世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。

 ここでは、この調査の結果から、格差と競争に対する意識について、時系列変化と各国比較のグラフを掲げた。

1.格差と競争に対する志向(時系列、年齢構造)

 近年、格差社会の問題が大きく取り上げられ、格差(収入・資産の不平等)への不満も高まっている(図録4670参照)。

 格差(収入の開き)はもっと大きい方がよいと考えている者の割合は、1990年代後半から増加し、5割以下であった割合が、2005年には65.9%に達している。反面、収入は平等にという意見は4割台から3割以下への少なくなっている。こうした意識変化がリストラ・ブームの背景となっていたと考えられる。ところが、小泉改革への批判が強まった2006年から格差問題が大きく浮上した影響で、2010年には格差是認気候と格差否定志向が大きく逆転した。そして、2019年もこの傾向が持続している。

 一方、競争志向に関しては、格差意識とは異なって、競争のよい面を評価する意見の増加傾向は、2010年以降は止まったが、なお高レベルで持続している点が目立っている。

 2005年の夏には郵政民営化をめぐって総選挙が行われ、小泉改革を支持する国民の声が大きくなって、自民党が優勢を占めた(図録5235参照)。このときの国民の気持ちは、構造改革や民間企業のリストラなどを通じ、競争原理に基づく改革が進行し、その結果、厳しい状況に陥る組織や所得減となる人間も多くなる中で、郵便局だけが既得権益を守ろうとしていることへの反発に基づくものだったろう。

 2006年初めからの格差社会にかんする関心の高まりは、一定程度の格差、あるいは競争原理を容認するからといって、それが生む社会的な弊害までも容認するわけではない、競争原理の暴走は許さないといった気持ちのあらわれだったと見ることができよう。

 2005年から2019年にかけての格差に関する意識は大きく転換したので、以下に、10段階評価の回答がどう変化したかを示した。1〜5の回答率はいずれも増加し、6〜10の回答率はいずれも減少していることが分かる。特に5と6への回答が大きく変化したことが目立っている。

 次に、年齢別の傾向を見てみると、格差を否定する平等志向は高齢者ほど大きい。

 一方、競争を是とする競争志向は若者と高齢者で低く、中堅年齢で高くなっている。

 つまり、若年層は、格差はあった方が望ましいと考えているが、競争には余り興味がないというやや矛盾しているともとれる意識を持っている。競争のない格差社会など最悪だと思われるが、若者は、そういう脈絡で競争を否定しているのではなく、単に競争とは別次元の動機で動くのに慣れてきているだけなのかもしれない。


2.競争と格差に対する志向の国際比較

 日本人の格差を是認する程度、また、競争の良い面を認める程度は、世界の中で、どの程度の位置にあるのだろうか。これを2010年期調査の段階で見たのが下の方の2つの図である。

 格差是認志向については、日本は、52カ国中、下から21位であり、どちらかというと格差否定度が相対的に高い国となっている。

 かたや競争是認度については、日本は、下から15位であり、競争志向の低い国に属する。

 調査対象国は、52カ国であり、具体的に格差是認志向の低い順に掲げると、ロシア、キプロス、スロベニア、チリ、ウクライナ、エストニア、ドイツ、ルワンダ、エジプト、中国、トルコ、ウズベキスタン、オーストラリア、ベラルーシ、スウェーデン、モロッコ、コロンビア、ウルグアイ、スペイン、ニュージーランド、日本、イラク、カザフスタン、メキシコ、オランダ、エクアドル、米国、シンガポール、ペルー、アルメニア、台湾、レバノン、チュニジア、パレスチナ、ルーマニア、アゼルバイジャン、キルギス、フィリピン、ポーランド、イエメン、ナイジェリア、韓国、アルジェリア、クウェート、マレーシア、カタール、ガーナ、パキスタン、ジンバブエ、リビア、トリニダードトバゴ、ヨルダンである。

(2006年6月27日収録、2014年5月18日更新、2022年6月6日更新、年齢別追加)


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