2011年3月11日(金)14:46に東日本太平洋沖で発生した巨大地震は、気象庁によって、「平成23年東北地方太平洋沖地震」と命名されたが、震災の名称としては新聞等の表記ではじまり閣議決定で確定した東日本大震災とされるに至った。

 「東日本大震災で確認された津波の高さ」を図録に掲げた。出所は、毎日新聞2011.3.25(港湾空港技術研究所と都司嘉宣・東大准教授の調査による)、気象庁調べ(「平成23年3月地震・火山月報(防災編)」、痕跡等から推定した津波の高さ)、NHK2012.2.19報道(東京大学大学院佐藤眞司教授の研究グループによる警戒区域内初の痕跡調査の結果)および個別事例である。

 ここの気象庁調べは、建物や樹木などに残っていた津波の痕跡から推定したものであり、これまで公表されてきた津波計の記録による最大の高さより高い場合が多い(大船渡は8.0m以上から11.8mへと3.8mも高く発表され、さらに資料では16.7mと今回津波の中で岩手・宮城の最高値となった−大船渡市白浜漁港における津波)。

 地震の大きさについては図録4363参照。また東日本大震災をおこした震源が宮城県沖の第1回から福島沖、茨城県沖へと3回にわたった点もここでふれた。

 2024年1月の能登半島地震の津波の高さについては図録4364d参照。

 図を見ると、東北・関東太平洋岸6県の非常に長い海岸線に沿って大きな津波が襲ったことが分かる。

 また、素人目には、3回のそれぞれの震源地に対応して津波の高さも3つのピークをもっているように見える。ただし、旭市飯岡地区の津波が銚子に比べ高かったのは「遠浅の海底地形が要因」という報告もある(読売新聞2011.3.30)。

 福島第一原発を襲った津波は14メートル以上に達し、それが設計想定外だった点については図録4112参照。福島第一原発を襲った津波の高さは東京電力による被害調査により14〜15mと発表された(毎日新聞2011.4.9)が、その後、7月8日に東京電力の詳細調査結果として、第一原発13.1m、第二原発9.1mと発表されたので図はこれを反映させた。これは東電が「北海道から千葉県までの津波被害データなどを基にシミュレーションを実施。計器故障で途絶えていた検潮所のデータを推定した」もの(東京新聞2011.7.8ウェブ)。

 2012年2月には、それまで調査ができなかった福島県の警戒区域内の調査結果が公表された。この結果では、富岡町が21.1mと最大津波に襲われたことが明かとなった。さらに福島第一原発、第二原発を襲った津波はけっしてこの地域の津波の中で特異なものではなかったこと、すなわち第二原発を含めてさらに大きな災厄に見舞われていた可能性もあることが明らかになった。福島第二原発で大事故を避けられた理由は、「津波の高さが第1原発ほどでなく、設備の損傷が少なかったため」(増田尚宏所長)とされている(毎日新聞2012.2.9地方版福島)。2012年2月には福井県の大飯原発3〜4号機、石川県の志賀原発2号機のストレステストの結果が公表され、炉心が損傷しない津波の高さが前者で想定の4倍の11.4m、後者で想定の3倍の15.3mとされていた。東日本大震災級の大津波は日本海側では起きないので大丈夫という訳であろうが実際に起こった津波の高さの方に説得力があることは否めない。

 海岸の地形、湾の形状といった地理的環境によって、各地の津波の高さや被害の状況は異なってくると考えられる。例えば、宮城県の松島湾内の松島町や利府町は周辺地域と比べて浸水面積も小さく、被害者数も少なくなっている(図録4362a参照)。津波の高さは周辺より低くなっている。地元では、これを松島(日本三景、在城島、兜島等)のおかげと考えている。「そう言えば、チリ地震の津波でも湾にはほとんど被害はなかった。(中略)「松島には津波が来ない」。地元の人は口をそろえていた。湾に並ぶ島々が津波を受け流し、到達時間を大きく遅らせてくれた。」(東京新聞2011.4.6「松島が守ってくれた−60歳住民「伝説、語り継ぐ」」)

 また複数の津波の重なりも津波の高さに影響する。2012年2月に警戒区域内の初めての調査が実施され、その結果、「福島県の沿岸で津波が高くなる傾向が見られたことについて、専門家は「福島県沖の北側と南側から押し寄せた津波が重なり合った可能性がある」と指摘しています。」(NHKnewsWeb2012.2.19)

 大震災によって失われた干潟の生態系のその後の変化を仙台湾などで調査し続けた東北大のグループによると生態系はよみがえっているという。生態学が専門の占部城太郎教授によると「津波が高いところほど、生き物は減っていました。10メートルの津波が襲った干潟では、以前の2割の種類の生物しか確認できませんでした。しかし、年を経るごとに回復し、7〜9年後には、イソミジン、ウミニナなどの貝類、アシハラガニ、ミズヒキゴカイなどさまざまな生物が、ほぼ震災前の水準に回復しました」とされる(東京新聞、2022年12月4日)。

