1.最近の状況


 国民意識における不平等感は2005年から2008年にかけて大きく改善された。2008年度の調査が実際に行われたのは2009年1月後半であり、前年9月のリーマン・ショック以降の世界不況の中で前年末には派遣切りが社会問題となり、マスコミの論調は格差批判全盛の頃であったので意外な調査結果ともいえよう。

 内閣府が発表した調査結果の要旨ではこの重要な事実についてはふれておらず、これを受けて結果を報じたマスコミ各社も例えば、「「不況で経済的には苦しくなったが、生活は満たされている。でも老後は不安だ」−。内閣府が19日まとめた平成20年度の「国民生活選好度調査」でこんな国民意識が大勢であることが分かった。」(MSN産経ニュース - 2009年6月19日)といった具合だ。

 2007年7月の参議委員選挙では市場主義批判、格差批判の風潮の中で自民党が大敗し、参議院では野党が多数を占め、いわゆる「ねじれ国会」となった。こうした状況の中で政権与党は国民各層および中央・地方の格差是正、福祉医療改善へ向け、それまでの小泉路線の修正を図ったが、こうした変化と平行して社会全体が格差是正の方向へギアチェンジを図ったことがこうした国民意識の変化に結びついていると考えられる(なお図録1850でも示したように、医療危機が叫ばれる中で医療への満足度は逆に高まっており、こうした点ともパラレルの動きとなっている。)。

 格差の実態については、むしろ小泉政権下で改善傾向となっている面もあることを当図録では示している(図録4663など)。国民意識は格差是正の実態より格差への取り組み方向に反応しているきらいがある。そう考えればこうした意外な結果もうなずけるものなのかも知れない。

 なお、こうした重要な国民意識の時系列変化を追うことができる国民生活選好度調査が2008年度で終了することとされているのは残念なことである。

2.2005年データまでの段階のコメント

 2006年の通常国会では、ライブドアの堀江貴文社長(ホリエモン)の逮捕などをきっかけにして、小泉政権(2001年4月〜)の構造改革政策によって、所得格差が広がりつつあることが、国会論戦の1つのテーマになった。ここでは、国民意識において、不平等感がどのように高まっているかを図示した。

 「収入や財産の不平等が少ないこと」という社会の課題に対して、「満たされていない」とする回答率は、1978年の40.7%から2005年の55.1%へ上昇傾向にある。バブル経済にともなって1980年代後半に、一時、不平等感が高まったが、近年はこのときを上回る値となっている。

 こうした不平等感の高まりが、実際の不平等の拡大によるものなのか、不平等に結びつくような政策を取っているから不平等になっているはずだとする感覚が生じているのか、はたまた、図録4660でふれたように、実態とはかならずしも一致しない平等神話の崩壊によるものなのか、は議論が分かれるところである。

 トクヴィル(トックビル)は「平等への愛は、これが満たされるにつれてまた大きくなる。」と言っている。逆説的なことだが、平等になればなるほど不平等感は強くなるというのだ。「境遇がすべて不平等である時には、どんな不平等も目障りではないが、すべてが斉一な中では最小の差異も衝撃的に見える。完璧に斉一になるにつれて、差異を見ることは耐え難くなる。平等への愛着が平等そのものとともに増大するのはだから当然である。」(トクヴィル「アメリカのデモクラシー」第2巻第4部第3章、岩波文庫)

 諸外国の不平等・格差に対する世論との比較については、図録4680、図録4675参照。

 図録4663には、意識とは逆に所得格差はむしろ縮小している面がある点を指摘した。

(2006年1月30日収録、6月28日更新、2008年7月9日トクヴィル引用、2009年6月23日更新)


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