日本でどの産業の就業者数が増え、どの産業の就業者数が減っているかは図録5248で見たところであるが、ここでは、OECD各国において、就業者数が増える職場(産業)、減る職場(産業)を比較した図を掲げた。

 就業者数規模の大きく異なる各国比較では、就業者数じたいの増減で比較することは難しいので、各産業の増減数の絶対値の計を100とした産業別構成比(増減寄与度)で比較している。

 就業者数が減少している産業が多いギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどは欧州債務危機で経済が収縮した諸国(「低迷国」と呼んでおく)である。他方、就業者数が、ほぼ、どの産業でも増えているメキシコから米国までの諸国は基本的に経済が順調に成長している国々(「成長国」と呼んでおく)と見てよいだろう。

 日本は「教育・保健医療・公共分野」や「専門・科学技術サービス」の職場が増えている一方で、従来型の産業である「農林水産」、「製造業」、「卸小売等」を中心に職場が減っているのが特徴である。

 以下に産業別に各国の特徴を探ってみよう。その中で日本の特徴が他のOECD諸国と共通なのかそうでないのかを見ていきたい。

 「農林水産」は多くの国で減少が目立つが、ラトビア、アイルランド、メキシコでは例外的に雇用がかなり増えている。

 「建設」は「低迷国」で減少が目立ち(特にポルトガル、スペインで顕著)、「成長国」で増加が目立つという一般傾向が認められる。日本も建設はかなり減っている筈であるが(図録5248)、ここでは余り目立たない。

 「製造業」については、ヨーロッパの中で、「低迷国」を除いても、減少が目立つイタリア、オランダ、フィンランド、フランス、ベルギー、スウェーデンなど西欧諸国・北欧諸国と、増加が目立つポーランド、チェコ、スロバキアといった東欧諸国との対比が印象的である。日本から中国・韓国に製造業シフトが起こっている東アジアに近い構造がヨーロッパの中に存在しているといえよう。

 ただし、西欧諸国の代表格であるドイツについてだけは「製造業」がむしろ増加しており、西欧の中でも産業活性を維持している特異性がうかがわれる(ドイツの貿易収支の黒字が目立つ点については図録5040参照)。

 「情報通信」や「専門・科学技術サービス」はいずれの国でも基本的に職場増の傾向が見られるが、「情報通信」はラトビア、エストニアといったバルト海諸国の増が、「専門・科学技術サービス」はオランダ、フランス、ベルギー、ハンガリー、英国といった西欧諸国での増が目立っている。

 「金融不動産」は米国とルクセンブルクで職場増が目立っている。この分野の伝統国である英国は、案外、この分野での職場増が目立たない点が注目される。

 「教育・保健医療・公共分野」の増加寄与度が大きい国としては、日本の他、スウェーデン、ノルウェー、オーストラリア、イスラエル、スイスなどが目立っている。これらの諸国では他分野にも増して医療・福祉・教育・公共分野の職場への需要が大きくなっているといえよう。

 オランダ、デンマーク、アイルランドでは、逆に、この分野がマイナスか横ばいである点で目立っている。膨らみすぎたこの分野を整理統合する局面に入っているのかもしれない。

 対象となっている国は、図の順に、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、スロベニア、イタリア、日本、オランダ、フィンランド、ポーランド、フランス、ベルギー、チェコ、ラトビア、デンマーク、アイスランド、オーストリア、スウェーデン、アイルランド、スロバキア、韓国、ノルウェー、トルコ、ハンガリー、エストニア、オーストラリア、カナダ、ドイツ、メキシコ、英国、ルクセンブルク、ニュージーランド、イスラエル、スイス、チリ、米国である。

(2018年11月11日収録)


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