データは、水資源の大切さを啓発する目的で、オランダ東部のトウェンテ大学(University of Twente)とユネスコの共同プロジェクトとして運営されてるホームページ「ウォーター・フットプリント」にもとづいている。 飲み水や洗濯などで直接使用する水だけでなく、食品や日用品を消費すればそれらの生産に要した水を間接的に使用していることとなり、それらの全体を意識することが大切だとされる。 バーチャル・ウォーター(仮想水)という用語もあるが、こちらは食料輸入、および産業製品や各種原料の輸入は、それと同時にそれらの生産に必要な「水」も輸入していることになることを示した概念であり、見えないけれど水を使っているという点についてはウォーターフットプリントと重なる考え方である。なお生態系への負荷全体を示すエコロジカル・フットプリントについては図録4190に掲げた。 図を見るといろいろなことに気がつかされる。 気軽に使用する紙であるが、A4用紙1枚の消費は実は水を10リットル使用していることになる。パン1切れでも40リットルの水消費である。ハンバーガーに至っては1個食べると何と2400リットルという膨大な水消費につながる。 似たような食品でも水の使用量がかなり異なる場合がある。紅茶1カップは、茶葉3g分の生産に要する水資源を考えに入れると、実は、30リットルの水の消費に値する。一方、コーヒー一杯は140リットルと紅茶1カップの4倍以上の水を消費している勘定となる。これは、コーヒー豆の生産の方が多くの水を要するためである。 同様に、ビールを飲んだ方がミルクを飲むより、地球の水をかなり節約することになる。 農畜産物に関しては、穀物より畜産物の方がウォーターフットプリントは大きい。トウモロコシ100gの水消費は90リットルだが、牛肉100gは1550リットルと17倍の水を要する。家畜は食肉に至るまでに大量の飼料作物を食べるほか水を飲み、水を浴びもするからである。 穀物の中ではトウモロコシや小麦といった作物に対して、米は2〜3倍の水を使っている。乾燥地帯でも育つ作物と水の豊富なアジアの水田で育つ作物という違いがある訳である。経済学の始祖というべきアダム・スミスはアジアの人口密度の高さを面積当たりのカロリー生産性にもとづくものとしているが、だからといって、どこでも飢餓からの脱却のために米をつくればよいというわけにはいかないことが分かる(図録4335に世界の降水量、図録0430に世界の作物地図を掲げたので参照されたい)。 畜産物の中では鶏肉や山羊肉に対して牛肉のウォーターフットプリントは大きい。飼料効率の違い、すなわち同じ量の食肉の産出に要する飼料の全体量の違いなどが影響していると考えられる。 自動車など工業製品の個々の品目については算出が困難であるので、工業製品一本の値が示されている。1米ドル(80〜100円)の工業製品を生産するためには世界平均で80リットルの水が必要となっている。ただ国により工業製品の種類や水の使い方が大きく違うため同じ1米ドル当たりでも以下のように国別にウォーターフットプリントはかなり異なる(Hoekstra, A.Y. and Chapagain, A.K. (2007) Water footprints of nations: water use by people as a function of their consumption pattern, Water Resources Management. 21(1): 35-48.)。 米国 100リットル ドイツ、オランダ 50リットル 日本、オーストラリア、カナダ 10〜15リットル 中国、インド 20〜25リットル 日本では厳しい排水規制もあって工場内の水の循環利用が進んでおり、工業製品の水消費は小さい。百円ショップで1つ商品を買うと日本製なら10リットル、中国製なら20リットルの水を使っている勘定となるわけである。 なお、国民消費にかかるウォーターフットプリントの国際比較については図録4230参照。 (2008年12月22日収録)
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