確認された遡上高


 東京大地震研究所の「都司准教授らの調査の結果、宮古市田老小堀内で津波の到達した高さが37.9メートルに及んだほか、同和野35.2メートル、同青野滝34.8メートル、宮古市・松月31.4メートル、同市・真崎30.8メートル−−の計5カ所で30メートルを超えた。明治三陸津波で高台へ運ばれた大きな岩として有名な「津波石」(標高25メートル)が残る岩手県田野畑村の羅賀地区では津波石を超える27.8メートルに達した。明治三陸津波では岩手県大船渡市で38.2メートルを記録したが、30メートル超は他に同県陸前高田市の32.6メートルだけで、昭和三陸地震(1933年)による津波は最高28.7メートル(大船渡市)だった。」(毎日新聞2011.4.24)

「東日本大震災による津波が押し寄せた岩手県宮古市で、陸地を駆け上がった津波の高さ(遡上(そじょう)高)が40.5メートルに達していたことが、研究者らでつくる「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ」の調査で分かった。これまでの最高値は、明治三陸津波(1896年)で同県大船渡市に残る38.2メートルだったが、今回はそれを上回り、観測史上最大の津波であることを裏付けた。」(毎日新聞2011.7.16)

「宮城県女川町沖の無人島・笠貝島で、東日本大震災の津波の遡上(そじょう)高(陸地の斜面を駆け上がった高さ)が約43メートルに達したとみられることが16日、東京大地震研究所の都司嘉宣准教授の調査で分かった。(中略)都司准教授は、笠貝島で松などの樹木が倒され津波が到達したとみられる痕跡を確認。島に上陸できなかったが、近くの島から望遠レンズで撮影し分析した。笠貝島に置かれた標高31.9メートルの三角点との比較では、津波痕跡は43.3メートルに達していた。ただ写真を基にした推定であり、上陸して測定していないため、1メートル前後の誤差はありうるという。」(河北新報2012.3.17))

 国土地理院は、今回の津波の浸水範囲をあらわした概況地図(21枚)をホームページ上で公表している。東日本の被災市町村の被害状況と浸水範囲地図との対応表は図録4362a参照。

 以下に、波高の情報を含む「明治以降に起きた国内外の主な津波被害」の一覧表を掲げる。

明治以降に起きた国内外の主な津波被害
名称 年月日 マグニチュード 同Mwベース 特徴
明治三陸地震 1896年6月15日 8.25 8.0b 本州で過去最大の38.2メートルの津波。死者約2万2000人
関東大震災 1923年9月1日 7.9 7.9b 熱海で最大12メートルの津波。津波の高さ地図は図録4386参照。
昭和三陸地震 1933年3月3日 8.1 8.4b 最大28.7メートルの津波が太平洋岸を襲い、死者・不明3064人
東南海地震 1944年12月7日 7.9 8.1b 熊野灘などで6〜8メートルの津波。死者・不明1223人
南海地震 1946年12月21日 8.0 8.1b 静岡県から九州の海岸で最大6メートルの津波。死者1330人
チリ地震 1960年5月23日 9.5 9.5b 24日未明から津波が日本各地に到達。高さ最大6メートルに達し、国内の死者・不明142人、家屋1500軒以上が全壊
日本海中部地震 1983年5月26日 7.7 7.7a 秋田、青森など全国で死者104人。うち100人が津波で亡くなった
北海道南西沖地震 1993年7月12日 7.8 7.7a 地震発生直後に北海道奥尻島で最大約10メートルの津波。死者202人
パプアニューギニア地震 1998年7月17日 7.1 7.0b 推定最大15メートルとみられる津波が発生。死者約2700人
十勝沖地震 2003年9月26日 8.0 8.3a 北海道、本州の太平洋岸で最大約4メートルの津波を観測
インド洋大津波 2004年12月26日 8.8 9.0b スマトラ沖地震に伴う大津波でインド洋、アフリカ東海岸まで12カ国で死者・行方不明者28万人以上に
ジャワ島沖地震 2006年7月17日 7.2 7.7* 最大約7メートルの津波。インドネシアで死者約700人
(注)マグニチュード以外は毎日新聞(2011.3.12)による。阪神・淡路大震災はM7.3(Mw6.9a)。「東北地方の太平洋沖では、869年(平安時代)にM8.3と推定される「貞観地震」が起きた。記録によると、津波で千人以上が死亡。震源のはっきりした場所は分からないが、津波で陸地に押し上げられた堆積物が宮城県から福島県にかけて確認された。」(東京新聞2011.3.14)
(資料)マグニチュードは以下による(Mwの資料は記号であらわした)
 a 理科年表(平成23年)「日本付近のおもな被害地震年代表」:国内の地震
 b 理科年表(平成23年)「世界のおもな大地震・被害地震年代表」:海外で発生した地震
 c 理科年表(平成20年)「世界のおもな地震(2006年)」同所同日5回のうち最大の第1回目:ジャワ島沖地震同日5回のうち最大の第1回目
 * 米地質調査所(USGS)http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eqinthenews/2006/usqgaf/

(2011年4月3日収録、図録4363から独立、4月6日毎日新聞2011.4.3(気象庁調べ・現段階で観測された最大波高)を同じ気象庁調べだが痕跡からの推定に変更、松島のコメント追加、4月9日福島第一原発の津波の高さをNHKニュース(14m以上)から東電被害調査結果に更新、4月15日遡上高記録追加、4月17日陸前高田市民体育館事例追加、4月24日遡上高記録追加、7月9日東電調査更新、12月30日気象庁資料により更新、2012年2月20日警戒区域内データ追加、2月22日ストレステストの津波の高さ追加、3月17日遡上高データ更新、2022年12月5日干潟の生態系)


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