ウォーターフットプリントは、各国の国民が直接利用する飲み水や洗濯用水などの家庭用水の他、食べ物や衣類、耐久消費財などの消費財の生産に必要であった水について、年間一人あたりの使用量の合計をあらわしている(品目比較については図録4220参照)。 データは、Hoekstra, A.Y. and Chapagain, A.K. (2007) Water footprints of nations: water use by people as a function of their consumption pattern, Water Resources Management. 21(1): 35-48.(ホームページ「ウォーター・フットプリント」載録)にもとづいている。この論文の題名であるが「諸国民のウォーターフットプリント」となっていてアダムスミスの「諸国民の富」にならった命名である点が興味深い。 この論文によれば、諸国民のウォーターフットプリントを決定する要因としては以下の4つが主要のものとされる。 ・消費規模(国民総所得の規模と関連) ・消費パターン(肉類消費が多いか少ないかなど) ・気候(作物の生育条件) ・農法(水利用の効率性) 米国のウォーターフットプリントは年間1人当たり2,483m3と日本1,153m3や世界平均1,243m3の2倍以上であり、主要国の中では最大なのが目立ってる。これは一人当たりの肉類消費が大きいのと工業製品の消費レベルが高いことが大きな要因となっている。図を見ると工業製品(特に国産品)のウォーターフットプリントが他国と比較して格段に大きくなっている。農産物のウォーターフットプリントが比較的大きいのは穀物に比較してウォーターフットプリントの大きな肉類の消費が1人当たりで世界平均の3倍以上と非常に多いためであろう(品目を比較した図録4220参照)。工業製品に関しても消費する物量が多いことに加えて水をふんだんに使った生産が行われているためと考えられる。 米国と同じようにウォーターフットプリントが大きいが、要因が全く異なるのはタイである。タイでは工業製品のウォーターフットプリントが小さく、農産物のそれが大きい。しかし農産物に関しても、米国のように肉類消費が多いためでなく、作物生産の水効率が悪いためウォーターフットプリントが大きくなっている(タイの米収量は1997〜2001平均で世界平均3.9トン/haに対して2.5トン/haという)。 主要国の中でウォーターフットプリントが最も小さいのは中国の702m3である。 豊かな国ほど工業製品によるウォーターフットプリントが大きいという傾向がある。カナダ、フランス、オランダなどがその例である。日本は欧米と同様消費大国であるが、工業製品のウォーターフットプリントはそれほど大きくない。工業生産の水効率が高いためであろう。 ウォーターフットプリントの対外依存度も関心を引く(下表参照)。 世界平均では、対外依存度(ウォーターフットプリント全体に占める農工輸入品の比率)は16.1%であるが、日本は64.4%と6割以上の水が海外依存である。主要国の中で最も高い海外依存度の国はオランダ82.0%であり、ヨルダン73.0%、英国70.4%が続いている。逆に依存度の低い国はインド1.6%、バングラデシュ3.6%などである。 ちなみにヨルダンは水効率のよりよい米国から小麦や米を輸入することによってウォーターフットプリントを縮小することに成功したといわれる。 ウォーターフットプリントの国際移動(国際移動する水をバーチャル・ウォーターともいう)が水の安全保障にとっても重要な関心事となっている。農産物の輸出国では、作物や飼料の輸出とともに水も輸出していることとなる。米国では作物生産に要する水の29.4%は輸出しており、オーストラリアに至っては、83.0%を輸出に振り向けている勘定となる。工業製品も同様であり、いまや世界の工場となっている中国では、工業製品の生産に要する水の35.9%を輸出していることとなる。 1人当たり年間ウォーターフットプリント(1997〜2001年)
なお生態系への負荷全体を示す主要国のエコロジカル・フットプリントについては図録4190に掲げた。 (2008年12月22日収録)
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