若者の投票率の低さが克服すべき課題と理解されている。ネット選挙解禁の動きも若年層の政治意識の向上が大義名分となっている。

 ここでは、年齢別(年代別)の投票率の動きの基本データを見ておくこととする。データは(財)明るい選挙推進協会による(ここ)。なお、総務省選挙部が掲げる公式データもこれと同じである。

 投票率そのものは、選挙管理委員会が投票者数を有権者数で割った数値として発表するので特別の調査は不要であるが、年代別投票率は性・年齢別の投票者数を知るための特別の調査が必要である。(財)明るい選挙推進協会では、都道府県毎に標準的な投票率の1市1区1町1村(区がない場合は市を1つ、村がない場合は町を1つ追加)における標準的な投票率の1投票区(2012年の場合、計188投票区)について、調査を行っている。

 投票率は全体として低下傾向にあり、特に、1990年代以降にその傾向が顕著となった。これには、政治家の地元後援会活動の弱まって来たこと、また1996年の衆議院選から適用された小選挙区制度によって死票が増えざるを得なくなったことも影響していると見られる。

 年代別には、1967年選挙以降、60歳代はおおむね80%前後の投票率を維持しているのに対して、20歳代は60%台→50%台→40%台、そして小泉政権下の郵政選挙(2005年)と自民党から公明党への政権交代選挙(2009年)を除く1996年以降の各衆院選では30%台にまで投票率が低下している(各選挙における自民党獲得議席数は図録5235、政党別得票率は図録5231参照)。

 この結果、20歳代と60歳代の投票率の差は10%ポイント台の差から30〜40%ポイントの差に広がっている。

 下の図でデータを全体を1とする水準値にして年代別投票率の動きを追うと1993年選挙以降に年代別の投票率の差が大きく開いていった様子が上の図よりもはっきりと見て取れる。


 1983年以降の各衆院選で最も高い投票率の年代が60歳代、最も低い投票率の年代が20歳代という構造が定着した。

 年代別に水準値の推移を見ると、50歳代では対全体の水準値がほぼ一定で推移しており、それより下の年代、すなわち40歳代以下の各年代では下方シフトが起こっており、それより上の年代、すなわち60歳代および70歳以上では上方シフトが起こっている。

 70歳以上の高齢者の投票率は、実は、1990年頃までは全体と同程度かそれ以下だったのに対して、それ以降は、全体を上回ることが常態となった。年代最高の投票率が続いている60歳代も1967年選挙の時点では30歳代より低い投票率だったのが、70歳以上と平行して上方シフトした結果年代最高となったのである。

 60歳代の投票率自体は最初の図で見たとおり、長い期間にわたって、ほぼ横ばいの傾向にあるので、こうした年代別の水準の格差拡大は、主として、若年層や中年層の投票率の低下によるものと理解される。

 また、1990年選挙までは、傾向的に若者の投票率が相対的に低下していたのに対して、1993年選挙以降は、この傾向に加えて、全体の投票率が下がると若者と高齢者の差が拡大し、全体の投票率が上がると両者の差が縮小するというパターンが加わった。すなわち、若者の政治や選挙への関心が傾向的に低下しているだけでなく、その時々の選挙の関心度によって大きく変動するようになったのである。例えば、2005年の郵政選挙、2009年の民主党への政権交代選挙では若者の投票率が全体に近づいたが、それ以外では、大きく低下した。

 若年層の関心は突発的に高まるので、政治家は、若者の動きをいつも相対的に低く評価しているわけには行かなくなったといえる。また選挙の度の風向きが大きな影響を与えがちな小選挙区制度とあいまって若者受けする政治潮流に雷同した政治家が「投機的に」登場する可能性も高くなったといえる。小泉チルドラン、小沢ガールズといった存在もこれと関係があろう。今後拡大が予想されるネットを活用した選挙については、若者の投票率を傾向的に高めるなら望ましい方向だといえるであろうが、選挙毎の投票率の変動幅を大きくするだけであるならむしろ弊害が目立つことになるのではなかろうか。

 なお、若者、中年、高齢者の順で投票率が高くなることから、シルバー民主主義とでも呼ぶべき状況が到来している。図録1587では、「【コラム】シルバー民主主義の是正方策」を掲載したので参照されたい。

(2013年6月3日収録、6月4日コメント追加修正、2015年4月26日更新、2019年7月15日更新、2023年12月12日更新)


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