかった分が「その他」の増減にあらわれているためと考えられる。

 2012年下半期の動きの特徴は就業者数全体の減少傾向がやや持ち直した点、および、円高による工場の海外移転や薄型テレビの失敗によるシャープなど家電業界の不振を反映した製造業の減少幅が拡大している点にある。製造業の不振については2012年12月には製造業就業者数が998万人と1961年6月以来、51年ぶりに1000万人を下回ったことが報道された。これはピークだった1992年10月の1603万人から約4割の減である。上半期の卸小売と運輸といった流通業界の停滞、震災の影響による旅行・外食の不振は下半期ではやややわらいでいる。

 日本標準産業分類が2002年10月から新分類(第11回改定)に移行、その後2009年1月からさらに新々分類(第12回改定)へ移行したので景気変動の産業別の内容も労働力調査の結果から見やすくなった(図録5245、図録5247参照)。労働力調査の産業別就業者数については新分類への移行前のデータについても遡及推計がなされている。

 就業者数総数の増減では、2007年の下半期から景気後退局面に入り、2008年下半期から2008年秋のリーマンショックの影響による世界経済の低迷に伴い景気が一層悪化。その後、2009年下半期をボトムに、2010年上半期、下半期と持ち直し、2011年上半期以降、再度、低迷といった状況がうかがえる。

 産業別就業数から見ると2009年のリーマンショックの影響による世界経済の低迷に伴う景気悪化は、製造業の減少による影響が非常に大きかった状況が分かる。

 製造業以外では、公共事業の縮減や人口の減少にともない建設業のマイナスが続いている。しかし、2011年3月の東日本大震災に伴う復興需要のため同年上半期以降は建設業の就業者数はほぼプラスマイナスゼロと改善されている。

 サービス業(4分類)も2009年上半期から減少が続いているが、労働力調査においては派遣労働者が派遣先の産業ではなく4分類の1つの「サービス業(他に分類されないもの)」に分類されており(コラム参照)、2009年にはいわゆる派遣切りの影響、その後は派遣労働の規制強化へ向かう動きの中で契約労働やパート労働にシフトしているため減少が続いていると思われる。なお民主党のマニフェストにそって登録型派遣や製造業派遣を原則禁止とする労働者派遣法改正案の成立を目指されたが、自民党や公明党との協議の中で、2011年末には、他のマニフェスト項目と同様に取り下げられることとなった。実際、2011年上期にはサービス業(4分類)の減少は止まった。

 この間、一貫して、就業者数を増加させているのは、医療・福祉部門のみである。宿泊・飲食も2009年上半期からは増加に転じている。しかし、2011年上期には、情報通信はマイナスに転じ、宿泊・飲食も東日本大震災の影響もあって減少に転じ、同年下期以降もこうした傾向が続いている。

【コラム】派遣労働者の産業分類

 労働力調査においては、「労働者派遣事業所の派遣社員については,派遣元事業所の産業について分類しており,派遣先の産業にかかわらず派遣元産業である「サービス業(他に分類されないもの)」に分類している。なお,派遣先の産業については調査していない。」とされる(労働力調査 調査結果利用上の注意)。

 一方、国勢調査では、「労働者派遣法に基づく派遣労働者は,平成17年以前の調査では,「労働者派遣業」に分類していましたが,22年調査から,派遣先で実際に従事する産業を基に分類します。」とされている(労働・就業の状態に関する用語)ので注意が必要である。

(2004年6月4日収録、2005年7月12日・7月29日・2006年4月28日・2007年1月29日更新、2009年3月4日・9月16日更新、2010年2月22日更新、2010年8月2日更新、2011年3月10日更新、12月29日更新、2012年1月31日更新、8月2日更新、2013年2月2日更新、7月30日更新、2014年1月31日更新、8月5日更新、2015年1月30日更新、7月31日更新、2016年1月29日更新、2017年2月17日更新、8月8日更新、2018年1月30日更新、8月21日更新、2019年2月15日更新、2020年2月1日更新、8月6日更新、2021年1月30日更新、9月12日更新、2022年3月11日更新、8月13日更新、2023年2月2日更新、10月28日更新、2024年1月30日更新、7月30日更新)


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