日本の貿易収支はバブル期をはさむ1980年代から1990年代までは他国を上回る大きなプラス(黒字)を記しており、この時期、世界最大の貿易黒字国だったことを示している。1980年代末に日米貿易不均衡の是正を目的にはじまった日米構造協議の結果、内需拡大の掛け声の下、バブル崩壊後に景気浮揚策として公共事業がかってないほど増やされ、その後の膨大な国の債務拡大につながったことは記憶に新しい(図録5165)。 日本の貿易収支は、東日本大震災・福島第一原発事故が起った2011年に天然ガスの大量輸入によってマイナスに転じて以降、マイナス幅が拡大した(図録4760参照)。その後、2015年から回復に向かい、2016年には再度黒字化した。その後、低下に転じ、2022年には大幅な赤字となっている。2022年の大幅赤字はロシアのウクライナ侵攻で原油などの資源価格が上昇、円安の影響が重なり、輸入額が大きく増えたためである。 先進国の中では、米国がかなり以前から大きな貿易赤字が継続・拡大しているのに加え、英国、フランスが相次いで貿易赤字国として目立つようになった。 他方、これと平行して、ドイツは貿易黒字の幅が拡大しはじめ、現在では、中国に匹敵する貿易赤字国となっている。これは、工業力の優位性という理由だけでなく、統一通貨ユーロの下で、ユーロ圏全体の輸出競争力水準に影響されてユーロの価値が決まる中で、相対的に輸出競争力が強いドイツでは、実力以上に、輸出にとって有利な為替条件の下に置かれているからといってよいだろう。 ただし、ドイツも2020年のコロナの影響以降は黒字幅が縮小し、2022年には資源高により日本と同様、貿易収支はかなり悪化している。 今や世界の工場と呼ぶにふさわしい国となった中国は、2005年から貿易収支の黒字を大きく上昇させて来ている。一方、石油・天然ガスといった資源輸出が拡大し経済の屋台骨となっているロシアでも2000年頃から貿易黒字が拡大基調にあったが、2015年以降は低下傾向に転じている。 最近では、中国、ロシアの貿易黒字、日本、米国、英国、フランスの貿易赤字の対照が目立つようになってきている。2015年に中国の貿易収支の黒字が大きく拡大したのは、輸出入ともに減少する中で、特に輸入が、石油など一次産品価格の低下、及び「新常態」移行に伴う構造調整のもとでの内需の低迷によって、大幅に鈍化したためである。 なお、イタリア、韓国は一時期、貿易黒字が続いていたが、経済規模からすれば、この2国の経済にとってこの貿易黒字は大きなプラス要因となっていたと考えられる。ただし、この2国も日本と同様の理由で最近は赤字に転換している。 2015年半ば以降に世界を襲っている中国経済の成長力低下に対する懸念とここで見ている世界の貿易収支の動きとどう関連していくのか、目が離せない。 (以下は2017年段階のコメント) 2017年1月11日の大統領就任前の記者会見でトランプ次期大統領は日本などとの貿易赤字に強い不満をぶつけ、実業家を揃えた新政権で米国の利益を最優先した貿易交渉を進める考えを示した(東京新聞2017.1.13)。会見前から、メキシコに進出を予定していた米国や日本の自動車会社に対して、メキシコではなく米国国内に工場を新設するようツイッターで増税を示唆するなどして圧力をかけていた。このため当図録へのアクセスも増えていた。 上図で示した米国の貿易赤字の国別の内訳の推移は以下の通りである(図録8782より)。日本は、中国やメキシコへの資本進出を通じ、両国の現地子会社から米国に輸出している側面が大きいので、名目上の額より米国の貿易赤字へのコミットメントの程度は大きいと考えられる。 (2015年9月14日収録、2016年6月3日更新、2017年1月13日米国の貿易赤字の内訳、12月5日更新、2018年4月14日更新、2019年4月26日更新、2023年4月21日更新)
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