世界には温暖な地域と寒冷な地域とがあり、また多くの雨が降る湿潤地域と雨の降らない乾燥地域とがある。 北半球の高緯度地域は図中の上の方の段、低緯度地域は中下段、南半球は下2段に位置するが、経度の高低に対応した気温の高低、および気温の高い夏が7〜8月か12月〜1月か、で北半球か南半球かが明解である。また、赤道に近い地域は気温の季節変化に乏しいことも目立っている。 地球上の海域と陸域の間で大気の移動(風、気流)がなければ、水分の蒸発の多くは海域なので降雨も海域に限られることとなろう。実際は水分が気流に運ばれて陸域でも雨が降る。陸域の中でも水分が海から運ばれないか、運ばれた以上に蒸発してしまう地域があり、そうした地域は砂漠地帯となってしまう。高温の地域の砂漠は蒸発の要因もあるが低温地域の砂漠は降雨量の少なさによっている。 赤道付近で暖められた空気が上昇して雨を降らせ、その結果乾いた空気が南北に流れ、中緯度地帯が乾燥する。図のカイロ〜エルサレム〜テヘラン〜ニューデリー北京、そして東アジアや東南アジアを除いて、ロサンゼルスへと至る中緯度地帯に、サハラ砂漠、アラビア半島、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠といった乾燥地帯が広がるのはそのためである。ところが日本を含めたアジアの多くは中緯度地帯であっても湿潤な気候となっている。これは、気流の動きによる。 水分を運ぶ気流で重要なのは、季節によって蛇行しながら年中西から東へ吹いている赤道西風である。アジア・モンスーン地域では、高温多湿、夏に片寄った降雨が特徴となっているが、これも赤道西風の影響によるものである。 夏、アフリカ西岸からナイジェリアを経て、雨を多く降らせながらエチオピア高地(アディスアベバ)を越えた赤道西風は、東アフリカ山地を乗り越えた段階でマダガスカル方面からの南東気流を引き寄せながら一緒になってインド洋上で多量の水蒸気の補給を受けながら、いわゆるアジア・モンスーン(季節風)としてヒマラヤの上昇気流に引き寄せられインドへ向かう。 赤道西風はインドの高地を越える際に多量の雨を降らせるが、厚さがせいぜい5000メートルのこの気流は、8000メートルのヒマラヤに進路を阻まれ、多量の降雨を伴いながら、そこから東へと向きを変える。 一方で、フィリピン西斜面に7月頃大雨を降らせ、そのまま太平洋の島々を経て、中南米へ向かうとともに、ヒマラヤにぶつかった風の一部は南シナ海を通って異常に北上する「湿舌」が認められ、そのコースでは九州や韓国にも大雨を降らせる。これが東アジア全体にアジア・モンスーン型の気候が支配的であるゆえんである。なお、アジアに特有な梅雨現象の理由としては、偏西風が冬にはヒマラヤ・チベット高原の南を通り、夏には北を通るその変わり目で通り道が南北に分かれるために生じるという見方もある(NHKスペシャル2011)。 なお、赤道西風は冬季においては、ずっと南方を通るようになる。赤道直下から南の方に位置するシンガポール、ジャカルタ、ラバウル方面では、夏季より冬季により多くの降雨が見られるのはこのためである。 こうした赤道西風の影響下にある地域を除くと、それほど雨が多く降る地域は一般的でない。これ自体が高緯度地域にある欧米地域の特徴となっている。降雨があるとしても冬季である。従って、欧米地域は、作物的には、夏の高温多湿と適合的な稲作に対して、麦作が中心の地域となる(図録0430参照)。コムギや大麦という言葉はあっても、そもそも「麦」という言葉は欧米にはなく、「麦」はイネ科の冬作物一般を指すアジアならではの用語である。 西岸海洋性気候のロンドンやシアトルは、高緯度にもかかわらず、どの月も平均気温が0℃を下回らず比較的暖かい。 乾燥・冬小雨の地中海式気候のローマ、エルサレムに対して、夏冬をひっくり返した同様の気候がチリ(サンチャゴ)に見られ、やはりワインの産地となっている。 なお、対象とした都市・地域は45地点、具体的には、ロンドン、ベルリン、カイロ、ポートハーコート、ナイロビ、ケープタウン、ストックホルム、ローマ、エルサレム、アディスアベバ、モスクワ、テヘラン、ニューデリー、コルカタ(カルカッタ)、ウランバートル、ペキン(北京)、キングズパーク、バンコク、シンガポール、ハルビン、ソウル、シャンハイ(上海)、マニラ、ジャカルタ、ウラジオストク、東京、タイペイ(台北)、アガニア、マダン、シドニー、アンカレジ、ホノルル、ウェリントン、シアトル、ロサンゼルス、メキシコシティ、サンホセ、リマ、サンティアゴ、モントリオール、ニューヨーク、ハバナ、カラカス、リオデジャネイロ、ブエノスアイレスである。 (参考文献) NHKスペシャル「日本列島」プロジェクト編「NHKスペシャル 日本列島 奇跡の大自然」NHK出版(2011) 鈴木秀夫「風土の構造 」大明堂(1975) 高谷好一「東南アジアの自然と土地利用 (1985年) (東南アジア学選書〈1〉) 」勁草書房(1985) 中村和郎他「日本の自然〈5〉日本の気候」岩波(1996)他 (2007年8月20日収録、2011年3月9日コメント加筆)
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